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シンプルマザー  作者: ボケナスは嫁に食わせるな
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シェアハウスへお引越し

ミナミ44歳。夫の給料が激減することがきっかけで、離婚をかんがえる。家を売るために、家を出る決意をして姉の家に同居させてもらうことに。今でいうシェアハウスってやつだ。はたしてうまく行くだろうか

「家を売る?」

 ミナミがそう言うと、夫のカズキは素っ頓狂な声をあげた。

「何言ってんだ、お前らどこに住む気だよ」

「えっと、私も働いて、で、とりあえず離婚して、そしたら母子家庭手当とか、もらえるかも知れないでしょ」

 短い髪の毛をぐちゃぐちゃとかき上げながら、ミナミは口をすぼめた。なんとなく、おさなく見せて、同情票をもらおうとするときの、ミナミの癖だった。

「そんな甘いもんじゃないよ。第一、家を売ったって、すぐにお金なんてなくなっちゃうよ」

「まあ、そうなんだけど」

「それに、ここを出てって、お母さん、あなた、うちに一緒に住めるんで?」

「それは・・・でも、頑張ったら、できるかも」

 そういうミナミに、夫は疑わしそうにこちらを見る。

 それもそうだ、この2年、殆ど夫の実家に行けていない。実家の行事に行こうとすると、過呼吸の発作がでたり、眠れなくなったりしてしまうのだ。

 長女のヒカルもあまり行かなくなっており、夫は次女だけ連れて遊びに行ったりしていた。

「でもあの、こっちで、マンションを借りて住んでもいいし。ほら、私も働きだすんだったら、子どもが病気の時みてもらえるように、両親が近い方がいいから」

「って、マンション借りる費用どうする気だよ」

「それは・・・・・・安いとこに住むとか、市営住宅とか」

「そんな勿体ない!だからお金がなくなるんだよ、トクコさんとこ行けよ」

「ええ、嫌だよ、頼めないよ」

 ミナミは即座に断った。トクコというのはミナミの2つ上の姉で、近く、といってもミナミの家よりずっと中心街に近い、便利なところに平屋の家を持っていた。

 平屋と言っても5LDKある。庭も少しだけどあって、しかもそこに一人暮らしをしているのだ。

 姉のトクコは10年以上結婚していたのだが、子どもが出来なくて離婚。

 教師をしていることもあって、自分の給料で家を買った。そして前の夫とは恋人と友人の中間といった関係で今でも付き合いを続けている。

 そう、結婚という枠をとりさり、親族とかを交えない、新しい関係を築いているのだ。

 といっても、詳しくはミナミは知らなかった。

 姉は、ミナミと違って成績もよい優等生で、ミナミみたいな無教養な女とは、幼いころから話が合わなかったのだ。 

 大人になってからは数えるほどしか話していない。

 夫にそういったものの、それを部屋の端できくともなく聞いていた長女のヒカルが、ミナミのそばに近寄ってきて言った。

「わたしも、トクコおばちゃんとこに行くのが良いと思うよ」

「意外?!あんたがそんなこと言うなんて!」

 実は、ミナミは、2年前に最初の過呼吸の発作を起こしたとき、姉のところで2週間くらい暮らしていたことがあるのだ。その頃は、両親も一緒に来て、子どもたちの面倒も一手に引き受けてくれていた。

 あの時は、本当に楽だった。

 夫が月曜日の朝に出勤するまで、家では、みんなが、どうするかということで、互いにああでもないこうでもないと話し合っていた。

 ミナミは皆に反対されたものの、賃貸物件をみて、色々物色していた。

 月曜日、子どもたちを送り出した後、早速、ハローワークにいき、仕事を探した。

 大学のミュージアムの事務補佐の仕事が出ている。時給900円と、地方にしては破格の待遇である。

 すぐに応募してもらった。

 4日後、面接の知らせがあり、電話の翌日、面接のために大学に向かった。

 面接会場には、こわもての3人のミュージアム関係者が座り、その横には事務局の人たちが2人いて、知性的な面々に囲まれることになってしまった。

 ミナミは、あせった。かなり、あせった。

 それでもなんとか、文庫をやっていたことなどを話しまくり、面接を終えた。

 ミナミは、受かってもないのにやる気満々で、子どもたちに、早速、両親の近くに引っ越す必要があると話した。夫にもそう連絡する。

 というのも、ミュージアムの仕事は。土日がメインだったのだ。

 その翌日だった、姉からメールが来て驚いた。何年かぶりである。

「一緒に住むの良いですよ、いつからですか」

と、書かれている。

 驚いて、送信履歴をみると、ミナミの方からメールを送っているのだ。

 ミナミのスマホをいじるのは長女のヒカルだけだ。

「ちょっと、ヒカル、あなた、トクちゃんにメールした?」

「ああ、おばちゃんに私がたのんどいたよ」

と、いけしゃあしゃあと言う。

 でも話をつけてくれてるんならと、一応、電話してみる。姉とはいえ、教師という人と話すと思うとなんだか緊張してしまう。

 いくつになっても先生って、いやな存在なのだ。

「ああ、あれ、ミナミがメールしたんじゃなかったんだ。こっちは良いよ、ただいつ来るかだけ教えてくれたら」

 姉の言葉に、ミナミは拍子抜けした。でもまあ、確かに、過呼吸の時、お世話になっているし。

 夫に続けて電話すると、

「ちょっと待ってよ、今でも私は子どもたちに滅多に会えないのに!」

と、自分で提案しておきながら反対する。

 姉のトクコのことを思い出し、ミナミはうっかり言ってしまった。

「あのさ、この際なんだけど、私たちも離婚して、トクちゃんとこみたいな親族抜きの関係にならない?」

 実際、夫のカズキは、平日は姑と実家暮らしだし、それ以外にも、瞑想修行のためといって週末セミナーの旅行に行ったりで、会えない時も多いのだ。

 それ以外にも、ミナミは、夫の実家に行かないと決めると過呼吸がなくなるとか、今後の健康を考えると、トクコのような関係性は、子どもにとっても良いことのように思えたからだ。

 でも夫のカズキは違った。

「いいよ、いいよ、あなたが離婚したいんならいいよ、だけど、養育費はだせないからね!」

 ちょっと驚いた。養育費は払ってもらえると思っていたのだ。

 でも思い出した。夫のカズキの従兄弟は6人離婚している。

 そのうち、よく知っている従兄弟2人は、いずれも養育費を払っていない。それどころか、住んでいた家を出て、奥さんだけが働いたり実家に帰って子どもたちを育てているのだ。

「いいわよ、家を売ったお金をもらえれば」

 今住んでいる家は、ミナミの両親が、古い家を土地値で譲ってくれて、それを内外装すべて費用両親もちでリフォームしてくれた家だ。

「あげんよ、私の家だから、私の好きにする」

「ええ!!!」

 ミナミは驚いた。確かに、ミナミは働いていない期間も多かったし、家庭文庫でお金を使ったといつも言われていたので、権利はあまりないかも知れない。

 しかし、この家は、もうローンもないし、結婚後の財産は2人の共有だと思っていた。たとえ名義が夫だったとしても。

 なんだか、夫って人のことが、つくづく、少し離れて考えてみたいなって思えてきた。トクコのところのように、カタチなんかにこだわらず、実質、友人であれば、別に戸籍一つで、ミナミの過呼吸がとまるのならば、それも一つありなんでは、そう思えてきたのだ。

 夫がまだぎゃあぎゃあ言っているのを

「電源キレそうだから」

そういって、切った。

 ミナミは、娘2人を呼んだ。

「引っ越しするから、最低限の荷物をバックにつめて」

「どこに行くの?」

次女のユウカが訊く。

「トクコおばちゃんとこよ」

「ええートクコオバチャン嫌い!!」

 ユウカは大騒ぎだ。

 子どものいないトクコは、それでも腐っても教師(多分腐ってないと思うけど)。子どもだろうがお構いなしにからかう。

 トクコとユウカは、会うと、しょっちゅう追いかけっこをする仲なのである。

「ええ、ええ!!」

 と、言っていたけれども、新しいところに引っ越すのが嬉しいのか、早速、おもちゃをカバンにつめている。

 ヒカルは、手早く下着と制服をつめると中学校のカバンを背中にしょった。

「行こう」

 ミナミも下着と洋服を2着、自分とユウカの分を持ち布団を積むと、ひらりと車に飛び乗った。

 その夜、そのまま、トクコの家に泊まった。

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