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騎士道 08


 夜闇の中、足を忍ばせ廃屋の中へ。そこで抜身の剣を無言のまま振りおろし、あるいは下へ向けて突き刺す。

 眠る小部族連合の戦士たちは、ある者は眠ったままで絶命し、ある者は受けた衝撃に目を見開いてから事切れていく。

 眠る状態で不意を打ってしまえば、いかに勇猛果敢な部族の戦士と言えども形無しか。


 共通しているのは声一つ出さないこと。

 というよりも、声を出せぬよう喉を裂いていたりしているからなのだが。


 僕にはお上品な戦い方など心得が無い。

 いい加減人の命を奪うのも慣れてきたものであり、眠っている敵を見れば、ただ単純に楽をして戦力を減らす好機であると思えていた。

 これが騎士として訓練を受けてきたエリノアであれば、流石に目を背けるのだろうが。



「アル、そろそろ感付かれたみたいだぞ」


「了解だ。こっちは済んだから合流しよう」



 廃屋の入り口で周囲を警戒していたヴィオレッタが、中を覗き込んで告げる。

 外ではいい加減襲撃を察知されたようで、所々から悲鳴や怒声が上がり、武器を打ち合う音が夜風と一緒に漂い始めていた。 



「どうした?」


「いや……、なんでもない」



 少々様子のおかしなヴィオレッタの顔を見れば、浮かんでいるのはどこか渋い表情。

 視線は逸れて壁を向いており、こちらを向こうとはしていなかった。


 何でもないとは言っているが、足下に転がる眠ったままの死体から目を背け、中に入るのを躊躇しているのは明らかだ。

 彼女もそれなりにこう言った状況に慣れてきたはずだが、鉄の臭い篭る空間というのは遠慮したいのだろう。

 僕自身も決して好んでいる訳ではないのだが。




「これで倍以下の人数差には出来たかな」


「さてな、詳しい人数はわからん。だが初撃でかなりの数は減らせただろう」



 死の芳香が充満する廃屋から出て、軽く周囲を見渡す。

 廃村のそこかしこからは剣戟の音が響き、あるいは悲鳴と怒声が空気を揺らす。

 僕等と同時に突っ込んだ傭兵たちによって、見張りや眠っている戦士の幾らかは仕留めたはずだ。

 上手くいっていれば、最初あった三倍以上の人数差を、かなり縮められたことだろう。



「むしろここで減らしておかないと、一旦下がって出直す破目になってしま――っと!」



 周囲の状況を確認しながら呟いていると、不意に視界の端へ映った銀光。

 反射的に上体を仰け反りそれを回避すると、手にした剣で銀色の線が伸びてきた暗闇を一閃。

 直後に感じるのは、腕へ散る飛沫の熱とドサリという音。



「油断して暢気に話しているからだ。行くぞ」



 気を取られて危うく負傷するところだった僕へ向けられる、ヴィオレッタの辛辣な言葉。

 その言葉に反論の余地もなく、先を行く彼女の後ろを進み、廃村の中央部付近へと移動した。




 移動した先では既に、各々の傭兵たちが部族の戦士を相手に戦いを繰り広げていた。

 一対一、あるいは一対二で戦闘を行っているが、そのどれもが優勢を保っているように見える。

 傭兵団の中でも比較的精強な者が集められているというのもあって、個々の力量ではこちらがずっと上回る。

 装備の質に関しても、遥かに良い品を身に着けていたというのもあるだろう。


 ただそんな中、一人随分と派手に立ち回っている者が。

 視線を向けてみれば、そこにあったのは四人の戦士を相手に圧倒するレオの姿。


 彼は自身の大剣を振り回し、首を落とさんと迫りくる戦士を、次々と薙ぎ倒し続けていた。

 切れ味など一切考慮されず造られた、鈍器にも近いその大剣が呻る度、真っ向から受けた戦士の腕が千切れ飛び、あるいは胴体が潰し斬られる。

 切り殺すというよりは圧殺するという表現が近いであろう戦いに、勇猛さを信条とする部族の戦士も、流石に腰が引けているようだ。



 やはりレオは頼りになる。あまりにも敵味方入り乱れた混戦であればともかく、このくらいの密度であれば、彼は無類の強さを発揮してくれる。

 なにせあの身長程もある巨大な大剣を振り回しているだけで、次々と敵が倒れていくのだから。



「相変わらず滅茶苦茶な戦い方をするもんだ」


「まったく……、あの馬鹿力はどこから来るというのだ。私はいい加減、あいつが人間であるのか疑わしくなってきたぞ」



 迫りくる戦士を愛用の短鎗で切り伏せながら、呆れ混じりの言葉を吐き出すヴィオレッタ。

 呟かれた内容には僕自身も同感で、あんな攻撃手段を生身の人間が行っているのを目の当たりにする度、信じられぬと同様の感想を抱いていた。


 未だにレオが見せる怪力の正体は知れず、戦闘中に変わる彼の瞳の色と共に、不可解な謎として僕の関心を引き続けている。



 とまあレオに関しては安心なので、放っておいても大丈夫だろう。

 彼には悪いが今心配せねばならないのは、なぜか姿の見えぬエリノアなのだから。


 その彼女はと言えば、当初はヴィオレッタがフォローに周ろうとしていたのだが、戦場の流れというか配置上の理由で、レオに役目は受け渡されていた。

 しかし今はそのレオとも離れ、一人何処かへと行ってしまっている。いったいどこに行ってしまったというのか。




 僕は迫る戦士を斬り捨てながら、エリノアの姿を探し始める。

 その場をヴィオレッタに任せて移動し、敵を切り伏せ進んでいく。

 そうしてしばし廃村内を走り回って探していると、村の隅に差し掛かった時、不意に視線の先を何かが通り過ぎていくのに気付いた。


 移動したというよりも、すっ飛んでいったと表すのが正しそうなそれ。

 目で追った先へと急ぎ向かってみると、地面に転がったソレは僕の探していた対象であった。



「エリノアさん!?」



 すぐさま駆け寄り抱き起したのは、暗闇でも映える赤毛を短く切った女性。いつの間にかレオの傍を離れ、一人行動していたエリノアだ。

 軽く頬を叩いて意識を確認すると、どうやら気を失ってはいないようで、薄目を開け痛みに悶えていた。

 彼女はなぜかレオと離れ単独で行動し、何者かによって盛大に吹き飛ばされたのだろう。


 立ち上がりエリノアが飛んできた方向へと振り向くと、暗闇の先からヌッと姿を現したのは一人の男だった。

 空を覆っていた曇が部分的に晴れ、柔らかな月明かりが廃村へと降り注ぎ、その巨躯を映し出す。



「あんたが彼女のお相手か?」



 エイダに指示し、エリノアの身体に深刻な異常がないかだけチェックさせる。

 それだけを指示すると、月明かりによって浮かび上がったその男へと、あえて挑発的な空気を纏わせ近づきながら問うた。


 目の前に姿を現した男は、筋骨隆々とした巨大な身体から、小馬鹿にしたような眼つきで僕を見下ろす。

 身の丈にして二m半はくだらないだろうか。レオやマーカス以上どころか、野生の大型肉食動物と同等の体格に、唖然とせざるをえない。

 この惑星の栄養価に乏しい食生活で、よくぞここまで大きくなったものだ。



「小僧、貴様が一団で最強か?」



 唐突な問いかけ。しかしレオとよく似た、簡潔すぎて伝わらないであろう内容に首を傾げる。

 ただおそらくではあるが、男はこう問いたいのだろう。「攻めてきた傭兵団の中で、お前が最も強いのか」と。

 出会い頭にそんなことを問うてくる思考は理解できないが、折角意思疎通を図ってこようというのだ。

 エリノアが痛い目に遭わされたのを差し引いても、多少なりと相手してやってもいいだろう。



「さあね。傭兵団には僕よりもっと強い人が居るけど、今ここに居る中ではどうだか」


「強者ならば手合せ願おう。弱者ならば失せよ」



 どういった意図でそれをしたいのかは知らないが、こいつはどうやら闘争を求めているようだ。

 北方の部族においては、そういった気質も珍しくはないと聞く。よもやそれだけを求めてここまで来たとは思えないが。


 単純に戦いたいというのであれば、相手をするのはやぶさかではない。大した負傷ではないものの、エリノアが痛い目に遭わされているのだから。

 それにこの男が発した、弱者ならば失せろという言葉が若干気に入らなかった。



「我が求めるは強者のみ。強者は打ち倒し、弱者はただ肉の滓となれ」


「随分な物言いだな。いっそのこと試してみるか? あんたの膝を着かせられる程度には、腕に自信があるぞ」



 挑発を兼ねて、眼光鋭くし告げる。

 すると男は口を開くこともなく、返答代わりとばかりに握る武器を振り上げた。

 薄い月明かりを受けてぬらりと輝く金属の棒。それが振り下ろされる軌道を見切り、ある程度の余裕を持って回避。

 横へとステップ踏んで避けた直後、棒が振り下ろされた地面が小さく爆発するように抉れたのを視界に捉えた。


 モウモウと立ち上る土煙が風によって流され、跡に残るのは十数cmも穿たれた地面。

 余裕を持たず紙一重で避けようとしていたら、衝撃でバランスを崩してしまっていたかもしれない。



 振り下ろした武器を再び持ち直した巨躯の男は、回避し移動したこちらへと向き直る。

 そのまま突進でもしてくるのかと思い、迎撃するための武器を構えると、男は想定外の行動に出た。

 両の足を広げ地面にドシリと構え、両腕を広げて顔を天に。そして大きく息を吸い込み、空を落とさんばかりの勢いで吼える。



「ヴオオオオォォォオオオォォォオオォオォオオオ!!!」



 空気が盛大に震え、それに伴って重力が何倍にもなったようにも感じられる、猛烈な圧力。

 生命を絞り出さんとせんが如く張り上がる猛声に、内から小さく狼狽が沸き起こるのを感じる。

 前回攻め込まれた時にも聞いた、戦闘開始前の合図とも言える咆哮。

 それはこの男が僕に対し、誇りを持って戦士として対峙しようという証明であると言えた。



「我が名はドーエン・ハドム、部族の長にして最強の戦士なり。戦士への侮辱は許さぬっ!!」



 男は高々と名乗りを上げるや否や、轟声を撒き散らしながら棒を振り上げ突進する。

 僕は直線的に迫るその姿を見ながら、中剣を突きつけ迎え撃った。




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