C-1 冒険者になろう①
「くだらぬ。たかだか六百年程度生きただけの小娘がこの私に楯突こうとは。
傲慢にも程がある!
罪には罰を。その過ぎたスキル共々力を封じてくれるわ!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
と、いう紆余曲折を経て。
成ってしまった。人間の姿に。
もうね、黒ドラゴンの向けてくる視線がね、痛いわ。
ま、まあ、なんだ。仕方ないね、なっちゃったものは!
折角だから美少女ライフを満喫するわ!
◆
「冒険者やろうぜ!」
スキル封印されて人間になっちゃったけども、まあそれはそれとして、剣と魔法の世界に転生したら一度はやってみたいよね、冒険者家業!
しかして、俺に合わせて人間形態の黒ドラゴンはと言えば呆れ顔である。
「他所の神様相手に完敗して落ち込んでるかと思えば――存外楽しそうじゃないか」
馬鹿を言っちゃあいけないよ。落ち込んでるさ。反省もしている。
でもね、それを表に出すようじゃあ、二流だね。一流の男ってのはさ、悲しい時こそ笑って見せるのさ。俺メスだけど。
「で、どーよ、冒険者。興味在るだろ? ウチの大陸には無かったからなあ、冒険者組合」
「ん、まあな。そりゃあ、うん、一回くらいはやってもいいかなって思うよ。うん」
興味なさそうな振りをしているが、分かるぜ。お前、そわそわしてるもんな。なにせ自分は物語の主人公だと言ってのけた奴だ、異世界で冒険者登録して「うおぉ! なんという才能!」みたいに驚かれる王道展開が嫌いなわけがない。
さて、問題はどこの街に行って登録するかだな。
大陸の結界を外してすぐに世界中を飛んで回ったが、文字通り空を飛んでただけなのでどこがどうだとか分からない。
「今いるところの近所でいいだろ。待ってろ、『博識』で最寄りの街を探すから。折角だから歩いて回るか?」
「ははは、君も好きだねえ。でもやだ。めんどいから。転移してくれ」
「さいですか」
黒ドラゴンの転移により最寄りの街へ一瞬で移動した。
といっても、門を通って検問を受けなくては後々めんどくさいことになりかねない。その辺を考慮して街の近くまで転移し、門まで少しだけ歩いた。
んで、検問を受けて気付いたが、俺達はここいらの国の貨幣を持ち合わせていなかった。つまりは街の中へ入るための通行料が払えないということだ。
しまったなー。うっかりしてたわ。
「む、どうした。通行料は一人銅貨三枚だぞ」
「いやーははは、我々田舎から出て来たばかりで、ここいらのお金を持ち合わせて無くてですね。ウチの国の通貨って使えますかね?」
自分に非がある時はちゃんと下手に出られる大人な俺ドラゴン。
ダメだったら転移して中に入っちゃおうかな。
「見たこともない金貨だが――ちょっと待ってろ。金の含有率を調べてくる」
門番さんが引っ込んで、「うまいこと通れそうだな」なんて黒ドラゴンと軽口を叩き合っていたところ、戻ってきた門番さんは何故だか怖い顔をして俺達を個室に案内した。
これ、尋問受けるパターンですね。
「お前達、この金貨をどこで手に入れた!」
怖い顔してらっしゃる。何が不味かったのかと黒ドラゴンに視線を向ければ、お手上げポーズだ。そうじゃねーよ、『博識』で調べろってことだよ。
「ええと、地元で使ってた金貨です。ちなみに銀貨と銅貨はかさばるんで持ってきてないです」
「こんな形の金貨を使っている国は知らない。確認してみたが記録にもなかった。不自然なのは金の含有率だ。百%、つまりは純金だぞ! 一体どこの国から来たというんだ!」
「知らんよ」
何でそんな詰問口調なのよ。いいじゃん、金貨なんだから純金で。
なんか、面倒臭くなってきちゃったな。どうして俺が門番やってる下っ端のおっさんに怖い顔で詰め寄られんなきゃいかんのだ。『全知全能』が使えればちょろっと意識を操って事なきを得るのに。
「どうも、どこかの大国がスパイを送り込んできたんじゃないかと疑われているみたいだ」
と、黒ドラゴン。えー、なんで?
「俺らそこそこ身なりもいいし、少年少女の二人連れだってのに高純度の金貨をポンと出したりしただろ? この国の金貨は金の含有率が七十%程度なんだと。つまりそれだけ金に不自由してない大国の貨幣だと思われてるんだよ。で、この通り警戒されてる、と」
うわぁ、面倒臭い。そういう政治的な話って本当に面倒臭い。
「こらぁっ! 貴様ら、何をこそこそと話しておるかぁっ!」
門番、激怒。事情が分かればこちらを萎縮させるために必死なのだと理解出来る。
だが残念、我々は自由なのだ!
「先生、一発おなしゃっす」
「うむ、苦しゅうない」
と、いうわけで『博識万能』様々である。余裕で懐柔、悠々侵入。街の中へと入ることができたのであった。
「なんか、疲れちゃったな。ぶらり旅気分が台無しだ。もうさ、今日は宿を探して終わりにしないか?」
僕チン精神的に疲れたでちゅ。
「宿に泊まるのはいいけど、先に両替しないとだな」
「あー、そっかー。両替所ってどこだ?」
「えーと、冒険者組合でもできるってよ」
結局かー! ちっくしょう、さっきの門番に両替させておくべきだった!
「神は言っている。汝、冒険者組合へ向かえ」
「へいへい」
黒ドラゴンの微妙なボケに突っ込む気力もないですよ。
まあ、いいか。冒険者になるのが当初の目的だしな。登録ついでに軽く実力見せつけてわいわいきゃーきゃー言われるのもいいだろう。
うん、よし。テンション上げていこう!
「おっと、そこの坊ちゃん嬢ちゃん。子供だけでどうしたんだい。ひょっとして、迷子かぁ? うぇーへへへ、おじちゃんがパパママ探すの手伝ってやるよぉー」
――とか思ってた矢先にこれですよ。
如何にもチンピラなデカブツがのっしのっしと歩み寄ってくる。あれ、絶対犯罪者だろ。人攫いに目を付けられた感半端ない。
もー。あー、もー。
とっとと冒険者登録しに行きたいのに!