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ライフ・サテライト 04


<チェック。通信感度は良好、ノイズは見られません>


「音声は問題なし……、と。動画類の方はどうだ?」


<テスト用ムービーの送受信を行います。――チェック、こちらも良好の模様ですね>



 手元のタブレットをスクロールしつつ、必要な項目を一つずつ確認していく。

 打ち上げに成功した衛星が、本来の性能通り動作できるか。その試験を行わなければ、安心して使えはしないためだ。


 次々と確認事項を口にし、それに対してエイダが結果を報告していく。

 若干かったるく思える作業だが、今のところは全て順調で、一つとして引っかかる様子はない。

 ここで全てをパスしたとしても、後でこれと同じことを団長の衛星でもしなければならないのだが。



<衛星画像の収集を試行、現在そちらも問題はありません>


「とりあえずトラブルはないみたいだな。それじゃ、ついでに外の方も見てみようか」


<外……、ですか>



 とりあえず当面必要と思われる項目をチェックし終え、これでひとまずは完了。

 そこでついでとばかりに、僕はエイダにこの惑星外、宇宙の側を探知するよう指示した。


 未だこの惑星のすぐ側では、地球圏の勢力と僕の住む惑星を占拠した勢力が戦闘を続けているはず。

 エイダがこれまでそれに言及してこなかった点からして、その状況は何一つとして変わってはいないのだろう。

 だがこれもテストの一環だ。



「この惑星外の戦況がどうなっているか知りたい。前に確認した時は、遠くから実弾兵器を撃ち合っていたんだったか」


<肯定です。ギリギリ届くかどうかといった遠距離から、延々と無駄弾の応酬をしていました>



 質問に対し、彼女はなかなかに辛辣な言葉を返す。

 それがいったいどういう理由で行われる攻撃なのかは知らないが、エイダにしてみれば無意味な行為であるように思えたらしい。



 情報を収集するよう指示するも、範囲が広大であるためだろう、多少の時間が必要とのことでしばし待つ。

 その間残された細々とした検査項目を手元のタブレットで処理していると、エイダは戦況の確認を終え報告を行う。



<敵性勢力の情報が不足しているので、そちらに関しては詳しい艦種などがわかりません。ですが前線に出張っている艦艇の数では、双方然程変わりはないようです>


「地球の統合軍と真正面から戦うなんて、随分と大きな戦力を持ってるんだな。来ている艦隊は?」


<今のところ、複数艦隊の艦船が確認できます。ただ旗艦は見当たらないので、全力で敵を潰しにかかっているとまでは言い切れませんね>



 告げられた内容に、僕は僅かに嘆息する。

 来ている戦力はそれなりであるようだが、早くこの状況を収束させようという意思はなさそうに思える。

 どうやらまだまだ戦闘は終わりそうになく、救助される日は遠そうだ。別に今更助けられてもという気はするが。



「その理由は考えてもしょうがないな。色々と小難しい理由があるんだろうさ」


<私としては一刻も早く救助してもらい、船体の修理を行いたいところですが……>


「修理だって? もし救助されたらこの船は廃船だろう。たぶん解体処理だ」


<でしたら反対です。このままこの惑星に居た方がマシというものです>



 冗談めかして告げると、エイダはすぐさま発言を撤回。この惑星で生きていくのが良いのではないかと言い始める。

 もし本当に救助が来たとしても、おそらく船体の回収まではしてくれないだろう。

 逆に未踏文明に干渉するのは善からずと判断され、エイダのコアユニットごと破壊されてしまう可能性すらある。

 仮にそうなったとしても、そもそもこの航宙船は僕自身の持ち物ではないので、文句を言う権限すらない。



「いっそ救難信号を切ってしまおうか」


<それは良い考えです。もし本当にそう判断する時が来たならば、是非とも>



 小さく発した言葉に、エイダは同意の声を上げる。

 彼女はそれを冗談であると捉えたようだが、本音では若干それでも構わないと思え始めていた。

 いい加減こちらの暮らしにも慣れてきたし、気の置けない仲間も増えた。

 言語の問題はまだあるが、それは追々解決していけばいい話だと考えているのも、そういった想いに拍車をかけているのだろう。



 だがともあれ今は、そこをどうするか考えている場合ではない。早く次の作業へと移らなければならないのだ。

 コンソールを叩き次に打ち上げる団長の衛星を表示すると、再度コードを打ち込んで発射の準備を再開する。



「早く済ませて休もう。明日の朝にはここを発つぞ」


<懐かしの我が家であるというのに、名残を惜しむ時間もないのですね>


「生憎僕は忙しいからな。早く済ませてラトリッジに帰らないと、休暇ナシで次の任務へ向かう破目になる」



 僕はタブレットへと視線を向けつつ、眼前のコンソールを急いで打ち続ける。

 ここまでで既に四日近くを消費しているのだ、早く帰らなければ、本当に休暇が終わってしまいかねないのだ。

 それに衣料品店の店主との約束は二日だけ。親切にしてくれた彼に、あまり迷惑をかけたくもない。

 おそらくは休暇の延長などしてくれないであろう、団長の悪戯めいた表情を思い出しつつ、僕は急ぎ作業を進めていった。







 昨夜は急な天候不順によって打ち上げを延期したため、翌日の早朝、晴れ間の覗く時間帯に再度打ち上げを行うこととなった。

 二度目にして打ち上げた団長の衛星は、問題なく静止軌道上へ。そしてその日の午前、展開を完了した衛星を使い早速動作確認を行う。



「テスト、テスト。本日は青天……、でもないですが」


『問題なく聞こえているよ。それにしても随分と古い言い回しを知っているものだ』


「恐縮です。昔はやることがなくて、古い映画ばかりを見ていたもので」



 コンソールに向かって声を発すると、それに返すように脳内ではなく船内へと流れる団長の声。

 僕はその団長が発した言葉に、苦笑しながら過去の趣味を口にする。

 今行っているこれは、打ち上げた衛星を介し、団長相手に通信が良好に行えるかの試験であった。


 どうやらこちらも正常に起動しているようで、音声による通信は問題は無さそうだ。

 団長はその結果に対し納得したようで、満足気な様子で口を開く。



『すまないな。手間をかける』


「いえ、ついでですので。その他の動作チェックはこちらでは出来ないので、団長の方でお願いします。もし万が一トラブルが起きましたら、一時的にこちらの衛星を使っていただいても構いませんので」


『その時は世話になるよ。で、どうだね。久しぶりの我が家は』



 流石にそれ以外、衛星が捉えた画像に関するモノであったり、信号の発信云々に関してはこちらでどうしようもない。

 なので以後の検査を団長へと引き継ぐと、彼は了承の後、興味深そうに僕の様子を尋ねてきた。



「懐かしさばかりですよ。ですがもうラトリッジの家に馴染んできたせいでしょうか、そろそろ帰りたくなってきました」


『そいつは団にとってなによりだ。居心地が良すぎてこのまま帰ってこないのではと心配になっていたからね』


「流石にここでは一人で寂しすぎますから」



 僕の言葉へと、団長は冗談めかして返した言葉に苦笑する。

 なにも本気で言ってはいないだろうが、必要としていると明言されたようで、若干の安堵感を感じられた。

 一応は僕も、団の戦力として認めてもらえているようだ。




 その後は二~三の内容だけ確認し、もう少しで期間を行うと告げて団長との通信を遮断。

 早速ラトリッジへ戻るべく、船内に散らばった物の片づけを開始した。



「人使いが荒いな。帰ったらまだ戦場だ」


<信用されているためでしょう。いずれ上に立つための準備段階と考えれば、必要なことです。可愛がられている証拠ですよ>


「だといいんだけど……。自分自身が便利な使いっパシリに思えて仕方ない」



 団長の言によれば、またもや複数の地域がキナ臭くなってきたとのこと。

 ラトリッジ帰り着くなり、少しだけ休んで出立し、僕も何処かへと向かわねばならないようであった。

 今から急いで帰れば、ギリギリ二日は休暇が取れるかどうかといったところか。

 なんとも人使いの荒いことで、長い船旅から帰って、まだ碌に休めてもいない状況に肩を落としたくなる。

 気が向いたら帰ってこいなどと言われるよりは、ずっとマシというものだが。




「さて、こんなところか。それじゃサッサと撤収しよう」


<荷物はそれだけで良いのですか?>



 床へ転がっていた部品を全て納め、店主が持たせてくれた弁当も片づけて全て背嚢の中へ。

 衛星が入っていない分随分と軽くなったそれを担ぐと、エイダは訝しそうに確認を行う。

 忘れ物などはないはずなので、新たにここから持っていく物があるのではと言いたいのだろう。



「ああ、正直思い出の品を持っていっても、邪魔になるだけだからな」


<それもあるのですが、もう一つくらい武器を持っていた方がよいのではないかと。現在携行している物だけですと、使い勝手が悪いのでは>


「確かにそうだけど……。何か丁度良い物でもあったかな」



 エイダが告げたのは、現在持っている高振動による熱で溶かし切るナイフと、障害物除去用のライフルについて。

 それらは威力の高さや悪目立ちするという欠点も相まって、なかなかに使うのを躊躇う代物。

 言う通りこれは使い勝手が悪い。というよりも、使う状況がほとんどないと言っても過言ではなかった。



「実弾銃でもあれば、少しは使い易いんだろうけどな」


<実弾を使用した銃というのは、民間ではほとんど使われていませんので、流石にここには。ですが非接触式の電気銃(パラライズガン)でしたら、二丁ほど保管されているはずです>



 期待もせずに呟いた言葉に対し、エイダの暢気さ漂う声が返される。

 その発言を聞いた僕は、ジトリとした目でどこへともなく視線を向けると、嘆息しながら不平を漏らした。



「なんで最初の時点で教えてくれなかったんだ。そんな物があると知っていれば、ここまでもっと楽に立ち回れただろうに」


<外の世界では、いつ危険な状況へ陥るとも知れませんでしたので。相手を麻痺させるなどという手段では手ぬるいかと。当時のアルは、今ほど戦闘に関する技量も持ち合わせていませんでしたし>



 なにを言っているんだと言わんばかりな返しに、反論も難しく口をつぐむ。

 身の危険となった時、気絶させて命を奪わぬようになどと甘い思考をしていては、こちらがやられるというのは事実。

 なのでエイダが当時その存在を告げなかったというのは、案外間違いではないのかもしれない。




「わかったよ、とりあえずそいつを持っていくことにする」


「了解です。保管庫のロックを解除します」



 言い含められたような感想を抱きつつ、エイダの言うところの保管庫へと向かう。

 壁面に備え付けられたそれの前へと立ち、手動で開き中身を確認すると、中に二丁の拳銃型武器が掛けられているのが見えた。


 とりあえず一丁だけ手に取り、小さく表示されたメーターを確認する。

 バッテリーは自然に発電をしてくれるようなので、基本充電の必要性はないようだ。

 使用者の登録だけ済ませると、念のため出力を最低まで落とし、ホルスターへと納めて腰に据える。



<出力が中程度であっても、人を感電死させるには十分すぎる威力があります。気を付けて使用してください。無力化が目的であれば、最低出力で問題はありません>


「了解だ。人前では使えないのに変わりはないけど」



 とはいえこれまで持っていた物に比べれば、格段に利便性の高い武器であるはず。

 普通の人間相手に使うのであれば、十分なだけの威力もあるようだし。

 休暇を使ってまで戻ってきて、面倒さばかりを感じていたが、これに関しては大きな収穫であるのかもしれない。

 往復で何日もかけた甲斐があったというものだ。



 電気銃を回収し終えると、そのまま荷物を背負って船外へと出る。

 草の覆う地面へと降り立ち後ろを振り返ると、蔦を払いスッキリとした船体の白い塗装が、太陽光を浴びて映える。

 やはり水が豊富に手に入るなら、全体を磨いてやりたいくらいだ。



<アル、顔を見せに行かなくてもいいのですか?>


「……そうだったな」



 船を出た直後エイダに言われた言葉に従い、僕は少しだけ藪の中へと分け入る。

 少しだけ進むと木の生えていない僅かに開けた場所へと出て、そこには一抱え程度の石がいくつか並んでいた。


 その前へと立ち、瞼を落とし静かに黙とうを捧げる。

 自身を入れて総勢六名。両親に加え、偶然脱出時に乗り合わせた人たちの眠る墓標だ。

 しばしそこで祈りを捧げてから、目を開け名残を振り切って町の在る方向へと歩き始める。



「次に戻るのはいつになることやら」


<衛星の三号機を打ち上げる時でしょうか。十数年先の話ですね>


「そいつは随分先だな。……時々は戻ってくるか」


<それがいいでしょう。私も時折掃除をしてもらいたいですから>



 次回がいつになるかは知らないが、到底戦場になりえない場所であるだけに、自身の意思が無ければ来ることはないだろう。

 酷く面倒な場所ではあるが、ある意味で実家とも言える場所だけに、たまには戻ってもいいのではないか。

 そのようなことを考えつつ、僕は衣料品店の店主へと預けた物を受け取るため、急ぎ町への帰途に着いた。



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