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シンプルマザー  作者: ボケナスは嫁に食わせるな
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モノモノモノであふれかえる家

夢のマイホームを手放して売るために荷物を運び出そうとして、ミナミは気が付いた。着ない洋服たちがこれほど多く家の中に押し込まれていたことに

チュンチュンいうすずめの鳴き声と電車のガタンゴトンいう音で、目覚めた。

「朝かあ」

 ミナミは布団の中で横になったまま目を開けた。

 ミナミは太っているので高血圧に間違われるけれども、ひどい低血圧で、妊娠中でも上の血圧が100いかなかった。

 出産後など上が80台になって、看護師さんや助産師さんが心配してしまったほどだ。

 一番低かった時で上が77、下が38といったときもあった。そのときは病院に健康診断にいったのだが「大丈夫ですか、ちょっと病院で眠りますか」

と、医者がすすめるほどだった。確かに、さすがのミナミもだるくてしんどかった。

 だから、朝は苦手である。

 よく、低血圧と朝は関係ないというけれども、ミナミは大体において、カーッと頑張る方ではないのだ。

 神社をしていた家系というのもあるが、むしろ、まったく頑張らない。あるいは、頑張れないといった方が良いかも知れない。

 父の家系は皆そんな感じだった。

 母は武将の出なので、血気盛んだ。いつもバイタリティーにあふれ過ぎて、ミナミにはちょっとついていけないところもある。ま、それはそれで、ああいう人も一家に一人いないと、人生はまわっていかないんだけどね。

 ミナミは、ぐったりとしながら、布団で考え事をするでもなく30分ほど過ごした。

 朝すぐには、ぼんやりしていて何にも思いつかないのだ。

 天井を眠い目でぼんやり眺めていると、突然思い出した。

「あ、ここトクちゃんちだ」

 姉のトクコの家に眠っていることを思い出したのだ。

 横を見ると、次女のユウカはいるけれども、長女のヒカルはもういない。

 台所からはガタガタと音がしている。

 いつものミナミならばまだまだ布団でごろごろしているところだ。長女のヒカルは、夫に似て、しっかり者なので朝5時くらいに自分で起きて、制服に着替え、朝食までしっかり食べて決められた時間に学校へいく。

 ミナミが逆に起こしてもらったりしているくらいなのだ。

 本当、親がだらしないと、子どもがしっかりするっていうけど、あれ真実だなって思う。

 ミナミは、だるいながらも、無理に起きて廊下をはさんで向かいにある台所兼食堂兼リビングに行く。ああ、こういうのをLDKっていうんだなってぼんやり考えながら。

 姉のトクコは、朝食を食べ終わったのか食器をもってうろうろしていた。

 長女のヒカルは、昨夜ちゃんと用意していたのか、自宅にあったはずのパンを焼いて食べている。

「おはよー」

 ミナミが挨拶すると

「あ、おはようーございます」

と、姉のトクコが教師口調でいい、ヒカルはムッと口をすぼめてアヒルのようにとがらせながら

「おそい!」 

と、ミナミを一喝した。

 ミナミは別に平気だ。だって、この3年。ほとんど娘2人とミナミだけの生活だったけど、その3年の間、ずっとこのセリフをヒカルは毎朝言っているのだから。

「おっほっほ、ごめんごめん」

と、全然謝る気のない、いつもの挨拶がわりの「ごめん」を陽気に繰り返してミナミは笑った。

「ミーコ、朝ごはんは?」

「ん?食べたり食べなかったりかな」

「あ、そう。私、6時45分には家を出るから」

 トクコは急ぐわけでもなく食器を片付けている。時計をみると、6時30分だ。

「今日、ゴミの日だけど出しておいてくれる?」

「ああOKOK!」

 と、安請け合いするのもミナミの特徴で、この返事をした時点ではちゃんとやる気はゼロなのだ。

 このゴミは今のところ、ちゃんと出される確率30%といったところだ。

 疑い深そうにこちらを斜めに見ている姉に

「大丈夫、あの向かいのマンションのとこでしょ、ゴミ」

と、にんまり笑って見せる。

 大体において、笑ってごまかせるとミナミは44年間信じて生きてきた。

「私、何時ごろでたらいいだろう?」

 ヒカルはイライラと時計をみている。ヒカルは神経質なので小学校一年生のときから、早め早めに登校してきた。集団登校の待ち合わせ場所に10分以上前につくのがヒカル流なのである。

 相手を待たせるってことは、まずない子である。感心感心。

 ミナミとは大違いだった。

「ちょっと早めに行くね、今日は」

 ミナミの返事を待っていたのか、ジャージの足をバカッとけつってヒカルは寝室である座敷に向かった。

 昨夜、トクコの家にいくと、玄関入ってすぐ右隣りにある続きの座敷2間を

「ここ使っていいから」

と、言ってくれたのだ。

「ただし、家具は持ってこないでね」

と、トクコは念を押すことも忘れなかったけどね。

 ミナミも姉のトクコの食器棚から適当にカップを出し、インスタントコーヒーを勝手にいれて、座敷にもどった。

「やっぱインスタントまずい」

 ぶつぶつと文句をいうミナミをヒカルは

「しーっ」

と、いってにらみつけた。

「トクコおばちゃんに聴こえるじゃない」

 6時45分きっかりに、トクコもヒカルも出かけて行った。

 次女のユウカが7時頃起きてきたので、そのまま車に乗せて、洗濯物をもって自宅へ向かった。

 旧の県道から自宅の角を曲がるところに、ローソンがある。そこで幼稚園のお弁当に入れるべくサラダ巻きを一パック。それに、ユウカがねだるイクラのおにぎりを朝食用に1個買った。

 思いついて、ミナミは自分のために、カフェオレのホットと、レジ前にあったドーナツを買った。

 もし明日死ぬかも知れないと思ったら、このドーナツを食べなかったら後悔するって思ったから。

 自宅は、すごく汚く見えた。

 荷物をもって出てきただけなのに、何だかチャンガラな印象だ。

 ソファーで、ボーッと朝の子供番組をみながらオニギリを食べるユウカ。いつもの朝の風景だ。

 ソファーの前のコタツはソファーに座ったまま足が入れられるハイタイプのものだけど、便利なためにコタツというよりは物置と化している。

 姉のトクコの家は、どの机の上もモノがなかった。

 のろのろとしているユウカを急き立てて、洋服を着替えさせ、洗濯機をまわした。

 一か月前に設置してもらったばかりのサンゴ浄水器から直接水筒に水をつめた。それからお弁当箱にサラダ巻きをそのままつめかえ、幼稚園のリュックにつめた。

 タオルは面倒くさいので昨日のまま入れた。

「さあ、早く早く。幼稚園遅れるわよ」

 ユウカを、ミナミは車で幼稚園に送り届けた。

 幼稚園の駐車場は狭いので混雑している。ミナミは運転が苦手なので大抵、幼稚園が始まる8時30分から9時をさけて、9時半過ぎに車で行くようにしていた。

 担任とあいさつをかわして、自宅に戻ると、ミナミはため息をついた。

「家具を持ってくるな、か」

 となると、最低限の物だけにしなければ洋服を置く場所がない。

 トクコから使っても良いと言われた洋服タンスは、70センチほどの幅の小さい物だ。娘2人とミナミの洋服をどうやっても収納できそうにない。

 ミナミは洋服はあまりっ持ってない方だけど、こうしていざ持っていこうとしてみると、一階にある娘2人のクローゼットは一間分。つまり180センチの幅で上下二段が洋服でいっぱいである。

 これを全部持っていくわけには行かない。

 どうしてもいるものだけを、とりあえず選ぶ。

 いつも大体、お気に入りの5着くらいしか娘たちは着ないのだ。

 リサイクルショップで洋服を買うのだが、安いので少し大きめとか、着るかもといった洋服で一度も着られていない服がいくつもいくつもある。

 いつも来ている洋服を選ぶと意外に少なくて2人で30着ほどになった。

 2人の娘は、まだ二階のウェークインクローゼットにしている納戸に、冬服とか上の娘が着られなくなった洋服がぎっしりとかけてある。

 ミナミの洋服はやはり一階の90センチ幅の半間の納戸にポールをつけてクローゼットにしている。

 そこに夏前のシーズンの洋服がいっぱいつまっている。

 どれもよく着るものばかりだ。

 ミナミは、洗濯が面倒臭いので夜眠るときも朝起きてからも、そのまんま着られるように、ゆったりしたチュニックと長いジャージと短いジャージ。お出かけ用のレギンスが何本か。そんなものばかりだった。

 後は、就職するために買った、タイトスカート。ネットで中古をまとめて買ったのだけど、はいてみるとはけなかったので、就職するまでに痩せようと、そのままつるしてあった。

 どれを持っていこう。

 ミナミは汗かきなので、リサイクルショップで

「ちょっといいな」

って思う1000円前後のチュニックを10着は持っていて一日に何度も着替えていた。

 少し動いただけで、滝のように汗をかき、洋服はずぶぬれのようだった。

 チュニックが何着くらいいるかなって思ってみてみると、漂白剤がついて裾の一部が赤く変色してしまったものや、裾がほつれてそのままとか、リボンがとれてしまっているとか、見るからにだらしないチュニックばかりが、何十着もあることに気が付いた。

「わたし、結構、洋服を持っている」

 呆然とした。

 いつも気に入った洋服もなく安物ばかりを買っていると人生を嘆いていたのに。

 すべて1000円としても、ゆうに3万円は超えている。

 チュニックだけでも気に入ったものを3万円で一着だけ買っていたら。

 わたしの引っ越しはもっと簡単だっただろう。

 クローゼットとごみ袋をもって、汗を滝のように流しながら、せっせと、どこかほつれているチュニックたちを次々にリサイクル用のゴミ袋に入れていった。

 ゴミなのかモノなのか、不満なのか満足なのか。それすら分からなくなっていたのかもしれない。


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