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C-12 グローバル企業②

 とんだガッカリだよ!


 T字のカミソリを見かけて「すわ、新たな転生者か!?」と思いきや、自分でこさえた代物だったとは。

 あな口惜しや。やれ恥ずかしや。

 この気持ちを例えるに、ネットの某掲示板で自分と同じ意見の相手に「お前は俺か(笑)!」ってコメントしたら、本当に一年前の俺だった、みたいな。

 己でまいた種を己で回収するこの愚行。

 マッチポンプ?

 自作自演?

 いいや、違うね。これは「墓穴を掘る」って言うんだよ! いや確かに穴掘りは得意だけれども!


「どうしたお嬢ちゃん。苦虫をかみ潰したような顔だな。ふふん、やはりマネなど出来はしまいよ」


 黙れ雑貨屋のじじい風情が。元締めであるこの俺ドラゴン――いやさ、ネコミミ美少女メイドに向かってなんたる口の利き方よ。

 言っときますけど!

 それ作ったの!


 俺ですから! ババーーーン!!(効果音)


「じいさん。こいつは返すよ」

「ほ。諦めたか。まあ仕方ないのう」

 何故か勝ち誇るじじいに向かって鼻で笑って見下す俺。

「三日待ってな老いぼれじいさん。お前が寿命でくたばる前に目にもの見せてやろうじゃあないか」

「かっかっかっ! なんと口の悪い小娘じゃ。やれるもんならやってみるがいい。どうぞこの死に損ないに吠え面かかせてくれたまえよ!」


 さらば雑貨屋の死に損ない。貴様にはショック死する程の衝撃を叩き付けてやろう。

「おいおい、あんた、年寄り相手にムキになるんじゃないよ。何するつもりか知らないけど、程々にな?」

「甘いなぁ、甘々だぜぇ、弟よ。俺はもう決めたのだ。貴様()の泡食った顔を拝んでやろう、とな」

「それ俺のことも含んでない!?」

 黙らっしゃい。俺はこれから忙しくなるのだ。なんせやること多いからな!

 お前はその間に適当な依頼を受けて知名度を上げるといいよ。我々チーム・ドラゴンズ(仮)の栄光ある未来のために!


 ◆


 そんなこんなで三日後。


「ドラゴンだーっ!! 警報を鳴らせーっ! ドラゴンの襲来だーっ!!」

 俺と黒少年が拠点とする街・ラックライクに突如としてドラゴンが襲い来るとの知らせが舞い込んだ。「そんな馬鹿な」とは思いつつも、あり得なくもない事態に住人は怯えた。

 しかしドラゴンは来る。街に向かって。真っ直ぐに。

 阿鼻叫喚の地獄絵図が広がっていた。


 しかしそれも束の間の出来事。


 猛スピードで飛来するドラゴンの姿を肉眼で目の当たりにして尚、騒ぐものは居なかった。

 最強種ドラゴン。単体でも敵う者無きそれが、群れ(・・)で襲い来るとは。

 その数は二十を超えていた。

 最早逃げることすら出来はしない。街は絶望に包まれていた。


 もちろん犯人は俺。


 そして今現在、怒り心頭の黒少年に襟首掴まれてガックンガックン揺らされているところである。

「あんたって奴はぁーっ!」

 などと平成ガンダムの主人公みたいな台詞を吐いて大・激・怒☆

 まあ、そりゃあ、怒るよね。普通はね。

 そこんとこ、俺なんかは一周回って面白くなってきてるけど。だって自分が元凶だし。こ、こんな事態になるとは、ぶふふ、思ってもみなかったわ、うはーっはははっ。

「何が可笑しいんだよ!」

 しいて言えばお前の必死な怒り顔かな。

「まあ落ち着け。起きてしまったことは仕方がない」

「あんた……よくそんな言葉口に出来るね…………。

 ガチか? ガチめのサイコ野郎なのか?」

 野郎じゃないよ。女郎(めろう)だよ。ちなみに女郎(じょろう)って読むと意味が変わっちゃうから注意だよ。

「大丈夫だって。ちょっと待ってろ。連絡とって騒ぎを起こさないように伝えるから」

 左右のこめかみに人差し指を当ててねんぱをみゅんみゅん飛び交わす。念話である。


 ◆


「てすてす。聞こえるかね諸君」

「あ、商会長だ。おひさでーす」

「む、この声はトゲ尻尾だな。おっちゃん――ディクドゥースは来てないのか?」

「副会長はお留守番ですよ。商会長不在の間は副会長が最高責任者ですから」

 相変わらず真面目だなー。何百年経っても変わらん。遊び心ってものがないのかね。あいつもこっち来て羽を伸ばせばいいのに。ドラゴンだけに。文字通り羽根を広げてな。

「まー、いいや。段取りは分かってるな貴様ら! 抜かりなく事に当たれ!」

了解でーす(アイ・マム)!」


 ◆


 飛来したドラゴン達はそのままラックライクの街を通過(・・)。素通りである。

 もしや、助かったのか? と喜ぶ住民達。

 しかし街のすぐ近くへと降り立った巨大なドラゴン達を見て警戒の色を強める。


 そんな緊張真っ直中の連中とは逆に、ドラゴン商会の面々はのんきなものである。新大陸へは仕事できているはずなのにぺちゃくちゃとお喋りしながらのんべんだらりとくつろぎモード。観光気分――いや、ピクニック気分だ。その証拠に酒飲んで出来上がった奴が数名居る。

 そしてちょっとしたレジャー感覚で仕事をおっ(ぱじ)めるのであった。


 打って変わって街の衛兵達は気が気でない。

 ドラゴン達の気持ちなど知る由もない彼らは街壁の狭間(ツィンネ)(矢を避けるためのデコボコした部分)から怖々覗いて様子を探っていた。何をするか分からない以上、その一挙手一投足に怯えるのは無理からぬ事である。千鳥足でふらつく様子も、彼らから見れば何かの儀式めいて感じられるのだ。


 更に衛兵達の緊張は(つの)る。


 ドラゴン達が虚空から木材を取り出したのだ。それだけではない。巨大な鉄の棒や煉瓦のようにも見える長方形の物体、平たい陶器のような何か、そして透明度が高く巨大なガラス、などなど。中には見たこともない物体もある。

 まるで要塞でも建築するかのような様子である。


 一方でドラゴン達自身の様子もおかしい。ある者は額に十字の描かれた黄色い兜を身につけ、ある者はねじりハチマキを頭に巻き、ぶかぶかのズボンを吐き、巨大な金槌を手に持ち、口には釘を咥えている。

 マジで建築でも始めそうな様相である。


 監視を続ける衛兵は更に信じられない光景を目の当たりにし、唾を飲み込んだ。

 一際大きなドラゴンがその大足を使って地ならしを始め、別のドラゴンが測量を始めたのだ。のみならず、カンナを使用して木材の微調整を始める者まで居る。

 まさかの本格的建築が始まっていた。


「おい、さっきの地響きはなんだ! 何が始まっているんだ!」

 門の傍で待機している兵士や野次馬達から説明を求める声が投げかけられる。

「大工仕事だ! ドラゴン達が大工仕事を始めた!」

 外を監視していた兵士は見たままを答えた。

「何を言ってやがる!」

「この非常時にふざけてるのか!」

「ぶっ殺すぞこの野郎!」

「降りてこいや目暗ぁっ!」

「食われて死ね!」

「お前をドラゴンの生け贄にしてやろうか!」

 見たままを答えただけなのに。罵倒の雨を浴びせられて泣きたくなった兵士であった。


 ◆


 街の中は騒がしいが、ドラゴン商会(ウチ)の仕事は順調そうなので宿でゴロゴロしている俺ドラゴン――じゃなかった、ネコミミ美少女メイド。

 枕元では未だに黒少年の説教が続いているのだが、相手をするのも億劫なのでガン無視を決め込んでいる。

 そこへ、ノックの音が三回。宿屋の主人かな?

「コート様。お休みのところ申し訳ございません。冒険者組合から言付けを預かっております」

「どうぞー。鍵なら開いてるよ」

「失礼いたします。ジャケット様もこちらにいらっしゃいましたか。お二人に冒険者組合より緊急招集の令が出ております」


 な、なんだってー! 新人冒険者である我々に、い、一体何の用があると言うんだー!

 ――――とは、ならない。


「おっけー。行く行く」

 と二つ返事で快諾である。

「……左様でございますか」

 ポーカーフェイスが売りの商売人ですら「ダメだこりゃ」という雰囲気を醸し出している。

「軽いなぁ~。分かってんだろうな。絶対ドラゴン退治の招集だぞ。あんた、どう落とし前付けるつもりだよ」

 どうもこうも。どうにでもなるわい。

 俺がしでかした事態の解決を俺に依頼してきたのだ。解決できない方がどうかしている。


 さぁて、この難事件、この俺がマルっと収めてしんぜよう。

 シナリオは出来ているのだ。者共、この俺の舞台で踊るがいい!

 ふはーっはっはっはーっ!

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