表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

転生したのを隠していました。みんな一緒

作者: 風瀧茉海

リーン王国。

ここは剣と魔法の世界。

そして、絶対君主の王様が支配する貴族社会。この国には学校が二つしかない。一つは国立学校。もう一つは国立上級学校。国外では二つの区別なく、リーン学校と呼ばれている。

国立上級学校は国立学校を卒業してから入学する学校。そして、国立学校は15歳から18歳までの貴族子息が三年間通う。貴族でない平民が学校に行くことは滅多にない。時折大商人の跡取りや貴族に見出された平民が飛び込んでくることもあるが、そもそも学校自体が貴族社会。貴族のマナーを知らないものがはじき出されるのは当然のこと。同じ貴族でも男爵や侯爵など下の位置にいるものは親から王族に近づくな、王族と同じ授業は取るな、王族と同じ空間は避けるように、と言い聞かされる。王族に何らかの粗相をすれば、粗相をしなくとも目をつけられたりすれば親を始め、一族郎党の者も影響する可能性がある。

私、男爵令嬢であるアリア・セレインも親や親族から言い聞かされてきた。ついうっかり魔法を使って、耳をタコにしてしまい、弟に面白がられたのは、つい一ヶ月前の入学式前日のことだった。

そして、入学式当日。

自覚があるくらい私は浮かれていた。

何故なら私はクラス分けでAクラスになっていたからだ。Aクラスは定員20名。一定のお家柄であるか、親が役職についているか、クラス分け試験で上位に入ったものだけのクラス。王族と上位貴族だけで構成すると人数が少なすぎることがあるので、成績上位者を入れることでバランスを取り、将来有望という名目もあるので反発も少ない。同じクラスとはいえ、選択授業さえ被らなければ王族や上級貴族とは関わり合いになることは少ない。この世界にお茶会や対抗試合はあっても学園祭や体育祭はなく、同じクラスで一緒にやることはないに等しい。騎士団ではないので、入学式や卒業式で列に並ぶようなことはなく、クラスはあくまで目安なので、机を並べることもない。そもそも貴族たるもの舞台裏を見せるものではない。身分差によって大きさの違いはあるが、生徒には個室が与えられる。学校は小さな王国であり、個室は領地である。個室をどのように使うかは生徒の力量に任せられる。学校なので、学ぶための教室や図書館、食事を提供する食堂、音楽や舞台を楽しむためのホール、室内外競技場などの施設はあるが、基本的に生徒は個室で過ごすことが多い。商人の倅は個室に商品を持ち込み、貴族相手に商売をして成功したことがあったり、辺境の一貴族の令嬢が地産の料理を振る舞ったことから食堂が出来、その令嬢の父親は位を上げたとか。個室も使いようだが、大抵は休憩するかお茶会するくらいにしか使われない。男子生徒はお茶会などを開催することはないので、本当に休憩所になっている。時折チェスや将棋に近いボードゲームをすることもある。けれどボードゲームはもともとが模擬戦争。令嬢には入っていけない世界だった。

けれど、個室の中でも一つだけ他とは異なる目的で使用される場所がある。それは在校生の中で最も高位の生徒だけが使える個室ーー生徒同士の問題や学校運営に関する事務も一気に引き受ける。現在は第二王子が使用する個室だった。最終的に学長のチェックを経て王様に提出される書類も一度はこの部屋を経由する。学校内の王城だった。

入学から一ヶ月。入学時に憧れのAクラスになれたせいで浮かれた私はある失態をしてしまい、授業がないときは第二王子の個室に来ることが日課になってしまった。心配してくれた親や一族の人に申し訳ない気持ちはしなくはないが、日参を辞める選択肢は私にはない。

重要な極秘資料や話し合いがあるため侍女や側仕えなど、執事さえも排除した空間。

「テレビ欲しい〜」

騎士団長の弟が無い物ねだりをしている。

「テレビ? どうやって作るつもりだ?」

留学中の隣国の王子が溜息と共に質問してくる。

「風力発電、ってのは、どうですか?」

現宰相の跡取り息子が小さな声で提案してくる。

「それ以前の問題ですよ、ねぇ王子?」第二王子ではなく第一王子の婚約者である公爵令嬢が第二王子に同意を求める。

「じじぃは楽をするのに車が欲しい。なぁ

アリア?」

第二王子が男爵令嬢である私に同意を求めてくる。

「馬車があるんですから、その乗り心地を良くするのが現実的じゃないんですか?」

私が発言すると全員が納得し、流石成績上位者と褒めてくれるが、これは成績に関係ない。全員が平成前後を生きたはずなのだから、少し考えればわかることだ。この世界にそもそもテレビや車ができるほどの概念も技術もない。剣と魔法が主流なのだから。


私は平成一桁生まれ、ごくごく普通のOLだった。40歳の誕生日を迎えた覚えはあるけれど、その後の記憶はない。死んだ記憶はないけれど、こうしてリーン王国で別人として生きている以上転生したのだろう。幼い頃から記憶はあるけれど、頭がおかしいと言われたくないから黙っていた。誰にも言わずに生きてきたが、入学したとき、Aクラスになれた嬉しさのあまり鼻歌を歌ってしまった。誰もいないのをいい事に日本の国歌や童謡、CMソングやアニメソングなどなど。うろ覚えなのでほぼサビだけ。

それを偶然聞いてしまったのは、王子の個室で今後の過ごし方を話し合っていた面々だった。入学後の一番最初の顔合わせでしかなかったはずが、私の鼻歌のせいで一変してしまったらしい。

「あら? 懐かしいメロディが聞こえますこと」と令嬢が窓の外にいる私に気がつき、聞いた覚えはあるけれど思い出せない曲名をズバリと当てたのは騎士団長の弟。私が歌ったロボット系のアニメソングのタイトルを当てたのが第二皇子で、誰もが知っているアニメの原作者の名前を言ったのが宰相の息子。

最後にやってきた隣国の王子が「ここが異世界だってわかってるのか?」と突っ込まれて全員が我に返ったと、半ば脅されるように連れてこられた王子の個室で説明された。

みな、前世らしい記憶は持っていたけれど、誰も言えずに過ごしていた。王子らしさ、貴族らしさを求められる世界では一瞬の隙が命取りとなるので当然のことだった。

この日からーー入学式のあとから、王子の個室は学校のこともするが、概ね前世の思い出話をする場となってしまった。

因みに彼らの前世は様々だが昭和ー平成を生きた日本人という共通点はある。

第二王子は90歳後半くらいまで生き、おそらく天寿を全うした男性。元SE。

公爵令嬢は地震の災害で55歳でなくなった主婦。近くのスーパーでパートをしていた。

隣国の王子は大企業の二世社長。38で死んだが、死因は教えてくれなかった。

宰相の跡取りは大学生のときにスキューバダイビングの最中海で死んだ。引っ込み思案なのは、前世も今も同じで、今も海は大好きなようだ。

そして、脳筋な騎士団長の弟だが、前世は白血病で20代の若さで世を去った女性だった。病室でも見れるアニメや漫画が大好きだったらしく、生きた時代も近く、一番私と趣味が合うはずが、現世が脳筋すぎて話が合わなかった。

因みに偶然私たちの秘密を知ってしまった学長は5歳で車に轢かれてなくなった転生者だった。五歳児だったのと、一番この世界で一番長く生きていたためかテレビと車くらいしか記憶に残っていないらしい。時々不思議そうに質問してきたりする。腐女子の意味を聞かれて焦ったのは記憶に新しい。

時々ドキリとすることがあるし、ジェネレーションギャップを感じることもあるけれど、基本的に前世を共有できるのは楽しい。

時折ホールで第二王子主催の音楽会をして、前世の曲を演奏してもらう。オーケストラ曲や有名なテレビでよく流れたCMソング。そして、私が大好きだったアニメの曲を。

曲に心当たりが人は王子の個室までお越しください。私たちは前世仲間を歓迎します。

最後までありがとうございました。

もしも続き読みたいという方がいましたら・・・続きが書きたくなるような名前をください。本当に名前付け苦手です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ