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C-2 冒険者になろう②

 THE・人攫いという風貌の巨漢に目を付けられた我ら美少年・美少女コンビこと女神コート(人間形態)と獣神ジャケット(人間形態)。

 周囲の人間は遠巻きに見ているだけだ。心配している気配はない。

 都会よのう。世知辛いわ。人の心が荒んでおる。


 もっとも、相手が悪かったな悪漢よ。

 貴様の相手は力を封じられたとは言えこの俺ドラゴンよ。


 正義感溢るるこの俺は悪を許しはしないのだ。

 問答無用でドラゴンパンチである。


 腰を捻って繰り出すノーモーションからのストレートパンチ、いやさ正拳付き。腹を狙って繰り出した中段突きであったのだが、男の不幸は彼我(ひが)の身長差にあった。腰を落として突き出した拳は男の股間を真正面に捕らえていたのだ。


 悶絶し屈服する男。

 犯人は俺。

 無慈悲なる金的への一撃は男から将来の子種を奪ったのだ。悔い改めよ。そしてこの先の人生にせめてもの祝福あれ。アーメン。


「さて、冒険者組合はどこだ?」

「うわー。泡吹いてるぞ。これ放っておくのか?」

「ほう、流石だね黒ドラゴン、いやさ黒少年よ。

 仕返しを恐れよ、トドメをさせ。

 ……そういうことだね?」

「ちげーよ」

 呆れ顔の黒少年よ、ならば貴様に後処理を任せよう。


 二人で巨漢を路地裏へ連れ込み、まずは回復、そして記憶を改ざん。魔法で眠らせ、これまた魔法で造り出したアルコールを頭からぶっかける。

 うむ、完璧だ。どこからどう見ても真っ昼間っから酒をあおって泥酔している荒くれだ。

「素晴らしい手際だな。手慣れているじゃあないか」

「いや、全部あんたの指示だろ。神様やってるくせにどんな生活してたんだよ」

「知ってるだろ。平凡な普通の暮らしだよ」

「嘘吐け」


 ◆


「おお、これが冒険者組合! 分不相応な夢を見る無頼漢(ぶらいかん)共の巣窟よ!」

 遂に辿り着いたぞ!

 敢えて人伝に場所を聞きながら探し歩いたおかげで時間がかかったが、日が沈む前に辿り着くことが出来た。

 しかし。

「案外ぼろいな」

 と冷静に語る黒少年。

 木造平屋でそれなりの大きさの建物である。まるで西部劇に出てくる酒場のような雰囲気だ。

「歴史を感じる年季の入った景観だ」

「物は言い様だなぁ。まあ中は賑わっているようだし、入ってみるか」

 これまた西部劇よろしく、両開きのスイングドアを押し開け中へと入る。


 視線が俺達へと集中した。

 冒険者と呼ぶに相応しい、鎧装束で着飾った者達がそこにいた。

 いやはや壮観である。町人とは明らかに違う戦う者達の姿である。コスプレとは違う本物の金属でできた装備。使い込まれたであろう綻びや傷、汚れ。

 小綺麗にまとまった城の兵士達とは違うぜ。


「むふふ、なんかオラわくわくしてきたぞ!」

「……うん。ちょっと分かる」


 まるで見た目通りの少年少女のように胸躍らせる俺達。

 だがしかし、その昂揚に水を差す馬鹿者達がいた。


「おいおいおい、ここはガキの遊び場じゃあねえぞ。依頼か? 金は持ってそうだが」


 柄の悪そうな、如何にもな連中が近づいてくる。見た目からハゲ、ノッポ、マッスルと名付けよう。

 お約束とも言えるテンプレな発言と行動は様式美とも言えよう。


「くっくっくっ、相手の実力も分からないようじゃあ、ここの連中も高が知れるな。すっこんでろよ。俺は今機嫌がいいんだ。見逃してやろう」


 と、言おうとしたら黒少年に先を越された。なんということでしょう。この男、ノリノリである。冷静なふりしてテンションMAXじゃねえか。


「なんだとぉ、このガキ、優しくしてやりゃあつけあがりやがって!」

「大人の作法って奴を教えてやった方が良さそうだな」

「冒険者流でなぁっ!」


 いやぁ、実にテンプレである。もう頭からつま先まで結末の読めた展開だ。

 出遅れちゃったし、放っておこう。黒少年に全部任せる。


「こんにちわー。冒険者登録したいんですけどー」

 一連の流れを全部スルーして受付のお姉さんに申し出る。

「え、お嬢ちゃんが? ていうか、お連れの坊ちゃんは置いといていいの?」

「いいのいいの。向こうは向こうで楽しんでるから。あ、あと両替お願いします。この辺の金持ってないんで」

「それはいいけど、いいんだけど! わ、すごい、三馬鹿トリオ倒しちゃった! あ、でも、ほら、他の連中に囲まれちゃってるよ! いいの? 本当にいいの?」

「いいのいいの。試験的なものとかあるんですかね? 魔法の装置で実力を調べちゃったりとか」

「そういう便利な物は聞いたことがないなあ」

 なんだ、無いのかぁ。

 ちらちらと横目で黒少年を気にしつつも答えてくれるお姉さん。

「あのさ、一緒に来た男の子、君のお兄さんか弟さん? 見た感じお金持ちなのは分かるんだけど、本当に大丈夫なの?」

「大丈び大丈び。あんなんじゃケガ一つしないから」

「そうじゃなくって、壊れた設備とか倒れた冒険者のケガとか、自己責任って事で弁償してもらうことになるんだけど」


「この馬鹿野郎!」


 弁償と聞いた瞬間に俺のドラゴンパンチは黒少年の顔面を吹き飛ばしていた。

 金なら腐るほどあるが湯水のように使ってはドラゴン商会の従業員達に申し訳ない。

 俺は節約できる家計に優しいドラゴンなのだから!

「お前って奴は本当にもう。人様に迷惑をかけるなと常日頃言っているだろう!」

「ええ~。あんたにだけは言われたくない言葉だわ……」

 馬鹿おっしゃい。俺が人に迷惑をかけたことなどあっただろうか。いや、ない!


 黒少年は大人しくなった。

 だが大人しく引き下がれない連中がここには山ほど居やがった。

「おいこらクソガキ! ここまでやっといてただで居られると思ったか!」

「やられっぱなしで引き下がる俺達じゃあねえぞ」

「そうだそうだ。俺達にも面子ってもんがあるんだよ!」

「引ん剥いて泣き叫ぶまで終わらねえぞ。げひひひひひ」


「うるせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」


 見た目美少女である俺に怒鳴られ立ち止まるダメな大人達。

「何が面子だクズ共が。見たまんまか弱い少年少女に絡んだあげく返り討ちにあってる時点でそんなもん欠片も残ってねぇんだよボケェっ! なにが引ん剥くだハゲ散らかした薄らハゲ共が、残った毛根死滅させてやろうか毛無し猿共。どんな親に教育受けて育ってきたんだ落伍者集団が。貴様らの親は揃いも揃って子育て一つ満足にできない馬鹿親かぁ? あぁん? 子を見れば親の程度が知れるというものよ。そして貴様らウジ虫共の子供として生まれてくる奴らは可哀相だよなぁ。カエルの子はカエル、クズの子供はもれなくクズだ。一族全員末代まで底辺から抜け出せない下等国民共がぁぁぁぁ!!」

「お、親の悪口はやめろよ……」

 涙目になって下らない反論をする馬鹿が居る。

「誰だ今ありがち且つ常識的な事を言った馬鹿は。どいつもこいつも同じような顔しやがって見分けがつかねえんだよ脇役共。いいか、親の悪口を言われたくなければもっと品位に溢れた行動と態度と格好と言動で慎ましく暮らせよカス! 一山いくらのどこにでも居るような奴らがいっぱしの口を利く前にやるべき事をやれよゴミ虫共よぉ!」


「なんで……なんでお前みたいな小娘に……ぐぎぎぎぎ…………」


 後ろの方で誰かが呟いた。その卑屈な言動にカチンときた俺は臆することなく歩み出る。荒くれ共は泰然とした俺に怯み、自然と道が空いていった。

「今言ったのはお前か?」

 目線を逸らそうとする馬鹿野郎の一人に近寄り、襟首掴んで下げさせた頬に平手を打ち付ける。世に言うビンタである。

「なあ、おい。お前が言ったんだろう? 何を悔しそうにしてるんだよ。事実だろう? 心当たりがあるから三下よろしく『ぐぎぎぎぎ』なんて台詞吐いちまうんだろう? 悔しいのか? なあ、悔しいのかって聞いてるんだよ!」

 軽いビンタを何度も何度も打ち付ける。もう相手は涙目どころではなく完全に泣いていた。

「大体なあ。お前ら、分かってるのか? 口にするなら『ありがとうございます』だろうが。俺みたいな美少女に罵倒されて平手まで打ち付けられるレアな状況が貴様の今後の人生で二度もあると思うのか? 金払ったってできねえよ落伍者共」


「ええ~……」

 一部のクズが口を揃えて言った。ついでに黒少年も言った。

 しかしそれとは別の言葉を口にする者がいた。

「言われてみればそうかもな」と。


「んん~? 見込みのある奴が居るじゃないか。おい、今『そうかも』と口にした奴、前に出ろ」

「は、はい、俺です!」

「これはご褒美だ!」

 少しだけ力を込めたビンタで張り倒してやった。

 男は嬉しそうに「ありがとうございます!」と頭を下げる。

 するとどうだろう。「お、俺も一発いいですか?」などとおずおず挙手する輩が一人。それを見た誰かが自分も自分もと名乗りを上げ、部屋の中は興奮の坩堝(るつぼ)と化していく。


 俺は前に出る有象無象に一言の罵声とビンタを浴びせ続ける。中には二度三度と並ぶ者もいたようだが有象無象の見分けなどつかない。構わずビンタだ!

 一頻り張り終えて、やがて興奮も静まる馬鹿野郎共を念を押しておく。

「これに懲りたら品行方正な態度に気を遣え。それと、壊れた所の修繕費と倒れた奴らの介抱は貴様らでなんとかしておけ。いいな」

「はい、お嬢様!」

 一同の礼を背に受けてまた受付へと戻る。


「お姉さん、解決しましたよ」

「なんか君すごいね!」


 こうして俺は当初の予定通り冒険者組合で俺sugeeeを見せつけることができたのであった。

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