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シンプルマザー  作者: ボケナスは嫁に食わせるな
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入社前健康診断

「内定が決まりました」

 ミナミは、スマホを無意識に近づけた。

「あの、本当に、ですか?」

 スマホの女性の声は、ふふっと笑うような調子にかわった。

「ええ、ただ健康診断を受けていただきます」

 ミナミの目の前は真っ暗になった。

 ああ、また健康診断!

 自費もさることながら、健康診断に通る自信がない。今のミナミはなんといっても高度肥満状態だ。

 Ⅼサイズの服が入らないのだ。

「はあ、わかりました」

「では、来週火曜日に、当社グループ内の病院で健診を受けていただきます」

 日付も、病院も指定。もう逃げられない。

 せっかくの希望のNPO職だが、これは断った方が良いだろうか。痩せてからもう一度探した方が良いだろうか。

 そう思いながらも、ミナミは、行くことを約束していた。

 電話を切ると娘2人がこちらをみている。

 夏休みに入ったばかりの娘2人と、美容院に来ていたのだ。

 ちょうど支払いを終えて出たときに電話があった。

 切られたばかりの髪をさわりながら、切れ長の目でこちらを窺う長女のヒカルは、別人のように見えた。 ずっと長い髪で中学に入ってからは規則通り後ろで一つにくくる髪型だったので地味な事務員さんのように見えていた。

 今は、肩に届くくらいの髪をウルフカットにしている。今まで一度もそんな髪型をしたことがなかったので、新鮮だ。

「どうどうどう?」

 ヒカルは、面接の結果であることを察しているらしく、ミナミに詰め寄る。

「うーん、内定はもらったけど、健診の結果次第だって」

「大丈夫よ、お母さんなら仕事いけるって!」

 いつもは反抗期のヒカルから確約をもらっても、なんだか裏がある気がしてすなおには納得できない。

「お母さん、仕事行くの?」

 次女のユウカも期待した目でミナミをみつめ、暑いのに腕をからませてきた。

「行きたいんだけど、なかなかね」

「大丈夫だって、健診通るって、最近お母さん痩せたよ」

 ヒカルの言葉に勇気づけられるものの、にわかには信じがたかった。

 どうみても体重計の数字は変わっていないからだ。

 ミナミの体重は67キロから65キロ台になったり66キロに戻ったりを、この2週間ほど繰り返していたからだ。

 車にのってエンジンをかける。エアコンをいっぱいにしてから、ふと思いついてスマホをとった。

 グーグルで『短期 ダイエット 健康』を検索する。

 一番最初に出てきたのが、酵素によるファスティングだった。

 ミナミは今までも南雲式の一日一食や、石原式一日二食などを試してきたが自宅で一人でやるのは限界もあったし、何より苦しさのためにリバウンドしてしまうことを度々繰り返してきた。

 しかし最近は酵素ドリンクのおかげで、断食は楽になったと書いてある。

「これ本当かな」

 といっていると

「なになに?」

 ヒカルとユウカが後部座席から身を乗り出してスマホ画面をのぞき込む。

「またダイエット!やめときなよ」

 ヒカルが辛辣にいう。

「だって、このままじゃ、健診受からないもん、あと4日後だよ」

「でもダイエットは危ないよ。リバウンドするし」

 ヒカルは一々もっともなことをいう。

「だけどね、断食って、毒素を出すし万病に効くって言われてるのよ。ガンだってなおるって」

 ヒカルもユウカも疑わしそうにこちらをみている。

 まあ、何度も断食して、そして今、丸々太った体を抱えた母親から、今更そんなセリフをきかされてもにわかに信じられない気持ちはわかる。

「お母さん、やってみるね」

 ミナミは思い立ったら吉日。早速、車を薬局に走らせた。

 薬局につき、ヒカルとユウカに

「お菓子を一つずつ買ってあげる」

と、いうと、二人とも飛んで行った。

 ミナミは健康食品の棚で見たことのある酵素ドリンクを探した。確か、すごく高かった。

 じっくり見てみると、高い物は7000円を超えるけれど、一番安い物は1980円だった。

 砂糖不使用の無添加とあるし、一番安いものを買った。ミナミは痩せにくい体質になっているところからみても、酵素が不足していると感じていたからだ。

 新谷先生の本を読んで、酵素や生食を取り入れていたこともあるミナミだけど、生でばかり食べていると体が冷えてきてしまった経験から酵素が苦手になっていた。

 しかしEM菌を飲む健康法もあるくらいで、野菜作りにも酵素液が良いのだから、当然、人間にもよいのだろうというくらいの認識はあった。

 ヒカルとユウカをつれて姉のトクコの家に帰った。

 姉のトクコは、まだ帰っていなかった。

 ミナミたちの部屋は続きの和室だけど、もうはや、当初、綺麗にしておこうという試みはくずれさり、すっかり散らかり放題になっていた。

 座卓の上にバックをほうりだし台所に向かった。

 ヒカルとユウカのためにソーメンを作り、ミナミは二人を呼んだ。

「いただきます」

 姉のトクコが帰る前に急いで夕飯を済ませてしまおうと二人を急かしていると

「お母さん、食べないの?」

 ユウカが心配そうにのぞき込む。

 ユウカも太目だったのだが、最近ぐっと痩せてきていて標準体重までは、身長があと3センチのびて、体重が一キロ減ったら良いまでになっている。

 今日、美容院でおかっぱに切りそろえてもらい、とても可愛くみえた。いや、もちろん、普段から娘は2人とも、ミナミに似ずとても可愛いのだけど。

「お母さん、食べないんじゃないの。このお水に、たっぷりと栄養が詰まってるのよ」

 そういって、ミナミはリサイクルショップで買ったクリスタルのブランデーグラスに入れたお水に、氷を入れて酵素液を垂らした。

 シュワーっと発砲する音がする。

 氷に酵素が反応したらしい。

 一口飲んでみると、意外においしかった。

 ブランデーをすするように、ちびちびと飲んでみる。

「おいしい!」

「絶対ウソでしょ」

 ヒカルの冷たい目線がミナミにつきささるがミナミは平気だ。

「いや、本当においしい」

 別段、甘いとか、特別な味とか、そういうのではないんだけど、おいしいって感じる味なのだ。不思議に。

 それに飲み終えると満腹感もあった。

 飲み終えてもまだ、シュワシュワいっているので、余っている酵素液を溶かすように、何度も何度も、氷がとけるまで水を継ぎだして飲んだ。

 なんだか、健康になれそうな気がしてきていた。

切ってカフェに入ろうとしていたミナミは

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