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騎士道 10


 振り回される棍は変幻自在。

 ある時はこれまで通りに直線的な攻撃であり、またある時は急激な変化を見せ軌道を読ませない。

 双方を織り交ぜたパターン化されていない、トリッキーな動きを見せ始めたドーエンの戦い方は、僕等を翻弄するばかりであった。


 最初はただの考えなしなパワーファイターだと思っていたのだが、存外器用に攻撃してくるものだ。

 もちろん基本的な素早さなどは変わらないのだが、変化した攻撃方法は十分にそれを補って余りあるもの。

 ここまでで確立したように思えた攻撃方法がまるで意味を成さず、僕とエリノアは近寄ることができずに、ただ逃げ回るばかりとなっていた。



「どうした戦士よ! その程度か!?」



 これまでの豪快ながらも淡々とした気性が嘘のようだ。

 ドーエンは狂気を顔面に貼り付け、愉快そうに武器を振り回し続ける。

 そんなことはないのだろうが、まるで武器がその本性を曝け出す効果を持っているかのようだった。



 激しく振り回されている、二つに分かれた武器を見やる。

 普通に棒同士を鎖で繋ぐ程度であれば、小部族連合の鍛冶師でも製造するのは容易だろう。

 だが捩じることによって二つに分かれ、内部に十分な長さの鎖を収容している構造。

 これに関しては、連合の冶金術で作れる代物だとは思えなかった。


 まず間違いなく、これは同盟側の工房から入手した武器に違いない。

 こんな一般の市場に流通していないような、特殊性の高い武器までも流しているとは思ってもみなかった。

 今になって再び、余計なことをしてくれたものだという感情が首をもたげる。



「どうするのですか。正直これでは近づけません」



 飛び退り僕の近くへと立ったエリノアが、額に汗を浮かべ呟く。

 彼女もまたこれまでしてきたパターンが通用しなくなったことにより、次の一手を考え思考を巡らせているようだった。



「さあ……、今のところ打開案が見つからない。いったいどうしたものやら」



 ここで虚勢を張って、存在しない案があるなどと言えはすまい。

 一撃で仕留めるだけの攻撃が行えるのであれば、少々怪我を負ってでも叩き込むという手段が仕える。

 だが手元に在るボロボロな中剣と、エリノアが持つ刺突に特化した剣だけではそれも少々難しいか。



「わたしもこれといった妙案が浮かびません……。今は避け続けるしかないのでしょうか」


「口惜しいですが。とりあえずは、増援が来るのを辛抱強く待つといったところですかね」



 焦燥の表情を浮かべるエリノア。

 その気持ちは若干ながら理解が出来る。ここまで何度となく攻撃を当ててきたが、それが結果として倒すという結果に繋がっていないのだ。

 彼女が自身の力不足を悔いているというのは、想像するまでもない事実だった。




『はてさてどうしたものやら』


<本当に何も案がないのですか?>


『"こいつ"の出力を全開にして、目一杯殴ってやるってのはどうだ?』



 自問自答的に巡らせた思考に、エイダが反応する。

 僕は自身の腕に嵌めたブレスレット型の装置を見やり、冗談交じりで告げてみた。

 実際にこいつの出力を上げ、身体に這わせた力場の出力を限界まで上げてやれば、ドーエンを殴り倒すことは可能だろう。



<おそらく拳だけで身体を粉砕する破目になるでしょうね。彼女にその光景をご覧に入れますか?>


『……没だな。これから先やり難くなるのは勘弁してもらいたい』



 装置の出力を上げた状態であれば、身体の方はある程度の強度も増してはいるはず。

 しかしあれを食らっては、痛いと叫ぶ程度では済まないだろう。

 骨の数本どころか、当たり所が悪ければ内臓をやられるかもしれない。

 それに接近して攻撃を叩き込むのはわけないが、そんなことをしてしまえば、ドーエンの身体は目を背けたくなる惨状となるのは目に見えている。

 後から来た助けに来るであろう傭兵たちに、いったいどうやって状況を説明したものやら。


 これが何とも自分勝手な理由であるというのは理解している。

 だがこの惑星で今後も生きていく可能性を考えれば、僕にとっては切実な理由であった。

 もちろん状況次第でそれは解禁せねばならないし、万が一の時には使うのに躊躇いはないのだが。




『だがとりあえず、あの武器だけは何とかしておきたいな。加勢が来てもあれじゃ近づけない』



 ドーエンが振り回す武器の勢いは凄まじく、とてもではないが近づいて無事では済むまい。

 だが逆に言えば、アレさえなければ対処は可能であるとも言える。

 今の内に何とか武器を破砕するか、あるいはあの使い方を出来なくさせればいい。



『狙うとしたら……、やっぱり鎖だな。エイダ、こいつであれを切れるだろうか?』



 手にした中剣を鳴らし、軽く構える。

 本来強度を追求して作られたはずの剣は、幾度かの攻撃を受け既にボロボロ。

 新品であったはずのそれは、もう次以降に使おうという気を起こさせない有様となっていた。



<――強度的には問題ないかと。おそらく剣も使い物にならなくなるでしょうが>


『上等だよ。元から限界を迎えてるんだ』



 どちらにせよもう処分せねばならない剣だ。最後に相討ちへ持ち込めるなら、上々の成果と言っていい。

 ならばあとは如何にして接近するか。

 命が要らないというのであればともかくとして、流石にこの身を犠牲にして攻撃するというのは、遠慮願いたいところだ。


 となればここは少々危険だが、彼女に助力を願うしかない。



「エリノアさん。少し……、お願いしてもいいですか?」


「何なりと言ってください。わたしの覚悟はできています」


「ではヤツの注意を逸らしてもらえますか。その隙に僕があの武器をなんとかします」



 それだけ告げるなり、エリノアは言葉も無く頷くなりドーエンへ向け駆ける。

 具体的に何をどうすると言ったわけでもないというのに、彼女は僕の頼みを快く了承してくれたようだ。

 自身に危険が及ぶ可能性が高いことなど、重々承知であろうに。


 ならば期待をして託してくれたであろう、エリノアの期待に応えなければ。




 駆けるエリノアは射程のギリギリまで近づくと、足を止めて攻撃を待つ。

 振り回される棍を、タイミングを計り軽くステップ踏んで回避。そのまま別の場所へと移動した。

 これまで前に位置取っていた僕が後ろに下がり、エリノアが近づいたことによりドーエンの注意は彼女へと向く。

 その隙に僕は視界から外れ、ヤツの攻撃によって更にボロボロとなった廃屋の陰へ。

 勿論僕の行動に向こうも気付いてはいるだろうが、ひとまずはそれでいい。



<出力を全開で起動しますと、身体には相応の負荷がかかります。よろしいで――>


「問題ない、やってくれ」



 一応の確認をしてくるエイダの言葉を遮るように答える。

 すると直後に鼓膜が震えるような感覚と共に、体表を奔る悪寒のようなものを感じた。

 次第にその間隔は強まっていき、遂には肌へ触れる空気の冷たさや、ドーエンが振るう武器の呻る音。手に握る武器の感覚さえもが失われるのに気付く。

 加えて身体にはズシリと重しが圧し掛かったような感覚。

 動きを妨げる類の重みとは違うので、これがエイダの言うところの、身体への負荷というものだろう。



「……あんま長くは持たないな」



 これまで一度として使ったことのない、限界まで引き上げた性能。

 身体に痛みなどはないものの、長く使用するのは不可能に違いないというのが、感覚として理解できる。

 民生品の装備にしては、随分と強力な品もあったものだ。



 高い負荷に耐えつつ廃屋の崩れた壁から顔を覗かせると、視線の向こうではエリノアが必死に攻撃を回避し続けていた。

 迫る攻撃の射程外ギリギリを保ち、着かず離れず注意を引きつけようとしている。

 しかし彼女の息が上がっているのは見るからに明らかで、これ以上長引かせては危険であるのは間違いない。


 一度、二度と、鎖の鳴る音と共に鉄棍が振り回され、エリノアはどんどん後退していく。

 次第に回避運動からは精彩が失われていき、彼女が追い詰められ始めているのがありありとわかった。


 辛うじて距離を取り、剛腕によって振り回される棍を、エリノアは自身の刺突剣によって受け流そうとする。

 しかし強力な破壊性を持つその攻撃を受けるには、細身なそれでは余りにも頼りなかった。

 受けた瞬間に強く剣身がしなったかと思うと、そのまま半ばから砕け、金属の欠片を撒き散らしながらエリノアは横へと弾き飛ばされていく。


 バランスを崩し勢いと共に宙へ浮かぶエリノア。

 その好機を見逃すまいと、ドーエンは追撃すべく足を踏み込んだ。



<今です>



 エイダの声が届くのが早いか否か、僕は廃屋の壁裏から躍り出る。

 そのまま全身に力を込め、全力で跳躍。追撃を行おうとするドーエンへと迫った。




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