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A-3 寝て吐く唾は身にかかる

 オッス、俺ドラゴン。名前はコート。

 突然だがちょっと聞いてくれ。


 珍しく黒ドラゴンからテレパシーが届いた。「見せたいものがあるから来てくれ」って。

 なんだかめんどくさい予感がするので読まずに食べたことにしたかったけど、手紙じゃないから無理だった。仮病使おうにも病気しないからなぁ。

 仕方ない。億劫だが出向くとするか。


 ◆


「頼もーう!」

 わざわざ部屋の前に転移し、扉を開けて入るという様式美。

 いつもの部屋でいつも通り黒ドラゴンがエルフ美女に膝枕されて――と思ったら、なんだか中性的な顔立ちの少年が黒ドラゴンのポジションに居座っていた。醤油顔ではあるけれど白人さんとのハーフな印象を受ける。


 俺、フリーズ。

 どういうことか。黒ドラゴンとエルフ美女の子供? いや、それだとドラゴンが生まれるよなぁ。間を取ってもドラゴニュートだろう。っていうか、子供が生まれて見せつけたいなら赤子のうちに呼ぶわいな。


「ははははは、混乱しているな。俺だ、俺。ジャケットだ」


 …………あーっ! こ、こいつ、やりやがった!

 やってしまったなぁ、黒ドラゴンよ!

「お前は大馬鹿野郎だ!」

「えっ!? 突然だな。何が気に障ったんだ」

 分からないのか? 分からないんだろうなあ。分からないからそんなことをしでかしてしまうんだ!


「いいか糞虫よく聞けよ」

「糞虫呼ばわり…………」

「俺達は人外転生したのだ。前世でラノベとか読んでただろう。巻き込まれ事故で死んだ主人公が何の因果か人間以外の生物に生まれ変わってしまう展開をさぁ」

「あるね。あるある」

「そんでもって少しずつ成長していくわけだよ。ゲームの世界よろしくレベル上げなんかの概念があったりしてさぁ。途中で生物の極みに達したとか言って進化したりもしてさぁ」

「王道だな」

「生物界の底辺から這い上がる成り上がりストーリー。もしくは最初からチート能力ありありのいわゆる俺tueeeでもいい」

「いいじゃないか。盛り上がって」


「く そ た わ け っ!!」


「えぇ~…………」

 分かってない。こいつは何にも分かってない!

「そういうテンプレストーリーの行き着く先はなぁ! 人間化なんだよ!

 魔法の力でも進化の行き着く先でも神様からのご褒美でも何でもいいが、どうして人間になっちゃうんだよ! 馬鹿か! ドラゴンに産まれたならドラゴンのまま生きていけばいいじゃないか。何故わざわざ人間に戻る必要がある。そこに誇りは無いのかって話ですよ。

 ぶっちゃけて言うけどドラゴンに比べたら人間なんか劣等種族だからな! 何をトチ狂って人間になってしまったんだ! 理解出来ない!」

「やめろ、劣等とか言うな。それ、お前が護るべき種族だかんな」

「黙れ小僧! 俺は安易な人化を否定する! 例え『全知全能』を使えば可能だとしてもだ! 絶対に人間の姿になんかなるもんか!」

「や、やめろよ。誰に喧嘩売ってるんだよ。ここには俺達しかいないからいいけれども」

「喧嘩売ってんのはテメェだろうがオラァっ! わざわざ呼びつけて不愉快なもん見せつけてんじゃねぇぞ糞虫、おぉん?」


 そこでハッとしたかのように飛び起きる黒ドラゴ――もとい、黒少年。

「違う違う。見せたかったのはこれだ! じゃーん!」

 物質転送でパッと取り出したそれはエルフ美女のラフスケッチであった。

 キャンバスに木炭で描かれたそれは、色こそ塗られていないもののなかなかどうして、見事なものである。

「で?」

「で、じゃなくて、ほらほら。どーよ。

 ドラゴン状態じゃ線の一つも引けなかったが、人間状態ならこの通りさ!」


 嬉しそうにまぁ……。「どーだ、上手いだろう!」という自尊心が前面に出ている。褒めて欲しいんだろうが、なんだろう、腹が立つな。


「スキル禁止だ、つっただろう」

「いや、描いたのはスキル頼りじゃないぞ。俺は前世で美術部だったんだ! 手さえちゃんと動けばこれくらい描けるんだ!」


 この浮かれポンチが。泣かしちゃろうか!

 と、思ったがやめた。後ろに控えたエルフ美女の目が剣呑になってきている。そろそろこいつも我慢の限界だろう。

 ヘタにつつくとマムシより強い毒吐くからな。エルフのくせに。

 だがこれだけは言わせて貰おうか。


「お前さ、あんまり下らないことで呼びつけてくれるなよ。それくらいそっちから出向いて見せに来いよ」

「…………おお、日頃から下らない要件抱えて遊びに来る奴の台詞とは思えない」

 何を言うか。俺はちゃんとこちらから訪ねてきているだろう。


 やれやれ。呼び出された上に不快な思いをして自慢話まで聞かされるという、なんともつまらない一日になってしまった。


 ……ん? 待てよ。ひょっとしたらこれはチャンスなのでは。


「そうだなあ。今日はお前の趣味に付き合わされたことだし、今度は俺の趣味に付き合ってもらおうかな」

「もともと絵を描こうと言い出したのはあんただが……まあ、いいだろうさ。お手柔らかに頼むよ」

「ふふん。約束だぞ。何か思いついたら連絡するわ」

 そしらぬ顔で転移し、自作の異界へと戻る。


 戻るや否やテンションマックス!

 いよっしゃー! 言質取ったぁー!

 俺の趣味っつったらネコミミを愛でることですよ。うはははは、学習しないね、あん畜生。

 つまらぬ用事ではあったが思わぬ収穫を得てしまった。

 獣神の助けがあれば選り取り見取りのネコミミ祭が開催されちゃうんじゃあないですかこれうぷぷぷぷ。


 そうと決まれば早速計画を立てなければ!

 なるだけ自然に! 断られないように!

 漲ってきたぞー! うはははははは!

主人公の意見は作者の考えではないということだけ

ここに明記しておきたい。

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