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夜の論争(?)

この頃帰ってくるたびに、必ずといってよいほど父がローソンでロールケーキを

買ってきているのに気がついた。週に一度、私が家に帰ってくる日の前日頃に3つ買って

キープしているのだと弟が言っていた。

甘い物好きで、一度はまると一時期のブームを通り過ぎるまで同じものを買い続ける父を

母は、未だに子供と同じものが好きで困るわーと笑っている。


今日も今日とて帰ってきてリビングに行くと、父はいそいそと冷蔵庫からロールケーキを出してきた。

クリームがとろけるようにおいしいと、私の分をうれしそうに差し出す。

随分とお気に入りのようだ。

私は確かにおいしいが、そろそろ食べ飽きてきたそれをありがたく頂戴し、TVのチャンネルをつけた。

ちょうど気になっていた推理ドラマが始まったばかりだった。

「そういえばさ、お父さん。」

私はケーキのお礼に何か話しかけなければと声をかけたが、後ろで同じようにロールケーキを

つついている父は食べるのに忙しいらしい。

「んー?」

だいぶ適当な返事を返してきた。

「このロールケーキ珍しく長続きしてるじゃん、そんなに気に入ったの?」

「そりゃそうさ。だって、このクリーム!ケーキ屋さんのもののようじゃないかっ」

うれしそうに熱弁する父は私の眼前にロールケーキを突き出してTVを見るのを妨害し始めた。

内心しまったー、いま聞くんじゃなかった。と思ったが時すでに遅し。

何とかしてコレを止めなければ安心してドラマを見ることはできそうにない。

「だからさ、偶然にも発売日の朝にこのプレミアムケーキにめぐり合えたってことはさ

本当に運が良かったと思うんだよ」

こ、この調子では駄目だ。話題を変えないと。

「そんなこといって、この間近くにできたケーキ屋さんのロールケーキに並ぶものはないっ

               とかこの前いってたじゃん。」

私はさりげなくロールケーキを押し返してみた。

「いや、あの時にはこのプレミアムロールケーキに出会っていなかったからさ。

でも、これにもう出会っちゃったからね。」

押し返したケーキをまた目の前に持ってくるところをみるとよっっっぽどハマッたらしい。

はぁ~とため息を心の中でつき。私はTVを見るのを諦めて後ろを向いた。

せめて解決部分は見たい。


「じゃあさ、あのケーキ屋さんのロールケーキがあっさりローソンロールに乗り換えられちゃったってことは」

「ローソンロールじゃない!ローソンのプレミアムロールケーキだ!!」

なぜ、そこにこだわるっ

と父に突っ込むとまた面倒なので、コホンと咳をするとご注文どおり言い直す。

「では、そのローソンのプレミアムロールケーキに乗り換えられてしまうということは」

ちらっとみると父は腕をくんで満足そうに聞いている。どうやら合格らしい。

「小学校の右隣にある駄菓子屋さんの酢イカもいずれどこかの酢イカに乗り換えられちゃうってこと?」

どうだっとドラマの恨みをこめて父に目を向ける。甘いものが好きな父が唯一他に好きなお菓子が小学校の右隣にある駄菓子屋の酢イカなのだ。

ロールケーキで浮気をした父だが、普段浮気をするものは所詮そのお菓子を愛していなかったんだ!とぷんすか怒る。長い付き合いのお菓子ほどその分愛してる分もながいんだから、普通心が揺るがないだろうという言い分は都合の良いことに今回は発動しない。

だが、今の流れだと数十年来の付き合いである酢イカもその調子だとローソンの酢イカに取って代わられるのでは?という意味を含んだ嫌味だったのだが、

父はなぜか、ふふんと自慢げに笑みを浮かべていた。

ちょっとむかつく。

「残念だが、みか。それは違うぞ。あのケーキ屋さんのロールケーキはな、

小学校の左隣にあるローソンのプレミアムロールケーキに負かされたんだ。

あの、アンパンのおいしい小学校の、だ。」

隣、隣いっていて分かりにくいが地元の小学校は左にはプレミヤムロールケーキのローソン、右には酢イカの駄菓子屋に挟まれていて、日々小学生客の取り合いをしている。

そして、その真ん中にある小学校は(私の通っていた小学校だが)不思議にアンパンだけはどこのパン屋よりも美味しく、家族にもこの感動を!と思った私はある時アンパンはお持ち帰りしたのだ。

その後の流れは、まぁ予想どうりで隠し持っていたアンパンのおいしさは家族の者に(特に父に)さらなるスパイスをかけ、父の中ではその日を境にして、小学校は美味しいものが出てくる所ナンバーワンになったらしい。

だがしかし、それに今の話に何の関係が?

私の疑問に思う気持ちは顔にでていたらしい。

父はますますフフフといわんばかりの顔になった。

むかつき度UP

「つまりだ、あの二軒は小学校なのに非常にアンパンがおいしいあの小学校の隣にあるんだ。

だから、あの両隣で売っているローソンのプレミアムロールケーキと

駄菓子屋さんの酢イカは小学校パワーを受けて絶対他のお店の物に負けない。

絶っっっっっ対にだ!!!」

口げんかに初めて勝った小学生のような得意げな笑みの父に、私は色々色々と父に突っ込むのをやめた。

これ以上、話してもドラマの最後すら見れなくなって損をするだけになってしまう。

私はローソンの全国チェーン店ぶりや小学校との無関係さを披露し、そのどこから湧き上がるか分からない

自信を打ち砕すという野望をググッとこらえ

「なるほどね~さすがお父さん、頭良いね。」

と一言いうとTVのほうに向き直りボリュームをあげた。

父は最初面食らったようにたたずんでいたのが気配でわかったが、

褒められたことがよっぽどうれしかったらしい。

大人しく鼻歌をみながらドラマを見始めてくれた。

セーフと思いながら私は解決編に間に合ったことをうれしく思い、安心してみることができた。



この論争(?)から3週間後、私が帰ると今度はローソンのあまおうのロールケーキを父はだしてきた。

「みか、食べてみろ。これは父さんが食べた中で間違いなく、一番おいしい。」

私は取り合えずうけとると、あっさりと3週間前の自分の宣言を破った父に聞いた。

「ローソンのプレミアムロールケーキは倒されないんじゃなかったの?」

「確かにローソンのプレミアムロールケーキはおいしい。だけどな、みか。

結局はあの小学校の隣にあるローソンのロールケーキだということが重要なんだ。」

いや、だからローソンは全国チェーン店だって。なんか話がすり替わってるって…

そういってしまうと、きっとこの間の分までショックを含めて上げた分を受けるので

私は黙ってあまおうのロールケーキを開けてTVをつけた。


しかし、このときの私の気遣いもむなしく、2日後に弟に買ってきてもらったあまおうロールケーキを何時ものように大絶賛しながら食べているさなか、それが駅前に新しく出来たローソンのものだとわかると、食べていたロールケーキを撒き散らしながら、父はローソンの全国チェーン店の恐ろしさに気づいたと叫んでたという・・・

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