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残跡 02


「どうだ、中の様子探れそうか?」


「流石にここからでは……。薄板一枚程度でしたら大丈夫ですけど、流石に坑道の中は探知範囲外です」



 今も尚しんしんと雪の舞う山地。

 他の団員たちから少し離れた場所で腕を組み、手を顎に当てる団長は難しい表情を浮かべる。

 眼前には傾斜地に掘られた空洞と、そこの入り口に嵌められた大きな金属扉。

 街の人から聞いた話では、そこはかつて希少金属の採掘が試みられた場所であるとのことだった。

 ただ採れた金属は微々たる量で、それこそ入口の金属扉一枚が作れるかどうかといった程度であったそうな。



「そこまで深くはないようですが、坑道内の金属に帯びた磁気のせいか、精度には期待できません」


「上手くはいかんものだな。そのサイズでそういった機能が載っているだけでも上等だが」



 団長は僕の首から下げられている、ペンダント型の中継器を見やる。

 それはエイダの本隊がある航宙船との送受信や、各種のセンサー類が内蔵された装置だ。

 この装置に内蔵されたセンサーを使い、件の行動内部を走査しようとしたのだった。

 しかしその目論みは見事に失敗し、残念ながら中の様子を探ることは叶わない。



「そもそもがこのセンサーも、付加価値のために簡易的なものが搭載されてるに過ぎませんからね。特別高性能とは言い難いです」


「それは残念だ。より安全策を取りたかったのだが」



 団長の言葉に僅かではあるが肩身の狭い思いをする。

 ただ僕とてこれ以外には手に入りようもないので、実際はあまり気にする必要性もないのだけれど。




 山地に点在する盗賊の拠点を制圧して周った僕等は、最後の標的として、山の中腹に在る場所へと集結していた。

 そこには団長以下、僕等を含め傭兵団の団員が二十数名。

 経験あるベテランたちを多く含む、全員が今回の作戦のため選抜された団員たちだ。


 彼らもまたここまでの道中、僕等と同様に点在する拠点を虱潰しに制圧して来た。

 多少の負傷者は発生したが、かすり傷ばかりで全員が無事。

 練度の高低が激しい盗賊と異なり、ただでさえ精強とされるイェルド傭兵団の中でも、精鋭とされる者たちが参加しているのだ。

 人数で劣るとはいえ、盗賊に身をやつした輩など、相手ではないと言わんばかりだった。




「団員たちの前で君の装備を使う訳にもいかんしな……。仕方がない、無策ではあるがこじ開けて突っ込むしかあるまい」



 ため息衝いた団長は、振り返って少し離れた団員の一人を呼ぶと、適当に木を切り倒すよう指示する。

 おそらくは倒したその木で、金属扉を破ろうというのだろう。

 その指示を受け、早速数人がかりで木を切り倒し始めた団員たち。

 レオも駆り出されたそれを横目に、僕は再び坑道の入口へと視線をやった。


 目の前に在る坑道は、盗賊団が根城としている拠点の中でも最も大きなものであり、最後に残った場所だ。

 その中には盗賊団の頭領である男も潜んでいるはず。

 ただここまで虱潰しに拠点を潰してきたため、流石に盗賊たちも受けている攻撃に対処を行っていた。


 結果取った行動が、最も大きな拠点に立てこもるという行為。

 いずれ食料が尽きて出ていかざるをえない手段ではあるが、それも仕方あるまい。

 なにせ最初こそ百に迫る数であった盗賊団も、今ではその数を減らし、こちらよりも少なくなっているのだから。




「よぉし、派手にかましてやれ!」



 切り倒された木へと複数のロープを縛り付け、十人がかりで担ぐ。

 それを坑道の入り口付近まで運ぶと、団員たちは扉を破壊するべく助走の距離を取った。

 参加している団員の中でも、レオやマーカスのような体格の良い者たちでやっているので、僕とヴィオレッタは横で見ているだけなのだが。


 団長の合図と共に突進し、丸太が激しく扉に打ち付けられる。

 地面が僅かにビリビリと震えるような衝撃と鈍い音が、一度二度と一帯を巡る。

 多少雪崩が心配にはなったが、今はあまり傾斜地にも雪が積もっていないことだし、大丈夫なのだろう。



「一時後退、様子を見るぞ」



 三度目の突進によって、金属製の扉は蝶番の部分からねじ曲げられ破られる。

 すかさず団長は丸太を抱えていた団員たちに、扉から離れるよう指示した。

 このまま突っ込んでも負けはしまいが、何せ暗い坑道の中。

 個々の練度と人数に勝るこちらとはいえ、暗闇に目が慣れた連中を相手とするのは避けたいようだった。



 指示に従い、扉を破る役割ではなかった僕とヴィオレッタも少しだけ後退し、朽ちかけた倒木の陰に隠れる。

 僕は腰の中剣に、彼女は背負った短槍の一本へと手を掛け、すぐさま戦闘に移れる状態を保つ。

 ただそうしてしばらく坑道を凝視しながら待機するも、一向に中から誰かが出てくる気配は感じられなかった。



「……まだ来ないのか」



 共に倒木の影へと潜むヴィオレッタが、不満げな口調で呟く。

 彼女からしてみれば今回は団長の目の前で戦い、自身の力を認めてもらうための好機であると言える。

 逸る気持ちが抑えきれないようだ。



「たぶん中に引き込むつもりなんだろうね。普通に戦っても、勝てないことくらい向こうも理解しているはずだ」


「それはわかるのだが……。もどかしいものだ」



 今にも突っ込んでいきそうな気配さえ漂わせるヴィオレッタを宥め、状況を見守る団長へと視線を向ける。

 見れば団長は何かに隠れることもなく、腕を組んだままで坑道を凝視し佇んでいた。


 その団長の様子を眺めていると、ふと坑道から視線を外してこちらを見やり、困ったとばかりに肩を竦める。

 直後に団長は他の団員たちを見回し、次なる行動を指示すた。



「このままでは埒が明かん。中に入って制圧する、弓兵は外で待機だ」



 そう言って団長は、二十数人の選抜された団員の中から、数人を選んで突入すると告げた。

 選ばれたのは主に、狭い空間の中でも比較的取り回し易い得物を持つ人員。

 しかも比較的、長年戦場を渡り歩いてきたような壮年の傭兵たちばかり。


 ただその選抜された中では唯一、若い世代と言い表わされるであろう僕も含まれていた。

 然程刃渡りが長くはない武器を用いているため、そう言った理由もあるようだ。


 流石に入り組んだ坑道の中で弓を使う機会などはないため、必然的にマーカスは外で待機。

 大剣を振り回して戦うレオも、同様に狭い密閉空間での戦いには不向きだ。

 そしてまた、彼女も武器の選別による煽りを受けてしまった。



「なぜ私が置いて行かれねばならぬのだ」



 団長がすぐ近くに居るためか、見た目では不満げな様子を抑えつつも、言葉と気配からは不服感がありありとするヴィオレッタ。

 将来的に団を背負って立ちたいと考えている彼女は、自身の力を示す絶好の機会を失ってしまったようだ。



「連中が大人しく出てくれば、私が一人で斬り捨ててやったものを……」


「まあまあ、きっと次の機会があるから。……というか斬り捨ててもらっちゃ困るんだけど」



 通常の戦場で使う者に比べれば遥かに短いとはいえ、彼女の得物は槍だ。

 突きだけでなく遠心力も利用して薙いで使う武器だけに、レオの大剣同様に、こういった状況では不向きな装備であるのに変わりはなかった。




 再度機嫌を損ねかけるヴィオレッタを宥め、選抜された十人程度で扉の前に集まる。

 そこには団長自身も立っており、その手には愛用していると見られる、年季の入った短刀が握られていた。

 他にも身体に巻き付けたベルトには、複数の短剣や投擲用ナイフが据えられている。

 未だ団長が戦う姿を一度も見たことはないが、身に着けた装備からして、こういった小振りな武器を使っての近接戦闘を得意としているようだ。


 ただ考えてもみれば、団長は地球圏国家の軍人であったのだ。

 白兵戦時には銃を用いて戦うとはいえ、今の時代でも近接武器による格闘戦の訓練は受けているはず。

 その際に使う武器というのは、この惑星で主に用いられているような、剣や槍といった類の物ではあるまい。

 使われるのはナイフなどの装備であろうし、団長がそういった代物の扱いに長けていたとしても、決しておかしな話ではなかった。



「では諸君。これより傭兵から穴熊へと身をやつした輩を、存分に冷やかしに行こうではないか」



 いつでも戦闘に移れるよう両の手に短刀を握る団長は、僕を含め集合した団員たちへと軽い調子で朗々と告げる。

 団長という立場上、彼はあまり最前線に出る機会が多くはない。

 そのせいであろうか、久々の実戦に際し高揚しているかのようだった。



 数人が松明を握り、坑道へと足を踏み入れる。

 先頭を団長が自ら進み、僕はその少し後ろ。

 一応組織のトップに立つ人物なのだから、団長にはあまり前に出ないでもらいたいのだが。


 そう思いはするものの、ベテランの傭兵たちなどはそんな団長の背を苦笑いしながら見ている。

 彼らにとってみれば、これが普段通りの団長の行動なのかもしれない。



「たまには前に出てみるものだな。後方で書類相手に戦うばかりでは、身体が鈍って仕様がない」



 特別潜めるでもなく、団長は坑道内を進みながら、至って普通のトーンで後ろを歩く団員たちに話しかける。

 咄嗟に盗賊が飛び出してきたとしても、難なく対処できるという自身の表れなのだろう。


 そういえば彼もまた、僕と同じく身体能力を強化する装備を保有しているはずだ。

 ただ団長が使用する装備は、こちらと大きく異なる点がある。

 僕が持つのは作業用パワードスーツに相当する民生品であるのに対して、団長が持つのは軍で利用されている戦闘用の代物。

 実際に戦う姿を目にしてはいないが、おそらく戦闘能力は僕の比ではないはずだ。



 そうやって然程深くはないはずの坑道を進んでいると、唐突にその一端を目にする機会は訪れた。

 松明の明りが届かぬ曲がり角から、素早い影が躍り出る。

 それは一番前を歩く団長へと襲い掛かり、僅かな光を受けてヌラめく刃を繰りだした。



「団ちょ……っ!」



 瞬間的な事態に、僕はつい声を発してしまう。

 咄嗟に出た言葉の全てを言い終える前に、影は団長へと肉薄。刃が肉を裂く嫌な音が耳へと届いた。


 沈黙する団員一同。

 しかし次の瞬間、坑道内の冷たい地面に崩れ落ちたのは団長ではなく、襲い掛かった側だった。

 団長の手にした片方の短刀が、襲ってきた盗賊の武器を持つ腕を貫いて阻み、もう一方が深々と胸に潜り込む。

 平然とした様子で即死した盗賊を払い落とす団長の姿に、僕を含め団員たちは安堵の息を漏らす。


 そんな僕等の心情を知ってか知らずか、団長は暢気な調子で盗賊の死骸を見下ろしつつ呟いた。



「ああ、良かった。斬ったのが盗賊の親玉だったらどうしようかと」


「団長……、もしかして確認せずに斬ったんですか……?」



 団長が呟いた言葉は、何とも唖然とさせられるもの。

 それに対し僕はつい失礼な確認をしながら、肩の力が抜けるような思いをしてならなかった。





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