A-12 或る日
*2016/10/16 後書きを追加しております。
活動報告にも同じ文を投稿しているのでそちらを読まれても同じです。
要約するとしばらく休む言い訳です。
オッス、俺ドラゴン。名前はコート。
突然だがちょっと聞いてくれ。
最近の俺は自分を見失っているのではないだろうか。
そんなことをふと思ってしまった。
黒ドラゴンとの約束があるので人間と獣人の仲を取り持つ昨今ではあるが、ちと精力的に働きすぎている気がするのだ。
俺は元々働きたくないでござるな人間だった。いわゆるダメ人間という奴だ。ドラゴンだけど。前世で過労死した手前、今生はのんべんだらり生きてやろうと決めたではないか。そして俺の飼い主であるフルも、俺に自由な生き方をしてくれろと望んでいた。
俺は許されたのだ。怠惰な生を。適当な生涯を。時間の無駄使いって奴を。
そんなわけで今日はお休みです。
◆
営業日と休業日の境目がない、限りなくブラックな職業、女神。
週休二日どころか祝日すらなく、盆も正月も有給休暇もない。二十四時間三百六十五日働き詰めの完全なる社畜。訓練されたサラリーマン、それこそが俺。なお、月の給与は零である。
馬鹿馬鹿しい。やってられるか。労働環境の改善を要求する。
つって、全部俺のさじ加減次第なわけだが。
そんなわけで急遽お休みと決めた俺。
特にやりたいこともないし、ぶらり徒歩の旅にでも出るか。
今日は雲一つ無い良い天気だ。絶好の散歩日和と言えよう。
とか雰囲気作ってみたが、結構あるな、雲。そして突風。こんにちわ積乱雲。
雨が降る。土砂降りの雨が。
畜生。畜生。まるで俺が雨ドラゴン(雨男・雨女のドラゴンバージョン)だとでも言いたげな天気の移り変わりではないか。
こうなったら予定変更だ。
俺は降りしきる雨の中、天を仰ぎ、両手を広げる。
映画好きなら一度は経験したことがあるだろう。『ショーシャンクの空に』ごっこである。原作は言わずと知れた大作家、スティーヴン・キングだ
古い映画ではあるがお勧めである。文句なしの名作だ。ちなみに真犯人はエルモ・ブラッチ。
ガボガボガボ。口開けて立ってたら雨水が溜まってしまった。
なにせドラゴンの口である。奥行きは十分。溜まった水の量も大したものだ。
折角なのでどれくらい溜まるか試してみよう。有意義とは真逆を行く時間の無駄遣いをしてやろう。
俺はそのまま空を仰ぎ立ち続けた。
口の中が雨水で一杯になってもそのままの姿勢を貫いた。
やがて雨は上がり。日は沈んで、また昇り。日の光が体を照らし、濡れた体を乾かした。
それでも俺は立ち続けた。
ここまで続けたんだから、この際、口に溜まった雨水が乾くまでこうしていようと思ったのだ。気分は一人我慢大会である。
とはいえ特別苦行だとも思わない。なんせドラゴンとして生まれた幼少期、数日間をぼんやり寝て過ごした経験のある俺である。ティム・ロビンス(ショーシャンクの主演男優)を真似た格好で立ち続けるなど造作もないことなのだ。
それに少し楽しくなってきたこともある。
微動だにもせず立ち尽くしていると、通りがかりの人達がビックリするのだ。「どうしてこんな所にドラゴンの彫像が!?」みたいな。ゴツゴツした硬い鱗も相まって、置物のように思えてしまうのかもしらんね。
行く人来る人、誰も彼もが俺の体を一撫でしていく。
こうなるとこちらも気分を良くするわけで、ごっこ遊びを継続する。
なにせ立っているだけでポジティブな感情を向けられ、出来の良さを褒めそやされるのである。出来って言うか、本物なのだから当然っちゃー当然なのだが。
そうして行き交う人々の中で、花を供えて祈るおばあちゃんが現れた。
不思議な物で、一度そういうことが起こると次々にお供えをする者、手を合わせて拝む者が出始めた。すると適当な奴が「これは旅を見守ってくれる神様の像だ」などと正解にちょっぴり擦ったことを言い出した。
そういえば「かつて女神はドラゴンの姿で地上を訪れた」みたいな話があったな。黒ドラゴンも普通にドラゴン形態で過ごしてるし。「ドラゴンの像」イコール「神」みたいな感覚があるのかもしれん。
数日と経っていないのに今や俺は街道の名物となりつつあった。
献じられた花は数知れず、俺の周りだけ華やかになってしまった。そして老若男女を問わず、祈りを捧げる者達。っていうか、このままでは近所の村のご老人が朝っぱらからお祈りに来るのが日課になってしまう。
はっきり言って立ち去るタイミングを逃してしまった。
◆
とある日の早朝。
無骨な男達が街道の傍に集まり潜んでいた。
彼らは傭兵崩れの盗賊団・つむじ風。
金に釣られて戦場に出たはいいが、武功を挙げることもできず逃げ出して落ち延びた落伍者達である。実力のない小者の集団と言えよう。
しかし、そういった者達ほど小ずるく、生き汚いものである。
今回もずさんな計画と力技で小金をせしめるつもりでいた。
彼らの計画はこうだ。
「いいか、よく聞けてめえら。
この先に突如ドラゴンの像が建てられたことは知っているな? その像に、老いぼれたじいさんばあさんが毎朝花を供えてお祈りしているらしい。そいつらを人質に取り、身代金をふんだくる。あとはいつも通り。街に繰り出して飲めや歌えや。好きにしな」
一応のまとめ役が作戦とも言えない幼稚なプランを披露し、周囲の荒くれ共と一緒に卑しい笑みを浮かべる。
「おっと、来なすったな。てめえら、じじばば相手にぬかるんじゃねえぞ。へへへ。殺しちまうと金にならねえって事を忘れるな」
つむじ風の皆はその名とはほど遠い轟音と共に、参拝に来た老人達に襲いかかった。村の傍であり、ここ数日危ないこともなかったため、老人達は護衛の一人も付けていなかった。その不用心さを後悔するまもなく、荒くれ共が襲い来る。
枯れた老体では逃げることもかなわず、その場にへたり込んでしまう参拝者達。盗賊達も計画の成功を疑いはしなかった。
しかし、その時奇跡が起きた。
なんと、ドラゴンの像が咆吼をあげ動き出したのだ!
風のような素早さに岩のような守り、烈火の如き攻撃に為す術もなく倒れ行く盗賊団・つむじ風。最後に残された頭目も、襲い来る子ドラゴンの突撃と拳の一撃に為す術無く倒された。
子ドラゴンは勝利の叫びを上げた。
「お前ら――――ありがとうっ!」
老人達に背を向けたまま、空の彼方へ飛び去っていく子ドラゴン。
助けられた彼らは「神の奇跡だ」と感激し、いつまでもいつまでの去りゆく背中に祈り続けた。そして今日のこの日のことを死ぬまで語り続けると決意させたのだ。
子ドラゴンが最後に口にした感謝の言葉。それは祈りを捧げ敬い続けた事への返礼であろう。やはり神はいる。そして無辜の民を見守り続けているのだ。彼らは一同に同じ念を抱いた。
一月を過ぎた頃、街道には少し不格好な子ドラゴンの像が建てられていた。
その像は、祈るように両の手を広げ天を仰ぎ見ている。その姿に、街道を行く者や村の老人達は日々祈りを捧げるのであった。
◆
「ふー、危なかった。あの盗賊達が来なかったらおれは延々『ショーシャンクの空に』ごっこを続けることになっただろう。あいつらには感謝しかないな。ありがとう、バカな盗賊達」
「あんた、仮にも神様が盗賊にお礼を言うって、どうなのよ」
黒ドラゴンはそう言うが、当人でないから軽口が吐けるのだ。こっちはゴールの見えないが万大会に辟易していたというのに。自業自得なんだけど。
「あれ――なんか、あんたレベルアップしてないか。神格が増してる気がする」
「え、そう? なんでだろ。やっぱり人と獣人の仲を取り持つ苦労の日々が俺を成長させているのかな」
「ははははは。ワロス」
む、人が真面目に答えてんのに何がワロスだこの野郎!
「あんたが日々苦労してるんなら俺はとっくに過労で死んでるよ!」
「はぁん? 馬鹿こけ。俺ほど真面目に働いている神様がいますかってんだよ」
「居るよ居ますよ目の前にぃっ! こっちは世界平和のために働きつつあんたが馬鹿やった後始末したりと余計な手間までかけさせられてんだよ!」
「嘘吐けぇぇぇっ! 貴様、エロい巫女侍らせてイチャコラしてるだけじゃねぇかボケェッ! 何が世界平和だ色魔ドラゴンが! テメェの体、全身ピンクに染め直してやろうか!」
「あんたこそ普段から適当なことやって周りの人達を困らせて! 何が女神だよ、邪神の方がお似合いだっつーの。たまには仕事しろよ!」
「してますぅー。二十四時間三百六十五日年末年始も休まず営業してますぅー」
「あっはっはっはっはっ! 笑わせんなぁっ!」
「うはーっはははっ! 喧嘩か? 喧嘩売ってんだな? オラ、かかってこいやっ!」
「上等だクソ女神!」
「格の違いを見せつけてやるぜ劣化スキル野郎が!」
はぁ~ぁ、休日のつもりがとんだ気苦労を抱えてしまった。その上こうして黒ドラゴンとも喧嘩し消耗してしまうとは。
やれやれ、たまにはゆっくりしたいもんだね。
「好き勝手やらかすドラゴン転生」の更新が遅れております。
理由は三つ。
①仕事が忙しくて時間が取れない
②社会人の付き合いって時間食うのよね
③小説一冊分くらいの新しい話を書いている
①②はいつものことなんですが、おかげで③の進捗状況が今一つでして。
書き上げたあとで一気に更新するつもりなんですがまだしばらく時間がかかりそうな感じです。
ほんでドラゴンの方も書いてると余計遅くなるんで、いっそのことしばらくお休みしようかと思います。
もし年が明けても更新しないようなら「こいつ、死んだんだ」と思ってください。
ほな、そういうことで。




