B-1 バレンタインデーを流行らそう
こんにちは。ブルジョアです。
現代日本の知識を活かしたドラゴン商会で大儲けしてる俺、ドラゴン・コート。
もうね、笑いが止まりませんわぃ。
こうして俺が大金持ちになれたのも民衆の皆のおかげだよ。
今なら素直な気持ちで幸福を分け合える。
皆に幸せのお裾分けである。
さて、その方法だが。
この世界には娯楽が少ない。ドラゴン商会を通じて様々な娯楽商品を広めてきたが、お祭り騒ぎになるような大規模なイベントに発展したものはまだ無い。
ということで、時期的なこともあってバレンタインを流行らせようと思うのだ。
以前の俺であればこんな事は思いつきもしなかっただろう。
バレンタインと言えば恋人達の甘いイベント。リア充達の祭典である。非モテの俺は嫉妬の海に沈んで妬みと嫉みで暴れ回っていたはずだ。
だが今の俺は違う。
心も懐も温かい。恋人達の語らいも暖かい目で見守ることが出来るのだ。
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チョコの大量生産? なぁに、問題ないさ。『全知全能』のペナルティーに耐えつつ、カカオの代用品を手に入れ、生産ラインも急造した。味もビターな物からお子様向けの甘いミルクチョコまで顧客のニーズに合わせてご用意しましたとも。
宣伝はドラゴン商会で臨時に雇ったキャンペーンガール達があちらこちらで活躍しているし、市販チョコを湯煎して作る手作りチョコの作り方なんかもビラで配って周知に努めている。手作り用のトッピングも多種多様に揃えてみたぞ!
まだドラゴンシティーにしかないが、街頭に設置した映写板でも日夜バレンタインイベントの喧伝を進めている。
計画は順調だ。
この俺の三百年の集大成がここにあると言っても過言ではない!
イベントが近づくにつれてそわそわし出す若人達を眺めるとなんだか胸の辺りがむずむずしてしまう。若いよなー。青春だわこれ。
チョコの売れ行きも好調である。お試しに買って食べる者もいれば、料理好きが手作りに挑戦するために買っていったり、単純に味にはまって大人買いする者もいる。だが在庫は十分。
この調子でいけば来年・再来年には大陸中にバレンタインイベントを広めるのも夢ではない。
この流れを俺が作った!
うふふふふ。楽しいなあ。今後何年、何十年、何百年と続く一大イベントをこの俺が企画し、広め、残していくのだ。文化を創る、これこそが俺の喜び。
◆
わたしラブ美。コンデュア中学に通う二年生の女の子。
今日はバレンタイン。好きな相手にチョコを渡して愛を告白するっていう素敵な日。憧れの先輩に「好きです」って伝えると思うと、朝からドキドキしちゃって放課後まで緊張しっぱなしだったの。
先輩は狼牙族で、寡黙な一匹狼って言葉がよく似合う素敵な人。バスケがすっごく上手くって、部活でもエースなんだ。
今日も先輩、たっくさんチョコ貰うんだろうな。わたしもその中の一人でしかないのか。でも、いいんだ。こんな機会滅多にないんだもの。
おじいちゃんやおばあちゃんは、人族が獣人に恋するのはおかしいなんていうけど、そんなの何十年も昔の話。今は平等な世界なんだって授業で習った。いつまでも古くさい慣習に捕らわれるのはやめて欲しいな。
わたしの名前は『愛は美しい』って意味なの。そんな名前のわたしが、愛と平和の街コンデュアに通学して、先輩に恋して、愛のイベント・バレンタインの日に告白する。これって運命?
――あ、先輩だ! ひゃー、思わず下駄箱の陰に隠れちゃった!
先輩、一人だったな。
ああ、どうしよう。心臓が爆発しそう。
先輩の足音が近づいてくる。あと五歩近づいてきたら飛びだそう。そしてこのチョコを渡して「好きです」って言うんだ。
5、4、3、2、1…………。
「あ、あの、先輩っ!」
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バレンタインデー。それは愛を伝える素敵な日。
チョコを渡して、あなたの「好きです」を形にしよう。
~ ドラゴン商会 ~
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◆
「素晴らしい……っ!」
ここはドラゴン商会の大会議室である。
幹部諸君らと映写板でバレンタインイベントのCM試写会を終えた直後。室内は万雷の拍手で埋め尽くされた。
「実に素晴らしい出来だ! 感動した!
これで今回初となるバレンタインイベントの成功は鉄板だ! 早速街頭映写板で流そうじゃあないか」
俺の指示を受け幹部のうち幾人かが忙しそうに外部と連絡を取り始める。
「商会長、チョコの売り上げは既に目標収益の百五十%を超え、未だ伸び続けています。来週のバレンタインデー当日までには四百%越えも夢ではありません。物凄い売り上げですよ!」
「いやー、ははは。そういうつもりではなかったんだがね。それもこれも皆の尽力のおかげだよ。感謝してもしたりない。
さあ、もう一踏ん張りだ。我々の手で文化を創る! チョコの在庫だけは切らさないように頼むよ君達!」
このイベントは最高の結果になる。我々ドラゴン商会は確信していた。
そして遂に、イベント当日を迎えたのであった――
明日も更新します。




