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シンプルマザー  作者: ボケナスは嫁に食わせるな
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居候歴3週間

「おはよう!」

 姉のトクコの家に娘2人と居候して3週間。

 ここ何十年かぶりに、実の母親に揺り起こされた。

 時計を見ると、6時である。

 みると、父もそばに立っている。

 昨夜、泣きながら前の家に行き、ヒカルの計画表をもって姉のトクコの家に帰ってきたのだが。寝過ごしたらしい。朝が辛い。

「トクちゃん、あんたが嫌なんやったら、別にわたしたちはかまんのよ」

 母がしゃあしゃあというセリフに、姉のトクコはただ笑っている。

 ミナミのときと違って、トクコは両親には何も言わない。

 まあ、それもそのはずだろう。トクコの家は市内でも便利な一等地にあることもあるが、自分の給料だけではとぼしい分を、かなり両親の助けを借りて買ったり改装したりしてきたのである。

 だから、トクコの家でもあると同時に、両親にも権利はあった。

 それに、昔から、トクコのように断定的で居丈高だったのは、母の専売特許で、年を取ってマルクなったものの、いまだに、トクコは母に頭が上がらなかった。

 ミナミももちろん、同じではあるけどね。

 姉のトクコは

「わたしはまあ、考えさせて」

と、言いながら、逃げるように職場へと急いだ。

 両親がきたことで、次女のユウカは元気づき、大はしゃぎだった。

 昔こそ厳しかった母だが、今は誰よりもよきミナミの理解者でもあった。

 もしかすると、昔の母を理解するには、ミナミが子ども過ぎたのかもしれない。 

 ミナミもまた、ユウカを幼稚園に送っていき、その足で家の引っ越しの整理をしてくるからとトクコの家を早々に出た。

 ユウカを午後5時過ぎ。預かり保育から連れてトクコの家に帰る。

 今日は賑やかだった。部活をせずに帰ったヒカルは、気を遣うのよね、とかいいながら、結構、わいわい楽しそうだった。

 まあ、ヒカルは小さい頃から、ミナミの両親に可愛がられてきたので当然かもしれない。

 ユウカもまた、おおはしゃぎで、午後8時を過ぎても眠らなかった。

 姉のトクコもいつになく、穏やかで笑みまで見せていた。ミナミにはついぞ見せなかった表情だ。

 ヒカルは、それまでも時々、ミナミの両親が使っていた部屋を使って一人で眠っている。

 でも、ミナミとユウカは、座敷で一緒に両親と眠ることになった。

 ユウカは、おじいちゃんとおばあちゃんに挟まれて大はしゃぎだったけれど、ミナミはさすがに、なんだか落ち着かなくて眠れなかった。

 ミナミは夫や娘2人と眠っているときもなんだか落ち着かなくて、時々、一人でソファに眠ったりしていた。でも、トクコの家ではそういう場所もなく、トクコは、夜中の12時過ぎに、たまらず公園に散歩に出た。

 行く当てはなかった。

 いつの時点の、どの場所でも、ミナミはどこにでも行っても良いという条件を与えられても、結局、どこにも行く先などなかったのだった。

 ただ、ミナミはそれでも、心の奥ふかくふかく、そこに自由があることだけは知っていた。ただし、普段は自分ですら、それがどこにあるのかさえ、わからなかったけれども。

 ミナミは公園のベンチに座ったり、トイレに行ったり、ブランコしたり、水飲み場で水を飲んだりして時計を眺めて過ごした。

 時計の針はちちとして進まない。

 まだ午前2時にもなっていない。

 肌が露出した部分に、たくさん、蚊がすいついている。かゆくてたまらない。

 少しブラブラ歩こうと、町に向かって歩き出す。

 スリッパをはいてきたので、30分もしないうちに、靴擦れで歩くのが痛い。スリッパをぬいで歩いてみたが、足の裏に色々あたるので、また痛いながらもスリッパをはいた。

 市内電車のベンチにようやくおさまり、おちていた本を読むでもなくひろった。

 『公共事業のすすめかた』という本だった。

 ミナミは、水虫の足をボリボリとかいた。

 皮がいくらでも、むけるのだ。

 ずっと恥ずかしくて病院に行けなかったけれども、今度こそ行こうと、ミナミは決意した。そう、今日行こう。

 今までずっと、先延ばしにしてきたけど、先延ばしにして良かったことは、何もない。

 今日、思いついた。だから、今日、行こう。

 いっぱいいっぱいになって、悩んだ。一晩悩んだし、昨日だって、その前の日だって、ずっとずっと悩んできた。

 思えば、生まれてから44年間、今の自分に満足することもなかったし、今の自分でいいんだよと言ってくれるのは、きまぐれに人をほめる夫くらいのものだった。

 というか、ミナミを唯一、褒めてくれたのが夫だったのだ。本当に、ミナミの恩人であった。

 ミナミをドン底の心境から救ってくれた人だった。

 ミナミが一人で歩いていく勇気を与えたくれた人だった。

 どこでどうすれ違ったのか、結婚以来、夫はやっぱり姑のものなのだなぁと、そうミナミは実感していた。

 午前5時頃、家に帰ると、両親が起きてミナミを待っていた。

「大丈夫?」

「ああ、散歩に行っていただけだから」

 そういうと、ミナミは笑った。

 かなり疲れていたけれども、ミナミは笑った。

 笑ってみれば、何もかもがうまく行ってくれるようなきがして、とにかく笑った。

 おまじないに似ている。ちちんぷいのぷい!

 イタイの痛いのとんでいけ!

 そんなことでは何も変わらないという人もあるし、ちょっとききかじった量子力学のように、観測者がいればそれが現れるって可能性だってなきにしもあらず。

 ミナミにはどうでもよかった。

 すべてが。

 無意味で、無価値で、それでいて必然で。それでいて可能性というのが常に広がっている。

 世界とは、ミナミにとって、そういうところだったからだ。

 久しぶりにまともな朝ごはんを食べた。

 ミナミは一日一食とか一日二食を実行していた。

 それでもミナミの体型は変わらなかったけれどね。

 それなのに食欲とストレスと食べない事によるイライラはつのるばかり。

 健康ってなんだろうって、そう思わずにはいられなかった。

 ユウカを幼稚園に送っていきながら、どうしたもんかなぁと考える。

 とにかく、両親が住んでくれたら、ミナミは料理の心配も食費の心配もせずに仕事にいける。娘たちにとっても良い環境だ。サザエさんのようにアットホームになっている。

 でも、眠る場所がこれでは、ミナミはゆっくり休める自信がない。

 ミナミはユウカを幼稚園に送り届けるとすぐにハローワークに向かった。

 職さえあれば、昼間は両親と顔を合わせることもない。

 眠る場所を、ヒカルの部屋に一緒に眠るなどの工夫が必要だ。だがそれ以上に寝不足ではあるものの、両親がいることの安心感はミナミにとっても大きかった。

 先延ばしにしていたハローワークに行ってみようというのも両親のたまものだ。

 ついでに、市役所で住所変更も済ませてしまおうと思った。それから足の水虫治療のための皮膚科にも。

 ミナミは、手帳を出して、今日の計画を書いた。

 そしてハローワークに向かった。

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