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路地裏王国の少年傭兵  作者: フライング時計
路地裏の王国
310/422

極彩色の敵意03


 防衛の体勢を整える時間を稼ぐため、一人市街へと残り、迫る敵を斬り捨てていく。

 そうして十数人ほどを斬ったところで、僕は傭兵団が拠点とする酒場へと舞い戻った。



「遅いぞ!」


「すまない。ちょっとばかり手間取った」



 細い一本の路地を駆け、背を向けていた敵の数人を斬り倒す。

 そうして骸と置かれたバリケードを飛び越えた先で浴びせられたのは、ヴィオレッタによる端的な文句の言葉であった。

 マーカスを介し時間稼ぎをすると伝わっているはずなのだが、それでもある程度心配してくれていたようで、言葉の鋭さに反しヴィオレッタの表情からは安堵の色が見える。



「外にはどの程度の敵が居た?」


「それはもうワラワラと。あれだけの人数に武器を行き渡らせたなら、さぞ武器商も儲かっただろうね」


「曖昧な表現は要らん、具体的な数を示せ!」



 僕はバリケードへと背を預けながら、肩を竦めて揶揄する言葉を発する。

 ただヴィオレッタもいい加減疲労が溜まっているせいか、そんな言葉に付き合ってはくれず、逆に叱られる破目となってしまった。

 答えを急かすヴィオレッタへと敵の規模を可能な限り詳しく伝えると、彼女は眉を顰め思案を始める。


 都市の中でも住宅街の比較的奥に位置するこの路地裏は、細く枝分かれした道が四方八方へと伸びている。

 北へ進んでいたかと思えば東の通りへ、東へ進もうとすれば南へ出てしまうという、非常に難解な構造をしているのは、ひとえに人口増などによって無計画な拡張を重ねたため。

 そのため地元の人間以外ではまず迷う場所であり、他の土地から来た人間では現在地を把握するのすら困難。

 現在傭兵団を取り囲む敵にしても、その全員が元イェルド傭兵団の団員という事はないはず。

 なので地の利はこちらにあり、道の細さもあって守り易いのは確かであった。



「一応だが……、ここで戦っている以上は負けることはないのだろう」



 思考を回し終えたと思われるヴィオレッタは、深く息を衝き小さく呟く。

 彼女はその手に一丁の銃を手にしており、それへと弾を込め直しつつ、バリケードの隙間から暗い路地の奥を窺う。


 大陸南方の国家にある正規軍を除けば、現在イェルド傭兵団しか保有していない、銃という兵器。

 それはここのように、狭く逃げ場がない進路において、非常に高い効果を表す武器であった。

 遠距離の攻撃と言えば弓か投石しかないこの星において、金属の弾を高速で打ち出すこいつは、他者に対する圧倒的なアドバンテージとなる。

 しかしそんな武器を持っていても……、いやだからこそか、ヴィオレッタには気がかりとなることがあるらしい。



「だが向こうもコイツを警戒してか、なかなか姿を現さなくなってきた。長期戦になるやもしれん」


「困ったな。弾と火薬は十二分にあるけれど、そうなると今度は真っ先に食料が不足するか」


「近隣の住民に供出してもらうにも限界がある。早々に手を打たねば、先に干上がるのはこっちだ」



 傭兵団の元団員たちが敵に周っている以上、銃という存在の危険性は伝わっているのが当然。

 ならば下手に突撃し損害を増やすような真似をせず、取り囲んでこちらが干上がるのを待てばいい。

 向こうからすれば、弾の届かぬ場所に隠れ待ってさえいれば、自然と勝利が転がり込んでくるのだ。こんなに楽のことはない。



「ならこっちから出て行くしかないな」


「どうするのだ、いくら何でも多勢に無勢だぞ。……お前の装備もここには無いのだろう?」



 僅かに建物の陰から姿を現した敵へと、ヴィオレッタは一発の弾丸を放ちつつ、小さな声で問うてくる。

 エイダにも先ほど言われてはいたが、地球製の諸々な武器の類は、全て都市から離れた格納庫に保管してある。

 金属を容易に切り裂くナイフに、軍艦の隔壁を破砕する威力を持つライフルなどをだ。

 対象を電撃で麻痺させる効果を持つ拳銃は普段身に着けているのだが、最近少々不調を訴えていたため、仕方なしにそれも修理するまであちらに置いている。



「二丁ほど借りていくよ。あと弾と火薬も持てるだけ」



 僕は手近に置かれていた、まだ数回しか使われていないと思われる銃を二本肩へかける。

 そうしてすぐ近くの建物の窓枠へと手をかけると、グッと力を込めて身体を跳ね上げ、壁面の突起を手掛かりに屋根の上へと登っていった。


 防衛には優位な細い路地が、反撃に関しては逆に足枷となるのであれば、今度はそこを捨ててしまえばいい。

 多くの人が暮らすこともあって、多くの集合住宅は林立し、その間隔は非常に狭い。

 なので屋根から屋根に伝い渡るのは造作もなく、その構造を利用し上から襲撃を掛けるというのは十分可能だった。

 あえて向こうがそれをしなかったのは、星明りの届く屋根の上に反し、路地の底は暗く何も見えないためだろう。



「相手は随分と暗い所に居るが、見えるのか?」


「問題はないよ。見る役割は僕以外が担えばいい」



 当然そこはヴィオレッタも考えたようで、路地奥の真っ暗な空間を眺め呟く。

 だがこちらはある程度、それを無いモノとして動くための術が存在する。

 それに使う銃も当初こそ多くの不良品を製造したものだが、最近では随分と品質も安定してきているので、安定して真っ直ぐ弾を飛ばせるはず。



「上から攻撃して混乱させる。その間に下の方は頼んだ」


「いいだろう、連中の防備が崩れたなら仕留めてみせる。だがせいぜいわかり易く合図をすることだな、手を振っても気付かんぞ」


「なら松明でも転がそうか。小さいのと燃料をくれないか」



 家屋の屋根から路地を見下ろし、敵を狙撃することによって混乱を誘う。

 ただそれをした後でする合図も必要で、僕は幾つかの小さな棒へ布を巻き付けた物と、着火に使う液体燃料の入った小壷を放り投げてもらう。

 銃と弾を合わせかなりの量になりつつあるが、屋根の上を移動するくらいなら訳はないだろう。



 ヴィオレッタと別れた僕は、そのまま屋根の上を駆け、ひとまず手近な敵の近くへと移動した。

 吹く風によって凍える様な寒さを耐えながら進み、屋根の縁から真下を覗き込む。

 ただ普通に肉眼で除いたのであれば、ひたすら暗闇が路地の底へと溜まっているのみで、敵の姿など到底確認できない有様。



「エイダ、頼んだ」



 僕は自身の左手へはめた手袋を脱ぐとその内側、手の甲の部分へ納めていた一つのネックレスを取り出す。

 そいつを自身の首へとかけなおし、先端部分へ囁くようにして呟いた。


 この都市から遥か遠く、深い森林地帯へ放置されたままである航宙船へと、エイダの本体は納められている。

 衛星を介してそことを繋ぐ中継器の役割をするのが、この先端部に小さな宝石状の機器が付いたネックレス。

 だがこいつは音声やデータの送受信を行うためだけではなく、各種のセンサーも内蔵された代物。

 普段はあまり使わないが、起動させれば暗闇における熱源を探るなど造作もないことであった。



<了解。熱源を投影します>



 直後指示を受け機器を起動させたエイダによって、熱源を視覚化した映像が脳へ映し出される。

 すぐ真下、路地の隅へと隠れるようにして六人。手には弓や剣が握られ、いつでも戦闘を行える体勢を取っていた。

 ただ上への警戒は鈍いようで、一度たりとて見上げる素振りは窺えない。



「ここが済んだらすぐ次の場所に向かう。他の敵が居る地点をマーキングしてくれ」


<衛星からでは、建物が邪魔で正確な位置が定かでありませんが>


「大雑把でいい。別に全員を仕留める気はないからね」



 それだけを告げると、持って来た銃へ火薬と弾を込めていく。

 製造当初は先込め式であったそれも、今では手元で全てが行えるようになり、随分と発射までの手間が簡単になった。

 その銃を使用する準備を二丁分終わらせると、すぐさま眼下へ構え、暗闇の中へと浮かぶ熱源へ向け撃ち放つ。



「なんだ、どうした!」


「敵か!? 見張り連中は何をしていた!」



 突如として起こった破裂音に加え、すぐ間近の味方が倒れたことで混乱が生じる。

 暗い路地の中で潜んでいた数人の敵は、手にした武器を構え周辺を窺い、必死にこちらの位置を掴もうとしていた。

 中にはそろそろ上からの攻撃であると気付く輩も居るはずと思い、次いでこの中でも比較的冷静そうに見えた一人を、用意しておいたもう一丁で撃ち貫く。



「次っ」


<北北西一二五m付近。推定五人>



 腰へと差しておいた短い松明へと点火し、それを路地の中へと落とす。

 そうしてエイダから告げられた簡潔な言葉に従い、僕はその場に敵を置いたままで屋根の上を再度移動し始めた。

 真っ暗な中で浮かんだ明り、それによって僅かに目が眩んだ連中へと、下で待機している団員たちがすぐ駆けつけるはず。

 そして思った通りり、次の場所へと移動を始めた僕の背後では、殺到する幾人もの傭兵たちの声と、打ち合う武器の音が上がり始めた。




 その音に納得し、急ぎ次の地点へ。

 そこでも同様に建物の上から路地内を狙撃し、目印として燃やした松明を放る。

 傭兵団を取り囲んでいた連中は、このまま持久戦を覚悟したことで、一定の気の緩みが生じていたのだろう。

 突如として降りかかってきた攻撃に混乱をきたし、次々と団員たちの手によって制圧されるというのを繰り返す。

 当然中には銃の存在を知っている人間も混じっているため、上からの襲撃であると気付き反撃をしようと試みる者も居たが、真上に矢を放つ危険性を考えてか碌な抵抗はされずにいた。



「このままいけば、すぐにでも包囲は崩れるだろうな」


<もう今の時点で十分な気もしますが……。おや?>



 思いのほかアッサリと崩れていく敵の包囲に僕は気を良くし、外気の寒さを忘れ屋根の上を飛び回っていく。

 しかしもう十分ではないかと告げるエイダの言葉へと、突然に怪訝そうな色が混ざったのに気が付いた。

 いったいどうしたのだろうと思い、立ち止まって銃へ弾を込めながら問うてみると、エイダは少々意外な内容を返してくる。



<いえ、大通りに少しばかりおかしな光景が。かがり火でしょう、幾本も立てている場所があります>


「敵の本陣か?」


<最初はそう思ったのですが、人が一人だけしか確認できません>



 普段であれば酒場の明りなどが灯る大通り。その中でも都市機能の中枢が集まる地区への、入口に当たる境界付近となる場所。

 だがこのような非常事態にあっては、当然のように客など望むべくもなく、店々は全てその扉を固く閉ざしている。

 なので比較的広い大通りで一か所に明りが焚かれているとなれば、それは敵の本陣が置かれているという発想が真っ先に浮かぶ。

 しかしどうやらそれとは異なるようで、すぐさま不審であるとされた地点を映したものが投影された。



「……こいつは、また面倒な」



 脳へと投影された画像は、暗い路地と異なり明るく照らされていたため、かがり火の中心へ立つ人物をくっきりと映し出していた。

 僕は大通りをたった一人で塞がんと、腕を組んで立つ人物の姿に息を呑む。


 オレンジの明りを受け跳ね返す銀色の重厚な鎧は、それらが誇る権勢や威光を反映していると言わんばかり。

 背後の都市中枢部を護るべく立ち塞がる、豪奢さを表に出した鎧を纏った人物。

 ゼイラムという名の騎士隊隊長の姿に、僕は騒動の終焉が近いことを感じ取っていた。



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