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枷 03

ここで章冒頭へ。


 震えながらも答えると言った男ではあるが、なかなか口を割ろうとはしなかった。

 猿轡を取り払ったので口は利ける。

 であるにもかかわらず喋ろうとしないのは、隣に並ぶ他の男たちの存在があるからだろうか。


 外で昏倒させた見張りを含む、総勢七人に及ぶ男たちは、縛られた状態で壁沿いに一列に並べている。

 左端から順に尋問を行っているのだが、最初に行った男は既に気絶、そして今まさに行っている男はただ震えるばかりだ。


 そして残る五人ではあるが、どこかふてぶてしい様子を見せている。

 拘束された状態であるとはいえ、相手は明らかな若造である僕一人。

 自分たちの方が人数が多いという点に加え、未だ誰も口を割っていないという事実が余裕に繋がっていると思われた。

 もしくは若さから組し易いと思われているのか。



 ただそれもここまで。

 猿轡を外すもいつまで経っても話さない目の前の男へと、逆手に握ったナイフを振り下ろす。



「……え? あ、ぎ……、ギァアアアァァァアアァァ!」



 逆手に持ったそれは男の腿を突き、一瞬の間を置いて響き渡る絶叫。


 団長からは可能な限り、全員を生かしておくよう指示されている。

 ただあくまでも可能であればに過ぎず、怪我程度であれば許容範囲であり、最低限盗賊連中の頭領さえ生かして捕らえればいいと言われた。

 ならばこのくらいであれば問題はないはず。



「話さないなら次は別の場所を。話せば手当てしてやる」



 しばし悲鳴を上げ続けた男ではあるが、話さねば手当をしないと告げるや否や、堰を切ったように捲し立てる。

 近辺に在る複数の拠点位置や、その中でどこに娘が捕らわれているかなどを。

 拘束し並べている他の男たちからは、口を開く男に対して罵声混じりな抗議の声が上げる。

 猿轡をしているので、おそらくではあるけれど。


 この様子だと、それはよほど知られて困る情報であるようだ。

 もしくはこいつらの上に立つ人間が、余程恐ろしいか。




「それじゃ、折角教えてくれた話だ。有効に使いたいから、僕はもう行くよ」



 このまま出血させた状態という訳にもいかず、とりあえず約束通りに止血と手当てを行う。

 団長から命令された以上、可能な限り生かして捕らえておきたい。

 このまま次の目的地へと向かい、後で誰かに回収してもらえれば問題はないだろう。


 どこか不安そうというよりも、絶望感を纏った表情を浮かべる男たちを置いたまま。

 僕は小屋から出て薄い扉を閉めた。




「さて……。さっきの男が言ってた場所に、何かそれらしいモノは映ってるか確認してくれ」



 小屋から出て歩きながら、聞いた情報をもとにエイダへ情報の確認を行わせる。

 他の男たちがしていた様子からして、おそらく得られた情報に嘘はないはず。

 その全てが正確ではないかもしれないが、内一つでも正しければ、そこでまた情報を集めれば良い話だ。



<既に確認は行っています。内三か所で拠点らしき物体と人影を確認。最も近いのは、例の娘が捕らえられていると推測される場所です>


「それじゃ次に向かうのはそこだな。助け出したら残りは情報を持ち帰って、誰かに任せてしまおう」



 捕らえられている娘の居場所が判明した以上、盗賊連中の壊滅も大事だが、まずはそこを優先しておきたい。

 僕一人で行動してサッサと終わらせてしまうのも可能ではあるが、流石にそれでは団内で目立ちすぎてしまう。

 団長は僕に、将来的な団長候補として功績を上げさせたいと考えているようだが、流石にそこまで派手をやらかすのは望んでいるとは思えなかった。







 娘が連れ去られたのは、盗賊連中が活動を始めた最初の頃。

 それからもう半年近くが経過している。可能な限り早く解放してあげたいところだ。

 そう考えた僕は、急ぎ次の目的地へと向かった。


 しかし雪山であるため、身体を強化して進もうと足場の悪さは否めない。

 踏み込むたびに足が雪へと埋もれてしまうため、本来であれば十数分で移動できるような距離であっても、倍以上の時間を要してしまう。


 そうやって苦労して走り辿り着いたのは、天然か人口かは知れないが、急な斜面に空いた洞窟状の棲家だった。



「さてどうしたもんかね……」



 遠目から少しだけ眺めるも、これといった動きはない。

 外で誰かが見張りに立っているでもない上に、洞窟を利用した場所なので違う方向から探りを入れる事も叶わなかった。

 向こうから出て来ない限りは、どの程度の人数が居るかすら定かでない。

 ここに娘が居るという可能性が高いようなので、あまり無茶な突撃も不可能だ。


 試しに拾った石を思い切り放り、洞窟の入り口に据えられた木製の二枚扉へと投げつけてみるも、これといった反応は得られなかった。

 思いのほか奥行きが有り、中に居る人間にまで音が届かないのだろうか。



 仕方ないと考え、僕は背負った背嚢から一つの道具を取り出す。

 取り出したそれの金具を弄り、掌より少し大きいサイズから腕の長さ程度へと組み替える。

 そうして形を変えたのは、以前に僕が一度だけ使ったことのある、ライフル型の工具。

 実際には工具というか、白兵戦時に航宙艦の隔壁を排除したりする用途の、れっきとした兵器なのだが。


 それを出してどうするのかと言えば、どこか適当な場所をふっ飛ばして盗賊を外に誘き出そうという腹だ。

 なんとも大雑把というか、考えるのを放棄したような手段だが致し方ない。




<左三七°、土が剥き出しとなっている辺りが適切かと>


「大丈夫なんだろうな? 下手な場所に使って雪崩にでもなったら大事だ」



 周囲の山には多くの雪が積もっており、雪崩でも起きようものならひとたまりもない。

 それは僕自身もであり、今から攻め入ろうとしている洞窟の中に居る人間もだ。

 盗賊連中は別にいいとしても、中に居る娘が巻き込まれるというのは流石にしのびない。



<指定した場所に指示した時間、適切に照射すれば問題はありません。それ以外ですと洞窟内で崩落が起こる可能性も含め、一切を補償しかねますが>



 自信満々言い切るエイダ。

 こうまでキッパリと断言するのだ、少々不安感を覚えはするが、信用していいのだろう。



 雪の上に片膝を付き、対象へとその銃口を向ける。

 呼吸を整え息を止めて引き金を引くと、不可視の光線が対象へと照射され、僅かに赤く発光。

 エイダのする短いカウントがゼロになると同時に、引き金から指を離す。

 照射し赤く染まっていた箇所から急速に色が失われていくと同時に炸裂、轟音と共にビリビリと空気が震える。


 やはり相変わらず威力が高い。

 というよりも高すぎるが故に、使い道が非常に限られてしまう。

 轟音と共にふっ飛んだ箇所を見やり、本当にこれで雪崩を起こさずに済んでいるのだろうかと思いはする。

 ただ今のところはそういった気配は感じられない。




「さすがにこれだけ派手に鳴らせば……」



 状況を見守りつつ、立ち上がって呟く。

 そこから「出てくるだろう」と次ごうとしたところで、案の定連中は姿を現した。

 一人、二人と。数人の盗賊が姿を現す。

 まだ中に残っているとは思うが、総勢五人の男たちが外へと慌てて飛び出してきていた。


 よほど混乱したのだろう。

 連中はキョロキョロと周囲を見回しており、手には武器の一つすら持たれてはいない。



「不用意にもほどがあるだろう……」



 元はご同業であったという男たちの行動に、僕は半ば呆れの混じった視線を向ける。

 以前に傭兵として活動していたのであれば、異常事態に対し武器すら持たず外に飛び出るなど、信じられないものであったのだ。


 ただ考えてもみれば、こんな爆裂音や振動など普通に起こりうるものではない。

 襲撃の類ではなく何がしかの自然災害と考えるのが普通で、それを思えば多少なりと理解できなくはないかもしれない。



 何はともあれ、上手く外へ誘き出すのに成功したのだ。

 目的を果たすべく、サッサと無力化するに越したことはない。


 そう考えて連中に向け駆け出した僕の手には、新しく新調した中剣が握られている。

 これは以前に使っていた、強度が高い代わりに切れ味に少々劣るという代物とほぼ同じ物。

 ラッシュフォートで限界を迎えた先代の物は既に処分し、ラトリッジの鍛冶ギルドに属する職人に頼み込み、わざわざ打って貰った物だった。

 今回は一応自腹を切って三本、同じ物を作ってもらっている。


 もっとも、今回は生かして捕らえるために鞘からは抜いていないのだけれども。



 若干爆発時の熱で溶けかけた雪を踏み跳躍。

 一足飛びに手近な一人へと接近し、肩口へと鞘に収めた中剣を叩き込む。

 その男がどうなったのかを確認もせず、次の男へ。

 続いて肘で、膝で、手刀でと次々に無力化。最後に残った一人は試しにと後ろへ回り込み、首へ腕を回し締め上げて落とす。


 溶けた雪でグチャグチャとなった地面へと倒れていく男たち。

 それらを見下ろしながら、真っ直ぐに半分開け放たれた洞窟の扉を見据え呟く。



「そんじゃ、捕まったお嬢さんを助けに行こうか」


<それはいいのですが、少々心拍数が上がっています。緊張からですか? それとも下心?>



 折角真面目にやろうとしているのに、余計な茶々を入れるのは勘弁してもらいたいものだ。

 エイダによるちょっとしたからかいを聞きつつ、先へと進み扉の淵へと手を掛ける。


 おそらくエイダは、今から助け出そうとしている娘に関することを言っているに違いない。

 まぁ……、そういった想いが一切ないわけでもないのだけれども。

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