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壁面に咲く 09


 都市ドラクアで非合法な商売に手を染める、リゴー商会という存在。

 そこは裏稼業によって稼いだ大枚によって、多くの戦力をかき集めているであろうことは予測の範疇。

 だがあくまでもそれは、同盟領内の荒くれ者や元傭兵らであると考えていたため、武装練度共に十分上回れるというのが、ジェスタら部隊長と僕の共通認識であった。

 しかし蓋を開けてみれば、連中が抱え込んでいた戦力はもっと強力な、今現在も対峙する南方の大国からのモノ。



「僕はすぐ統治者の邸宅へ向かう、君たちは駐留部隊との合流を急げ」


「ですがお一人では……」


「そっちに向かっている連中も居るから、すぐに合流できる。途中で敵を発見したらすぐ発砲するんだ、住民に当たらなければいい」



 ドラクアの空へ一本線を引くように昇る煙を目指し、僕は十数人ほどの兵士を連れ駆ける。

 都市内に駐留する部隊の拠点から上げられた狼煙によって、すぐさま異常は都市外の部隊へも知らされることとなる。

 僕はほんの少し早く異常を察知こそしたものの、当然衛星からの画像で確認したなどとは言えず、例え言っても信じてもらえようはずもない。

 なのでジェスタの指示かどうかは知らないが、素早い知らせに感嘆する他なかった。



 ともあれ都市の正門を駆け抜けた僕は、その駐留部隊の拠点へと同行した兵たちを向かわせ、一方の自身は一人別れ統治者の屋敷へと急ぐ。

 衛星から見たところ、二十数人からなる兵士たちがそこへ集結し、念の為設置しておいた簡素な塹壕を盾に応戦を試みているようだ。

 リゴー商会の拠点は常に監視していたので、敵が出てきた時点ですぐ行動に移ったのだろう。



<それにしても、まさか連中がクローンを抱えていようとは>


「妙に自信有り気な様子が気にはなっていたけれど、その根拠がこれだったってことか。以前から接触はあったんだろうな」



 いったいいつ頃からか、どういう経緯でかは知らないが、リゴー商会は聖堂国と通じていた。

 つまり最初から聖堂国の戦力を当てにし、こちらと接触してきたのは、それを隠すためのものに過ぎなかったのだろう。

 実に愉快ではないが、見事に騙されたと言っていい。

 最初に商会主と顔を合わせた時、要請を蹴って中座したのをやけにアッサリと引き下がったのは、今にして思えばこういう企みがあったためか。



「聖堂国から侵入してきたルートはわかるか?」


<申し訳ありません。行商人に扮していた連中も、四方八方からやって来ているので、絞り込むことは……>



 一応確認としてエイダに問うてみるも、やはり何処のルートを辿ったかは定かとならない。

 現在までに判明している聖堂国からの侵入ルートは見張っていたが、その全てを察知できているとは思っていなかった。

 ドラクアの近くに在る海岸線付近の細いルート以外にも、こうやって送り込んでくる道は存在するはず。

 そこから密かに侵入を許している可能性は頭にあったが、こうやって都市内の不穏分子と組むというのは、予想外の事態であった。



「外で敵がおかしな行動をしていたのも、急に攻撃の頻度が上がったのも、こっちと同調するためだろうか」


<だとしても不可解な点が多いですが、とりあえずはそう考えて間違いはないかと>



 エイダの言うように、まだ疑問が残るのは確かだ。

 聖堂国の戦力であれば、それらのルートを駆使し戦力を集め、普通に都市を攻め落とそうとすればいい。

 なのにそれをせず、リゴー商会と結託して事を起そうとする理由がわからない。

 ただ今はそれを考えている場合ではなく、僕は統治者の屋敷へ向かう足を速めていく。


 ラトリッジへ増援と補給を要請してはいるが、それらが来るまであと数日は要る。

 こちらは南から迫る聖堂国の一団を迎え撃つため、約半分は都市の外で待機させておかねばならない。

 なのでこちらと商会側の戦力は共に数十人ずつ。若干こちらが少ないが、この人数であれば増援が来るまでには終結するはず。

 それがどちらの勝利という形になるかは、これから採る行動次第ではあるが。




「突っ込むぞ。起動してくれ、七割くらいでいく」


<了解。身体補助機能を強度70%で起動します>



 走って通りを駆け抜け、眼前に統治者の邸宅が迫る。

 視線の先では既に戦闘が激化しつつあり、リゴー商会側の聖堂国兵士が数人、銃弾を受け倒れ道へ深い血溜まりを作っていた。

 一方の都市駐留部隊側も無傷ではないようで、少ない人数ながら善戦しつつも、数人が負傷し屋敷の中へ下がっていく姿が。


 今は持ち堪えているようだが、このままではすぐ人数差で畳みかけられる。

 僕はこちらに背を向けている敵へ向け突進しつつ、エイダに身に着けた装置の起動を指示した。

 直後左の腕に嵌められた腕輪から、極僅かな振動を感じられ、体表を這うように力場が浸透していく。

 本来は民生品の作業用パワードスーツに類するこいつは、電磁的刺激などを用い、身体能力と思考速度を強化するという代物。

 最近ではあまり使う機会は多くないが、こういった多勢に無勢な状況では大いに役立ってくれる。



「邪魔をするな!」



 腰に差した中剣を抜き放ち、屋敷へ向け銃弾を放ち続ける連中へと接近。

 その途中でこちらに気付いて振り向き、銃口を向けてきた一人のクローンを斬り捨てると、すぐさまその隣へと立っていた相手の顔面へ肘打ちを食らわす。


 次いで同じく腰へ据えていた銃を取ると、屋敷への直線上に位置していた敵へ躊躇なく発射。

 敵の頭蓋を粉砕すると同時に走り、そいつが倒れていく横を通過。屋敷前に置かれた簡易の塹壕へと滑り込んだ。



「被害は?」


「どうしてここへ……」


「そんなのは後だ、報告を」



 塹壕へ隠れすぐ近くへ居た兵に状況を問うも、彼は目を見開き銃の弾を込める手も止まっていた。

 突然に姿を現し加勢した存在に面食らってみれば、現れたのが僕であったため余計に困惑をしたようだ。

 普通であれば後方で指揮を執り、一般の兵士たちを寄越すであろうから、その気持ちもわからなくはない。



「……じ、重傷者は三名、現在屋敷の中で応急処置を行っています。軽傷は全員が」


「上々だ、まだ死人は出ていないんだな?」


「今のところは……。ですが一人が持つ弾も少なく、そう長くは持ちません」



 そう言って彼は、既に空となりつつある弾薬の入れられた袋を開く。

 中にはもう弾が数発といった程度しか残されておらず、言葉通りのジリ貧であるのが明らかであった。



「ならこちらから仕掛ける他ないな。まず僕が囮として飛び出る、君たちは引き付けている間に一斉射を」


「危険です! そのような役割は我々が……」


「悪いね、嫁さんの話だと僕は随分我儘な君主らしい。配下の人間がちょっと制止したくらいじゃ、見向きもしない愚王だってさ」



 当然のように慌てて止める兵士へと、銃弾飛び交う中で軽く笑い一蹴する。

 ざっと見たところ、敵の数は16~17人といったところで、こちらの人数はその約半分。おまけに残りの弾も心許ないとなれば、一発すら無駄にはできない。

 ならば注意を引き付けている間に、しっかり照準を定められる状態で撃つ他はなかった。



『それにしても、最初に見たより数が少ないな……』


<少ない方が助かるのではないですか?>


『そいつは良し悪しってもんだよ。エイダ、他の連中はどこへ消えた?』


<別に消えてはいませんよ。残る約半分は、都市内の拠点へ向け現在も移動中。駐留部隊は既に応戦の態勢に入っているようです>



 なるほど、となれば急がねばならないようだ。

 国境を越える時に持ち込んだ銃は、ほぼ敵の全員が手にしていると思っていい。

 こちらも相応の装備を持ってはいるが、なにせ死をも恐れぬ敵であるだけに、どうしたところで一定の損耗は覚悟する必要がある。


 今しがた見たところ、南から侵攻してくる聖堂国の軍勢も、ここ数日襲来している部隊よりもずっと数が多い。

 まずこの場の敵を全て片付け統治者の安全を確保し、次いで拠点へ攻撃を行っている連中を排除。その後全ての兵力を取り纏め、都市外で戦う部隊と合流する。

 ただでさえ敵の数が多いのだ、尚のこと今統治者の屋敷を包囲している連中相手に、時間を取られている場合ではなかった。



『それにまだ、イレーニスの所在が知れない』


<現在優先して捜索中です。すぐに見つかると思ったのですが、なにせ入り組んだ道へ入ったようなので>



 僕は塹壕から少しだけ外を窺い、闇雲に撃ってくる連中の姿を確認しながら歯噛みする。

 都市の外で僕へ伝令に来たイレーニスが門を越えた直後に、異変を知らせる狼煙が上げられていた。

 当然その意味を知っていたイレーニスは、急ぎ拠点へと走っていたらしい。

 だが途中でリゴー商会の一団と出くわし、すかさず彼は身の安全を計り、狭い裏路地へと飛び込んでいったのだ。



『こればかりは仕方がない。イレーニスのことも気になるけれど、まずは目の前の脅威を排除するのが優先だ』


<了解しました。再度装置の起動を行います>



 早くイレーニスを保護するためにも、結局は着実に目の前の障害を排除する他ないのだろう。

 身体への負担を考え、一旦休止状態となっていた装置が再び稼働し、常人ならざる膂力が身体と思考へ行き渡る。

 同時にズシリと重く圧し掛かる負荷を感じつつ、この一件が片付くまで耐えてくれと、自身の身体へと祈りながら吼えた。



「行くぞ、全員構え!」



 叫んだ直後、ガシャリと弾を込めた銃の金属音が、数か所の塹壕から一斉に響く。

 兵士たちがした戦闘準備完了の合図を確認した僕は、意を決し陰から飛び出し身体を晒すと、最も手近なクローンの一体へ銃口を向けた。



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