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C-3 冒険者になろう③

 わたしの名前はランケット。

 ラックライクの街で冒険者組合の受付をしている女。

 10代と20代をいったりきたり(?)しているわたしにとって、むさい男達が集まるこの職場は退屈な場所。時々格好良い殿方が訪れることもあるけど大体そういう人は恋人持ちか極度の変態。あとは女性冒険者。むくつけき女性冒険者。

 汗とタバコとアルコールの臭いでむせかえる魔境。組合長からして犯罪者じみた風貌をしている。それが冒険者組合。わたしの職場。


 悪い意味で退屈しない職場ではある。

 ろくでもない輩との出会いもある。

 雀の涙ほどの給金ももらえる。


 これほど満たされているわたしがこれ以上の何かを望むのは贅沢というものだろう。

 ただ、許されるのならば一件でもいいので転職先の斡旋が欲しい。

 それが永久就職であれば尚良い。


 おっと、愚痴ばかり言っても仕方がない。さて、お仕事しましょうか。


 ◆


 いつも騒がしい職場だが、なにやら入り口付近がいつもより騒がしい。

「むむむ、わたしの第六感がただならぬ気配を感じている!」

 耳さえあれば誰でも分かることなのだが。

 ともかく入り口へを覗うべく受付から身を乗り出す。


 するとどうだろう、そこにはきらめくような美少年・美少女の二人が立っていたのだ。


 うう、眩しい。存在が眩しい!

 人生の酸いも甘いも知らない無垢さが、肌つやに、髪質に、穢れ無き瞳に現れている。

 いけない。ここはあんな純粋な存在が居ていい場所じゃあないんだ!

 期待に満ちた表情の二人に現実を突きつけるのは忍びない。だがそれをするのが大人の務め。受付嬢としてのわたしの仕事なんだぁっ!


「こんにちわー。冒険者登録したいんですけどー」


 ふぉっ! いつの間にか目の前に美少女が!

 ていうか、お連れの坊ちゃん喧嘩してますけど!


 あっちもこっちも気になるが、混乱しつつもプロ根性で応対をする。

 しかし壊した施設・備品等の弁償話が出た途端少女は荒くれの渦中へ飛び込み、あれよという間に場を掻き乱していく。

 最終的には冒険者の皆がビンタされていた。嬉しそうに。


 なんだこれ。


「お姉さん、解決しましたよ」

「なんか君すごいね!」

 見た目通りの少女じゃない。

 目の前の美少女に対し、言いしれぬ衝撃と興奮を覚えてしまうのであった。


 ◆


「それではこれから冒険者としての登録を行います。質問には正直に答えてください」

 目の前で椅子に座る少年少女が拍手をしてくれる。ほのぼのとしてなんか嬉しい。

 冒険者登録なんて、用紙に必要事項を書いてちょっとした注意事項を聞かせれば終わりだ。だが今回は敢えて聞き取り方式にした。字の書けない人が登録するために代筆で記入する方式だ。

 目の前の二人が字を書けないとは微塵も思わないのだけれど、好奇心に負けてしまった。質疑応答に乗じて関係ないことまで質問させてもらおう。


「まずは名前を聞かせてください」

「はい。俺の名前はコート・ザ・ドラゴンです」

「なんだよ、ザ・ドラゴンって」

「いいだろ? ペット暮らしの時は家名なんか無かったからな。折角だから付けてみたんだ」

「ふーん。じゃあさしずめ俺はジャケット・ザ・ドラゴンだな」

「なんだよ。城住まいのお坊ちゃんは名字も持ってなかったのか」

「いや、あんただって知ってるだろ。俺、最初、名前無かったじゃん」

「ははははは。そうだったそうだった!」

 美少年と美少女が楽しそうに笑いあっている。

 しかしまあ、不穏な単語が出るわ出るわ。

 ペット暮らし? 城住まい? 名前がなかったってどういうことかしら?

 正直に答えてと注意したのに堂々と偽名を名乗り、隠すつもりも無いとは。でも指摘しづらい。天上人である貴族様の闇の部分に迂闊に踏み込みたくはない。


「うーんと、じゃあ、次に二人の年を聞かせてくれるかな?」

「ろっぴゃ…………六歳…………いや、若すぎるか。おい、俺の見た目っていくつだ?」

「うーん。ドラゴン年齢の人間換算って事になるのかね? 子供なのは間違いないよな」

「お前の場合は十四でいいんだろうけどさ」

「ん? 俺って見た目そんな感じ?」

「いや、ほら、厨二病だから…………ぷふー、くっくっくっ!」

 コートちゃんの言葉にジャケット君は苦笑い。

 っていうか君達、年齢も虚偽申請なのね。うん、スルーするけどね。なんだ人間換算って。それとジャケット君は何か病気なのだろうか? 深刻な雰囲気ではないけれど。大体厨二病なんて奇病、聞いたこともない。

 ともかく、協議の末二人とも十四歳ということで決着がついた。


「ええと、次は生まれを聞かせてもらおうかな」

「生まれ? …………火山口?」

「どーゆーこと!?」

 ハッとして口を閉じる。つい声に出して聞いてしまった。

「馬鹿だなあ。出身地って意味だろ。俺の場合だと獣の国――は、亡くなっちゃったから、今だと帝国になるのか? 帝国のエボカナってとこです」

「ああ、そういうこと。じゃあ俺は帝国のサスだな」

「へ、へー。エボカナにサス、ね。聞いたこと無いなぁ」

 国が亡くなった? ひょっとして亡命してきたのかしら。その割には悲壮感もないけれど。いや、ペット暮らしとか言ってたから、その混乱の隙を突いてようやく逃れることができた――――そういうことなの?

 ……生まれが火山口っていうのはどういうことかしら?

「なんだか分からないけど、苦労してるみたいね。ところで、二人は兄妹か何かじゃないんだ?」

 それは何気なく口から出た言葉だった。出身地が違ったので気になり、つい口にしてしまったのだ。

 だが、目の前の二人はその言葉に意外なほど反応し、顔を見合わせていた。

「姉弟――っちゃあ、姉弟か? 少なくとも遠縁ではある――よな?」

「どうだろう。どうなんだ? 俺の方は少なくとも先代と血は繋がってるけどもさ。あんたの方はどうなん? 一旦血脈が途切れた上での自然発生なんじゃないの?」

「お、おぅ、そうなのか? 俺は断絶した血筋なのか?」

 はい、きな臭い単語出ました。ごめんね、お姉さんが迂闊だったね。ジャケット君なんか腕組みして真剣に悩んでいるよ。

「ん。どうも遺伝子的には繋がってるみたいだな。自然発生の分あんたの方が初代に近いみたいだ。混ざりものがリセットされてる」

「それはそれで生物としてどうなんだか。

 ――まあ、いいか。血統に思い入れとかないし。それよか、俺の方が原始(ルーツ)に近いんだ。俺が姉でいいよな?」

「生まれはほぼ同時――いや、いいよいいよ。好きにしな」

 諦めた様子のジャケット君と勝ち誇り喜ぶコートちゃん。二人の関係を見るに、ジャケット君の方が落ち着きもあるし年長者の雰囲気なのだけれど。こうやって相手に譲るところも含めてね。


 迂闊な質問はやぶ蛇になると悟った。興味本位で動くものじゃあないなぁと実感してしまったよ。

 受付らしく事務的に終わらせてしまおう。

「それでは最後に得意なことを教えて下さい。依頼を受ける際や仲間を募る時のアピールポイントになるので、頑張って考えてみてね」

「はい!」

 コートちゃんが目を輝かせて挙手をした。余程自信があるのだろう。子供らしい全能感とでもいうのだろうか。こういうところは見ていて微笑ましい。

「それではコートちゃん。特技を教えて下さい」

「はい。俺は穴掘りが得意です!」

「ん? おう。うん。はーい…………?」

 穴掘り! 冒険者に穴掘り!

 いや、役に立たないこともないけれど。随分狭い(ニッチな)ところを攻めてくる子だなぁ。

「コートちゃんは穴掘りね。いいのかな。まあ、自己申告だし。

 それでは気を取り直して、ジャケット君の特技は何ですか?」

「俺は絵を描くのが得意です」


 それ絶対冒険に必要ないよねっ!


 危うく口に出すところだったがなんとか飲み込んだ。堪えきった自分を褒めてやりたい気分だ。

 そして何故君はそう自信満々で得意気なのか! 冒険者組合に来て「絵が得意です」なんて答えて褒められるとでも思っているのだろうか。比較的まともな子だと思ってたけど、早合点だったのかも知れない!

「あー、君達。あのね、冒険者という職業には薬草採取みたいなお使いレベルの依頼もあるけど、それだって街の外に出る以上危険が伴う仕事なのさ。だからね、依頼を斡旋する上でも最低限身を守れるだけの戦闘能力があるかを知りたいの。ここで言う特技っていうのは、そういうことよ」

 わたしの言葉を受けて合点がいったように二人は頷きあう。

「そういうことなら拳だな」

「そうだな。俺達の戦闘手段は基本、素手だな」

 見た目以上にワイルド!

 その小さくて柔そうな手に殴られたから何だというのか。いや、先のビンタ騒動を見る限り期待するところがないでもないけれども。いやいや、そういえばジャケット君は普通にあいつら投げ飛ばしてたな。


 ……ひょっとして、この子達って強いのかしら?


「そうねえ。それじゃあ、試してみましょうか。ここ、裏が広場になってて、冒険者達の訓練とか手合わせで使ってるのよ。そこでちょこっと二人の組み手でも見せてもらっちゃおうかな」

「いいよいいよ。俺の強さを見せつけちゃうぜ!

 ――――いや、ふーむ、今の状態でこいつと手合わせ、か」

「なんだよ。ちゃんと手加減するぞ」

 ジャケット君の言葉に不満を覚えた様子のコートちゃん。プライド高いのね。でも仕方がないわ、女の子なんだから。

「ちっちっ。ふん、まあいいだろう。今だけさ。俺が本調子だったらお前なんぞにゃ決して負けない!」

「はいはい、分かった分かった。お姉さん、軽くやってみせればいいんでしょう?」

「もちろんよ。実力が知れればいいからね」

「だってよ。ほら、行こうぜ、お・ね・え・ちゃ・ん」

「かー、調子に乗りやがって。はぁ~ぁ。

 じゃ、先に行っててくれ。俺はオチッコしてから行くからよ」

 あらまあコートちゃんったら。自分の実力はちゃんと把握してるみたいね。これなら実力に見合わない依頼を無理に受けたりはしないかな?

 でも、女の子がオチッコとか言わない方がいいと思うのね。うん。


 ◆


 ジャケット君を案内して一足先に裏の広場へ。

 すると興味本位の連中が新人の実力見たさにぞろぞろと着いてきた。まあ、新人云々以前に気になる存在なのは分かるけれどね。

 それはそれとしてお前ら仕事しろと言いたい。強く言いたい。


 広場に着くや否やジャケット君は準備運動に余念がない。やる気満々の様子だ。

 そして対戦相手はといえば、野次馬のざわめきでその到着を教えてくれた。

「来たみたいね。それじゃあ早速――うえぇぇぇっ!」

 組合の裏口を通って美少女が歩いてくる。体中から黄金の光を放出して。


「なんかオーラ出てるぅぅぅぅぅぅっ!!」

すごいよマサルさんぽくツッコミ入れつつ

つづく

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