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B-10 お化け屋敷を流行らそう②

「えー、そんなわけで皆さんに見てもらいましたのが俺の考える『ホラー』というジャンルの娯楽です。

 何か質問のある人」


 おや、早速手が挙がりましたねー。皆さん意欲旺盛で実によろしいです。


「じゃあまずはそこの元気なお嬢さん」

「お嬢さんて、商会長の方がわたしより若いじゃないですか~」

「気にすんな。して、質問は何かね?」

「ラグ君がまだ夢の中で騒いでるんですけど~、放っておいていいんですか~?」

「いいよいいよ。折角だから彼にはもっと楽しんでもらおうね。

 はい、じゃあ次の人」


 またもや一斉に手が挙がる。大変素晴らしい。


「はい、そこのインテリメガネ」

「エルニースです。いい加減、名前覚えて下さい」

「覚えてるよ。でもお前は見るからにインテリだしメガネなんだよ。んで、質問は?」

「最初の方で商会長の声がしたり、映写板見てるボクらの声が聞こえたりしましたけど、あれってウソ(・・)ですよね?」

 ウソとか言っちゃ駄目だろ。

「演出だよ、演出。

 同調効果という言葉を御存知か。判断基準が曖昧な時、人は周りの行動や選択をまねしてしまう。今回の場合で言えば、『自分を見ているはずの仲間が悲鳴を上げた』から周囲を過剰に警戒したり、怯えたり、『後ろだ』と指摘されて振り向いてしまったりといった行為が当てはまる。

 ほら、本人は粋がって「オレ絶対ビビんないスよ~」とか言ってたろ? だから周りが怯えているという演出を挟み込むことで、「今、自分は怖いところにいるのだ」と自覚させてやったのだよ」


 感心したような声がチラホラ上がる。はっはっはっ、褒めるな褒めるな。

 さて、次は誰を当てようかな。


「んじゃあ、次、毛むくじゃら」

「ウォゾームです。いや、もうこの際なんで毛むくじゃらでも良いんですけど……。

 ええっと、ラグが『こっち見ろよ』って言われたあと、何かを見て絶叫をあげたじゃないですか。でも映写板に映ってたのは驚いた顔のドアップだけでしょ。結局何を見てあんなに驚いてたんですか」

「ないしょです」

「ええ~…………」

「意地悪じゃなくて、ああして見てる人の想像力をかきたててるのさ。『一体どんな恐ろしいモノを見たんだ!?』っていう恐怖感をな。たとえば物語でさ、一巻の最後にああいう演出をされると、二巻が発売するまで気になっちゃうだろ?」


 またもや感心の声が上がる。ふふふ、任せとけっつーの。

 こういう引き(・・)の演出は前世で嫌になるくらい見てきたからな。特に『2●世紀少年』とかの漫画で。読者の興味を煽るだけ煽っていくって言うね。

 まあ、諸刃の剣ではあるけども。下手な真相だと「なんだツマンネ」ってなるし、だからといって真相暴かないと「期待はずれガッカリしましたファン辞めます」ってなるし。さじ加減が難しいのだ、こういうのは。


「さて、次の質問は――ん、どうした?」

 その場にいた大半が映写板の方を見ている。何事かと自分も目線を向けた時、最前列の誰かが呟いた。

「ラグの奴、気絶してません?」

 あー、本当だ。仰向けに倒れてお化け達につつかれてる。ダメだこりゃ。

 夢の中で気を失うとは器用な奴よ。仕方がないから今日の所はこの辺で勘弁してやろう。


「さーてさて、それでは、次にお化け屋敷を経験したい者、手を挙げたまえ!」


 しかし誰一人として挙手する者はいない。それどころか、顔を向けると目をそらしやがる。お、おいおい、さっきまでの勢いはどこに行ったんだよ。


 ◆


 結局それ以降も自分から「やりたい」と願い出る者はいなかった。

 それでも、理不尽なことや未知への恐怖、ホラーというジャンルについては知ってもらえたようだし良しとしよう。

 そう思った矢先のことであった。


 術を解いた実験体一号こと、ラグアシュレイが目を覚ましたのだ。


「よう、おはよう。どうだったね。お化けの恐ろしさを分かってもらえただろうか」

「ぁ……ぅぁ……ぁ、はい。十分に理解できました…………ふへへ」

 なんか目がうつろだな。大丈夫だろうか。

「ところで商会長。次は誰があの廃屋に挑戦するんです?」

「それが皆やりたがらなくてね。まあ、でも、ホラーのなんたるかは分かってもらえたようなんで、もう終わりにして――」

「ええ!? それはないですよ商会長。これは是非とも経験しておくべき事ですぞ!」

 おや、まさかの猛プッシュ。周りで「えっ」って声が上がったけど聞かなかったことにしよう。

「直接体験したかどうかは今後の企画段階で必ず役に立ちます。オレ自身、やってみて分かったことがたくさんあるんです。折角のチャンスだというのにやらないなんて選択肢はありませんよ。なんだったら全員一度は経験しておくべきでしょう! ケタケタケタ」

 またもや「えええっ!」って声が上がったが、敢えて無視。

「そうか。分かってくれたか! そこまで言われちゃあ、やらない訳にはいかないよな」

「え、ちょ、商会長! ちょっと待って下さい。そいつの目を見て。明らかに正気じゃないですよ」

 ははははは、インテリメガネよ、何を言う。彼のやる気に満ちた発言を聞かなかったのか。

「大丈夫。全然大丈夫だから。ハハハハハハハハ」

「ああ、ダメだ、商会長も正気じゃない!」

 失礼な。俺はいつでも正気(まとも)だっつーの。


「皆、怯えることはない」

 実験体一号は語り出す。

「商会長も言ってたじゃないか。お化け屋敷ってのはお触り厳禁の安全・安心な恐怖を提供する娯楽施設だと。見ての通りオレは傷一つ無い。なんせ夢の中だからな! まさしく安全・安心じゃないか。さあ、皆もレッツトライ!」

「いや、お前めっちゃつつかれてたよ。それにケガ一つ無いとか言ってるけど完ッ全に心に傷を負ってるだろ」

「お、なんだなんだ。そこのメガネはホラー否定派か?」

「商会長。オレは思うのです。彼のような者にこそ自ら体験するという行為が必要なのだと」

「ああ、素晴らしい。実に素晴らしい意見だ。これには全力で悪ノリするしかない。

 よし、次の犠牲者は君に決めた!」

「犠牲者とか言ってる!」

 おっとしまった本音がポロリ。犠牲者じゃなくて実験体だったね。うっかりうっかり。

 身の危険を感じたインテリメガネは逃亡を試みる。しかし残念、飛び火を恐れた周囲の裏切りに合い拘束されてしまった。

「や、やめろー! やめるんだ商会長!」

 ははははは。ショッカーに改造される仮面ライダーみたいな事言ってらぁ。

「大丈夫。楽しい楽しい娯楽施設だよ。文字通り夢の世界へレッツゴー!」


 ◆


 映写板に映された阿鼻叫喚の地獄絵図。オイラも気合いを入れて演出頑張っちゃったよ。

 おかげでと言うかなんと言うか、インテリメガネも途中リタイア。

 そして目覚めた時、無言で握手をする犠牲者一号&二号。

「ラグアシュレイ。ボクが間違っていたよ。ホラーとはなんて素晴らしい娯楽なんだろう」

「そうか。分かってくれたか。オレもお前の今の気持ちが手に取るように分かるよ」

 すっかり仲良しな二人はどちらも目の焦点が合っていないし、口元には薄ら笑いを浮かべている。

「さあ商会長! 早速次の犠牲者を選びましょう! ケタケタケタ」


「エルニースの気が狂った!」と叫び、やおら逃げ出す有象無象。

 だが残念、逃がさんよ。

 君達にはホラーの伝道師になってもらうべく俺流の英才教育を受けてもらうぜ。


「もうやめてラグアシュレイ! あなた、疲れてるのよ!」

「うっせー! オレばっかり貧乏くじ引いてたまるか! お前らもやるんだよぉぉぉぉ。イヒヒヒヒ、ふ、震えて眠れぇっ!」


 ドラゴン商会の会議室は本日もこれこの通り大盛り上がりである。

 今回の企画も大成功の兆しが見えたと言ってもいいだろう。だって、皆こんなに楽しそうなのだから。何より俺が一番楽しい。混沌大好き。

 叫べ叫べ。泣きわめけ。あーっはっはっはーっ! ホラーって楽しいなぁ!

夏だからと思ってホラーに挑戦中だけども、なろうの企画で「夏のホラー2016」ってのやってたのね。

気付くのが後れて参加申し込み過ぎてました。残念。

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