遮断 01
置かれた木箱の中から取り出したのは、数丁の銃。
それも撃つ度に弾を込めずに済むという回転式のそれは、現在シャノン聖堂国の一部で配備されている最新式の物。
僕はそれを手に取り、構えた感覚を確かめ予備の弾を腰へと下げる。
「要るだけ持って行って構わん。どうせ連中の持ち物だ」
「なら遠慮なく。……ところで、本当に脱出した後は別行動でいいんだな?」
「ああ、外に出るまでで十分だ。その後は勝手に逃げさせてもらおう」
大量に置かれた銃と弾薬、脱出のために使うそれらを用意した技術者の男へと問う。
するとそいつは軽く肩を竦め、さも自分には関係ないとばかりに、これまで自身が協力していた先への無関心を口にした。
いったいどれだけの期間、この地で過ごしてきたのかはわからないが、利用価値なしと判断したにしても随分とドライなものだとは思う。
こいつの言葉が、いったいどこまで本気であるのかは定かでない。
しかしこうして武器を用意し、脱出のためのルートまで確保してくれているのだ、一応の利害関係は構築できているのだとは思う。
地球と敵対する勢力に属している技術者だけに、他の目論見がないとは言い切れない。
だが今は速やかにここを破壊後脱出するために、男の提案に乗るほかはなかった。
「それじゃ早速おっ始めようか。あまり時間に猶予はないし」
疑わしいとは思うも、いつまでも疑っていてはキリがない。
僕は纏う法衣の下に三丁の銃を下げ、腰へ巻いたベルトには銃弾を大量に詰め込んだ袋を忍ばせ、手にしている銃は壁へと向けた。
銃口の先にはまだ赤子にも及ばぬ姿をした、クローン兵の核が脈動する透明なタンク。そしてその手前へと積まれた、幾ばくかの炸薬の箱。
立つ二人へと視線で合図を送ると、僕はそれへ一発の弾を放つ。
真っ直ぐ線を描くように飛び、着弾と共に小規模な爆発。隣り合ったタンクは衝撃で破壊され、中に満たされていた液体は溢れ出ていく。
ただ小規模な爆発とは言え、それなりの威力を伴うため地下の空間はズシリと揺れる。
この一発だけでも幾人かは異常に気付いたろうが、さらに大々的に知らしめるべく、他のタンク側へ置かれた炸薬の箱を、次々と撃ち爆散させていった。
「さあ、来るよ。迎え撃つ準備だ」
広い空間の中へ置かれた、クローン製造に必要な設備を全て破壊し終える。
バラバラに破壊された機械の散乱する空間の中で、僕等は前もって奥の通路手前に設置しておいた、いかにも頑丈そうな金属製の分厚い板の後ろへ周る。
もう少しすれば、爆発音を聞きつけた聖堂国の兵士が雪崩れ込んでくるはず。
そこである程度応戦をし、押し寄せる兵士を倒していくことができれば、近場の町から応援を呼ぶという手段に出るはずだ。
「ではワシは少しだけ先に行っているとしよう。なにせ戦闘はからっきしなものでな」
「ちゃんと待っていてくれると信じているよ。もっとも待っていなかったとしても、急いで追いかけるから安心していいけれど」
「……承知した」
僕等が戦闘を行う中、男が逃走ルートの案内をせず一人逃げ出す可能性もある。
そのため一応釘を刺しておくと、これは正解であったのか、男は僅かに口籠る素振りを見せていた。
やはり完全には信用しきれそうにない。そこで逃げ出そうものならすぐに追いかけ、相応の制裁を科すといったニュアンスを込めておく。
ここを脱出した後で、どういったルートで母星へ帰るのかは知らないが、この惑星を脱出する前であれば十分捕まえられるはずだ。
こちらの言葉によって緊張から喉を鳴らし、奥の道へと入っていく男。
そいつが暗がりへ姿を消すのを見送ったあたりで、隠れた金属板の反対側にある入口から、勢いよく扉の開かれる音が響く。
ほんの少しだけ覗いてみれば、舞う埃や煙によって薄らと白い室内の向こうには、銃を手にした聖堂国兵士が数人。
何事かと様子を確認するため駆けつけたようだが、見たところその中にクローン兵の姿はないようだ。
「一人だけ生かして逃がそう。そうすれば援軍を呼んでくるはずだ」
「任せる。俺は銃や弓が苦手なもんでな」
「ならレオ、あいつと一緒に逃走経路を確保して欲しい。向こうからも敵が通ってくるかもしれないから」
「わかった。ついでに監視もするとしよう」
迎え撃つだけでなく、より多くの敵を引き付け、敵に異常事態を認識させねばならない。
そこで一人だけ生かし、増援を呼びに行かせるという手段を採るのだが、レオはあまり射撃の類が元々得意ではなかった。
そこで彼には先を行く男についていき、逃走ルート上の敵を排除してもらうよう頼む。
するとレオもまたやつが信用できないようで、軽く頷きながら自身が見張りをする旨を告げた。
レオが奥の通路へと進んでいくと同時に、僕は手にした銃を陰から構え、先頭を歩く兵士へと放つ。
普段使い慣れたそれと、さほど変わらぬ感触が腕へ伝わると同時に、頭から仰け反り床へ転がる聖堂国兵士。
その突然な事態に慌てたのか、連中はこちらを視界に捉えることもなく、やたら滅多に周囲へ弾をばら撒いていった。
「助かる。重要な施設のはずなのに、警備兵の練度はそこまで高くはない」
<ですが問題は、増援として来ると予想される教皇の近衛です>
「流石にあっちは簡単にいかないだろうな……。なら今のうちに楽をさせてもらおう」
連中が正規の軍人であるのは間違いない。ただあまり大層な訓練を受けてはいないのか、早々に混乱し始める兵士たち。
迎え撃つ側としては非常に楽であることに安堵するのだが、きっとここへ来た本題、保養地に駐留する教皇の近衛隊を思えばそうも言ってられない。
実際に戦う姿を見た訳ではないが、直属の護衛である以上、もっと強力であるのは想像がつく。
それにあの中には、より強化された能力を持つ少年型のクローンも混ざっていた。連中が来れば、戦闘が苛烈となるのは避けられそうもなかった。
ともあれその時はその時と、僕は続けざまに銃を撃ち続ける。
一発毎に弾を込めずに済む回転式のそれは、精度や威力などはほとんど同じではあるが、煩わしさとは無縁で少しばかり拝借していこうかという考えが過る。
<では持ち帰って工房に渡しますか? おそらく同じ物を作ってくれるはずです>
「いや、国境を越える時に置いて行こう。共和国で落としでもしたら面倒だ」
五人目の頭を撃ち抜き、残る一人が悲鳴をあげながら逃げ出す。
その姿を目で追った後、手にした聖堂国製の新しい銃を見下ろす僕へと、エイダは思考を読んだか誘惑を持ちかける。
なかなかに魅力的な提案だ。
きっとラトリッジへ戻ってこいつを工房に渡せば、すぐ試作品づくりに取り掛かってくれるだろう。
しかしこいつは現在、同盟と聖堂国でしか運用されていない代物。
敵対する別の国、それも領土的な野心が強い国に渡ってしまえば、後々困るのはこちらであった。
「それにこいつはまだ聖堂国の中でも、一部しか持っていない新型だ。こんな物を他の国にも教えてやる必要はないよ」
<物が渡ったからといって、早々簡単に作れるものではないと思いますが>
撃ち終え空となったそこへ、次の敵が来る前に弾を込めていく。
確かに作るのは一筋縄ではいかないだろう。金属加工の術もだし、そもそも火薬に相当する物があちらにはないのだから。
だが必要に迫られれば、共和国でも案外似た技術は産まれるかもしれない。
戦火が大きくなれば、戦争が主の産業であるラトリッジは儲かる。だが必要以上に拡大させてしまえば、脆弱な戦力しか持たぬこちらは逆に飲み込まれてしまう。
十分今の時点で、強大な敵の懐に飛び込む羽虫の気分を味わいつつ、僕は次々と現れる敵を屠る。
そうしてかれこれ一時間かそこら、現れる敵に対し応戦を続けていく。
当然向こうも徐々に冷静さを取り戻していき、すぐ僕がどこに隠れているかを察知し、弾丸を浴びせ掛けてくるようになった。
盾としている金属板に隠れ、皮膚を掠める弾に浅い傷を残し敵を近寄らせぬよう、僕は延々と撃ち続ける。
<狼煙を確認しました。保養地へ駐留している部隊の動きを確認、おそらく動き始めます>
「ようやくか……」
銃弾が金属を弾く甲高い音と、火薬の破裂音。そして聖堂国兵士の叫び声が木霊する広い室内。
その中で耳元を掠める弾に肝を冷やしていると、エイダからは事態が動き始めたことを知らせる言葉が届く。
衛星からの画像を確認すれば、昼間の青い空へと色濃く映る、一筋の灰色をした煙が。
同時に今も教皇が駐留する保養地では、聖域へ向かい加勢するために、騎乗用の生物へと鞍を急ぎ取り付ける作業が見られた。
<あとは連中が来る前に、ここを逃げ出せば予定は万事完了です>
「それじゃ、いい加減ここから退散しようか」
エイダの言葉に頷く僕は、置いていた爆薬へと火を点け、破裂する前に相手へと放り投げてやる。
それが轟音を発して炸裂し、室内を激しく揺さぶらんばかりの衝撃が襲う。
僕はそれと同時に床を蹴り、すぐ背後に開いた狭い通路へと飛び込んだ。
今の爆発もそう長く足止めできるとは思えない。煙が晴れるには時間が要るだろうが、その前にこちらが逃げ出したのを察して追いかけてくるはず。
そこでもう一つ用意しておいた小さな箱へ火を点け、自身が通ってきた狭い通路に転がす。
そいつが爆発する前に、身体を壁や置かれた備品で擦るのも構わず駆けていくと、背後で大きな爆発音と共に衝撃が襲った。
おそらくこれで通路は塞がれたはず。
だが僕は安堵する間もなく走り、数百mほどを進んだところでようやく明るい空間へと出た。
「来たか。早速手を貸してくれ」
「まったく、一息衝く暇もない」
「悪いな、文句は後でいくらでも聞く」
だがようやく狭い通路から抜け出た先でも、戦いの匂いは色濃く漂う。
視界の先に広がっていたのは、最初この聖域へと入り込んだときに見た、大勢の人間がたむろしていたホール。
直接外へと繋がる道が存在しないため、最も出入り口に近いここへと案内されたようだ。
そこで屈んでいたレオは、僕の姿に気付くなりすぐさま加勢を求めてきた。
見れば彼の手には慣れぬ銃が握られ、障害物の影から出しては発砲を続けている。
既にホール内にも敵兵が大勢いるようで、レオが応戦する間を縫っては、大量の銃弾を浴びせ掛けていた。
「教皇の近衛隊が動いた。もう暫くすれば、ここへ大挙して押し寄せてくるはずだ」
「ならそれまでには終わらせないとな。突っ込むか?」
「あんまり好みな戦い方じゃないけれど、仕方ないか。付き合うよ」
レオと並んで銃を敵へ向けながら、僕は先ほど得た状況の推移を口にする。
保養地からここまでは、精々が二十数kmしか離れてはいない。
となればここへと増援が辿り着くまで、あと二時間は要さないはず。悠長にここで立て籠もり戦っている暇はなかった。
互いの持つ銃を音鳴らして合わせ、呼吸を整える。
そうして意を決した僕等は、同時に飛び出し敵へ向け、装填された弾の全てをぶっ放した。




