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路地裏王国の少年傭兵  作者: フライング時計
ヴィオレッタ
47/422

篩い 03


 僕等は食事を終えると、すぐさま上の階に在る客室へと戻った。

 本来であれば、折角なのでそのまま食堂で酒を嗜むというのも一興かもしれない。

 だが食事中こそ言葉を発せぬままであったヴィオレッタが、終わるや否や興奮の度合いを高めて急かしたため、任務内容の説明をすることになったのだ。



 階段を登って廊下を進み、奥から二番目に在る部屋へ。

 そこへと全員に入ってもらい、最後に僕は周囲に他の客が居ないのを確かめて扉を閉めた。



「ねえアル、なんで部屋を三つもかりたの?」



 入って早々にそう問うたのはケイリーだ。

 彼女の言う通り、今僕等がこの宿で確保している部屋は三つ。

 今現在いる部屋は、僕とレオ、マーカスが使う予定となっている。

 そして宿の一番奥にある部屋は、ケイリーとヴィオレッタが使うために。

 更にもう一部屋。今いる部屋を挟み込むようにして誰も使う予定のない部屋を借りていた。


 昼間に訪ねた無人の宿と異なり、ここは密談に適しているような場所ではない。

 なので可能な限り、人に漏れ聞こえぬよう用心する必要があった。

 一番奥の部屋に関しては余計な出費と言えなくもないが、万が一を考えれば致し方あるまい。



「念の為かな、人に聞かれちゃ困る内容だから。だから皆も、ここからは声を小さくしてもらいたい」



 それだけ告げると、全員が小さく頷いてそれ以上を尋ねては来ない。

 その反応に僕は満足し、部屋の真ん中に集まるようにして座り円を作ると、声のトーンを落として任務内容の説明を始めた。




「今回僕等が行うのは、ラッシュフォート市街の東部地区と北部地区に在る、教会の監視だ」



 黙ったまま僕の話へと耳を傾ける皆は、その言葉に首を傾げる。

 それもそうか。同盟内に在る教会と言えば、基本的にはあまり派手な活動をしないため、目を付けられるような存在ではない。

 傭兵によって監視を受けるような事態など、皆想像もしていないはずであった。



「とは言っても、対象は教会の関係者じゃない。しばらく前から無人になっていたその教会に、最近になって人が集まるようになったらしい」


「信者たちが戻ってきた……、というのとは違うんでしょうね」



 マーカスの相槌に、僕は首を縦に振り肯定を示す。


 共和国などでならばともかく、同盟においては教会での信仰が主流とは言えない。

 一時は布教のため各地に教会が建てられたようだが、現在は多くが無人となってしまっている。

 以前に行ったウォルトンで、傭兵団が教会を拠点として利用していたのもそういった理由だ。

 なので信者が急に増えたとか、信仰心を取り戻した信者が戻ってきたなんてこともまず無い。



「そうだな、集まっているのは信者じゃない。どうやらこの都市で反体制活動をしている連中のようだ」



 僕が告げた言葉に反応し、皆が息を呑むのがわかる。

 急激にキナ臭いというか、厄介な気配が漂い始めたのを察したようだ。

 初の任務に意気込んでいたヴィオレッタもまた、その表情を固くしていった。



 ここラッシュフォートやラトリッジを含む西方都市国家同盟は、複数の都市国家によって構成されている。

 当然それぞれの都市ごとに利害が存在するため、防衛のために傭兵団の予算を拠出し合うという約束事を除けば、必ずしも一枚岩であるとは言い難い。


 そして各都市内においても、主義主張の違いから対立する人たちが存在するというのは当然の事であった。

 故に一定以上の規模を誇る街であれば、必ずと言っていい程にこういった団体は存在する。

 もちろんその過激さや主張には程度の差があるが。



「ラッシュフォートで活動している連中は、かなり過激だそうだ。同盟からの離反を主張して、度々役場や意にそぐわない相手の住居を襲撃し危害を加えている。今回その廃教会を占拠したのも、元々居た場所を追い出されたせいだな」


「それはまた……、厄介な相手ですね」



 マーカスは苦笑いと共に皆を見渡す。

 いい加減人を相手にして戦うのも慣れてきた僕等ではあるが、これまで戦ってきたのは野盗や敵対する軍人など。

 つまり戦闘行為を行って傷付けるのにも、ある程度は割り切りの出来る相手であった。


 しかし今回僕等が監視する対象は、凶悪性を持っているとはいえ一般人。

 少々勝手が違うのは否定できない。




「依頼主はラッシュフォートの統治者だ。蜂起のために多数の武器を入手しようとする可能性があるから、もしその兆候が見えたら制圧する」


「人数はどのくらい居るのかな?」


「大よそだけれど、総勢で四〇人前後は居ると思っていい」


「ホントに……? 結構多いね……」



 ケイリーの問いに僕は聞かされていた情報を明かすと、彼女は難しい表情を作る。

 単純に八倍の人数だ。そう思うのも当然か。

 ただ不意を突いたり、戦う状況を選べればどうとでもなるはず。

 何せ相手は凶悪ではあっても、ただの一般人に過ぎないのだから。



「監視に使う部屋は既に確保されている。明日以降二手に分かれて移動し、交代で監視を始めよう」



 至れり尽くせりだとは思うが、先行してラッシュフォートに入っていた諜報員の女性は、僕等が必要とする環境の確保も行ってくれていた。

 僕等のような少人数であれば、それも然程大きな労ではないのかもしれないが。



「りょーかい! それじゃヴィオレッタ、あたしたちは一緒に行こっか」


「そうだな。私もそれがいい」



 いつの間にやら勝手に組む約束を始めるケイリーとヴィオレッタ。

 ここまでの道中で更に仲良くなっていた二人だ、互いにそう望むのは当然であると言えた。

 普段であればそれでも良いかもしれない。

 ただ二人には悪いが、今回ばかりは当人たちの希望を叶えてやることは出来ない。



「申し訳ないが二人は別々だ。ケイリーはレオとマーカスと一緒に北部地区に。ヴィオレッタは僕と東部地区の監視を行う」


「何故だ。私たちの組み合わせに不満でもあるのか?」



 憮然とした表情を浮かべ、静かながらも力のこもった抗議の声を上げるヴィオレッタ。

 一方的に割り振りを行われたのに加え、普段の訓練中に自身をからかい続ける相手と二人とあっては、不満を持つのも当然。

 しかしこれには相応の理由があるのだが、それを今当人に言っていいものかどうか。



「まあまあ、アルもきっと考えあってそうするんだよ。今回は我慢して頑張ろう?」



 どう上手く言い訳しようか悩んでいたところで、ケイリーが間に入ってくれる。

 彼女は僕へと意味あり気な視線を送ると、小さくウインク。

 貸しを一つ作ったぞという意思表示だろうか。


 後が怖いが、正直助かった。

 ヴィオレッタを僕と行動させる本当の理由を、今この場で説明する訳にもいかず、適当な言い訳をしても素直に納得してくれそうにはない。

 ケイリーが間に入ってくれたおかげか、ヴィオレッタの不満も若干ながら収まり始めたようだ。



「すまないな。本意じゃないだろうけど、今回ばかりは我慢してくれ」


「……ああ、わかった」



 僕が少しだけ謝ると、ヴィオレッタは渋々とではあるが了承する。

 僕一人では上手く説得できなかったかもしれないので、ケイリーには後で何がしかの礼をしておかねばならないようだ。




 その後は監視中の役割分担や、交代での休息の取り方、制圧を行う判断基準などといった点を詰めていく。

 それらを話しあい終えた僕等は解散し、ケイリーとヴィオレッタは自分たちの部屋へと帰って行った。


 当然レオとマーカスはこの部屋へと残り、そのまま寝床の準備を始めている。



「こうなると部屋が一つ勿体ないですよね」


「確かにな。折角だし、二人のどっちかが隣を使うか?」



 会話が漏れぬよう、念のため余分に借りていた部屋ではあるが、いざ寝る時になるとその勿体なさが気になってしまう。

 ならば誰かが使えばよいとは思うのだが、他の皆が誰かと一緒であるのに、自分だけが一人部屋という状況は酷く落ち着かないものであるようだ。

 誰か使わないかと言った僕の言葉に、二人は首を縦に振らなかった。



「御免被りますよ。ボクの居ない間に、二人でこっちの悪口でも言われてるんじゃないかと気が気ではありませんから」


「そいつは残念だな。レオはどうだ?」


「ここでいい」



 ダメ元で問うてみるも、やはりレオも拒否する。

 彼の場合は気兼ねしたり人の口を恐れてというよりも、ただ単に移るのが面倒だというだけに過ぎないようだったが。



「それじゃサッサと寝てしまおうか。明日からはしばらく交代で夜明かしになるからな」



 少々早い時間ではあるが、僕はそれだけ言って室内の蝋燭を吹き消し、久しぶりのベッドへと横になる。

 部屋に在るもう二つのベッドからは、それぞれ就寝の言葉が聞こえた。







 深夜、明り一つない真っ暗な部屋の中で、瞼を閉じて明日以降の任務に備え眠りにつこうとする。

 しかしなかなか眠りに付けず、幾度目かの寝返りをうつ。

 身体は疲れているはずなのに、精神的なものが眠りを妨げる。


 どうして眠れぬままでいるのかなど明らか。

 僕の頭の中には、昼間に会った女性の言葉が幾度となく繰り返されていたからだ。



 薄く瞼を開けると、視界には眠るレオとマーカスの姿が映る。

 僕は彼らに対し、あの場で話された内容の全てを伝えてはいない。

 それを伝えてしまう事によって若干一名、動揺させてしまうという可能性が頭をよぎったためだ。


 昼間に会った諜報員の女性は、今回の任務内容を告げた後、補足するように言って来た。

 「こちらの望むと望まざるとに関わらず、不運な事故は起こりうるものだ」と。

 それは依頼主であるラッシュフォートの統治者が発した言葉だったようで、ある程度の意図を察しつつも僕は彼女に確認をした。

 いったいどういう意味であるのかと。


 すると彼女は、これといって感情の動かされる様子もなく、こう言い放ったのだ。


『一方だけで構いませんので、ヴィオレッタ嬢と共に殲滅を。ラッシュフォートの統治者は、見せしめとするのを望んでいます。手段はお任せしますので』


 今回の依頼主であるラッシュフォートの統治者が傭兵団に依頼したのは、反体制の勢力を捕らえることではない。

 今後都市の治安を乱す者が現れぬよう、そう言った輩への抑止として殺害するのを望んでいた。

 ただここで気になるのは、ヴィオレッタと共に行うよう告げられた点か。




『エイダは……、どうしてこの任務が僕等に振られたんだと思う?』



 彼女の言葉が引っかかり、僕はその理由について考えを巡らせる。

 個人としては予想したものがあるのだが、導き出した考えがどうにも信じ難く、エイダにも問うてみる事にした。



<推測で構わないのでしたら答えますが?>


『それでいいよ、言ってくれ』


<では。結論から言えば、今回アルフレート達にこういった任務が与えられたのは、ヴィオレッタの存在が理由であると推測します>


『……続けてくれ』


<傭兵団団長の指示によってラトリッジへ帰還し、ヴィオレッタを迎え入れました。その後さして時間を置かず、こういった秘匿性の高い任務を振られるというのは、そこに何らかの関連性があると推測されます>



 エイダは最初にプログラムされたものとは別に、環境によって情報を収集し自動更新され続けている。

 そうやってある種の成長を遂げたAIであるエイダは、僕と同じ見解を持つに至っていた。

 そして彼女もまた、諜報員の女性が「ヴィオレッタと共に」と告げた点を根拠としているようだ。



<ヘイゼルが事情を把握していない任務を下されたなら、上に立つ傭兵団団長が関与していないという事はないでしょう。ヴィオレッタが属していると知りつつ下したようなので、それは自身の娘が居るからこそ、この任務を与えたと判断するのが自然かと。当然昼間に会った女性が、彼女の名を出したというのもありますが>



 推測した結果を言い終えたエイダは、「ご満足でしょうか?」と締めた。

 僕が航宙船を離れ外の世界に出て以降、エイダはここまでに随分と色々なデータを蓄積してきたようだ。

 最近では格段に人らしい話し方や思考をするようになってきた気がする。



 それはともかくとして、彼女がした予想に関しては、おおよそ僕の考えた内容と同じだ。

 去り際に諜報員の女性に確認した時も、団長はこのチームにヴィオレッタが属していると認識しているとの答えが返ってきたのだから、その点からしても間違いはないだろう。

 ただ僕はもう少し先、団長がヴィオレッタの居るチームに下した理由についてまで考えていた。


 確か彼女を最初に預かると聞かされた時、ヘイゼルさんは言っていたはずだ。

 最初は団長もヴィオレッタが傭兵となるのに反対していたと。

 一人娘であるそうだから、当然と言えば当然だろう。


 ヘイゼルさんは最初、ヴィオレッタの意志に負け団長が折れたような話をしていた。

 だがそれに関して、もし団長が諦めていなかったとしたら。


 推測ではあるが、団長はヴィオレッタに傭兵稼業の暗い一面を見せようとしている。

 おそらくヴィオレッタを伴って行うよう指示されたのは、そういった意図が含まれているためだ。

 もちろんそんな理由でこんな厄介な依頼を探してきた訳もなく、元々受けていた依頼を丁度よく利用したに違いない。



「だがそこまでするもんか……?」



 ベッドの上で寝返りをうちながら、僕は小さく口に出して呟く。


 方法としては随分と苛烈であり、僕自身予想しておきながら疑わしく思わなくもない。

 親が子に与える試練としては厳しすぎるものであるし、諦めさせる手段としては眉をひそめたくなるものだ。


 未だ顔すら知らぬ団長ではあるが、僕はその人物から、一種の異常性のようなものを感じずにはいられなかった。

 そんな異常性を含んだ手段を、アッサリと予想してしまう僕も似たようなモノかもしれないが。



<ですがアルフレートは、ヴィオレッタを同行させると決めたのでしょう。という事は命令された通りに動くつもりで?>


『……一応な。実際に上がそう指示しているんだ、無視もできないだろ』



 親が取る行動としてはどうかと思うが、それが下された命令である以上、ヴィオレッタには凄惨な結果が待ち受ける側に行って貰わなければならない。

 若干陰鬱な気もするが、命令に対して拒否など出来ようはずもないのだから。




 暗闇に慣れた眼で部屋を見渡せば、変わらず静かな寝息を立てて眠るレオとマーカスの姿。

 今のところ僕は皆にこの件を話すつもりは無い。

 話せば彼女を心配し、是が非でも手助けしたがるはずだからだ。特にケイリーなどは。


 しかしこれはヴィオレッタ自身に課せられたものであり、乗り越えるか潰れてしまうかを測るための(ふる)いと言える試練。

 彼女の戦闘能力に疑いが無い以上、最低限度を越えて人の助けを得るのは好ましくない。


 ただどうしてもその目的を達するために、ヴィオレッタにはある程度の説明をする必要はあるだろう。

 それはきっと彼女にとって、重い重い話になるはずだった。


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