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A-9 ボクの考えた最強の家

 オッス、俺ドラゴン。名前はコート。

 突然だがちょっと聞いてくれ。


 なんやかんやあって家が無くなってしまった。

 仕方がないから黒ドラゴンの城に居候してみたが、どうにも落ち着かない。そもそも家主のエルフ美女が俺のこと大嫌いだから。風当たりが強いなんてもんじゃない。天変地異クラスの暴風雨である。

 あの女、わざわざ俺の目の前にやってきて雑巾を絞り、お茶だと称して「飲むように」と差し出してきた。わざわざ。本人が。使用人なんて腐る程いるのに。


 こんなにムカついたのは生まれて初めてだ。前世も含めて百四十年間、これ程腹の立つことはなかった。


 だから俺は家を作ることにした。

 新しい我が家に黒ドラゴンとエルフ美女を招待してあげるんだ。


 そこで死ね。


 ◆


 さて、ボクちんのゲーム脳を駆使して凄くて素晴らしい素敵な家を建てるぞ!

 回避不可能な罠にまみれた確実必死の屋敷をな!


 まずは土地だ。前の異界は適当に作りすぎたせいで一面荒野だった。今回は草花と水の流れを大切にしよう。

 オアシス? 森林? いやいや、ドラゴンと言えば渓谷では無かろうか。

 切り立つ崖、苔むした岩、流れ落ちる滝。川辺には花咲き、渦巻く風に揺らされる。


 実に壮観。見事な景観である。


 虫・鳥・獣に魚がいればいいんだけど。どこかから連れてくるか。だが生態系を作るのは難しい。適当に増えたり減ったりするくせに不意にバランスが崩れればあっという間に絶滅する。

 まあいい。これはのちの課題としよう。


 次に家をどこに建てるかだ。前の異界には建築物はなかった。荒野で空の下ゴロゴロしていた。だが流石にそれは味気ない。今回はちゃんと住処を作ろうと思う。

 ただ、家屋ってのはどうかと思うんだ。ドラゴンとして。

 考えても見たまえよ。RPGで、ラスボスクラスであるドラゴンが、普通の一軒家に住んでたらどう思う。期待はずれもいいとこだ。

 たとえばこの渓谷に合わせて川辺にログハウスとか建てたとしよう。だったらそこに住むべき者はマタギだよ。それかロハス思考のセレブだ。決してドラゴンの住む家じゃあない。

 じゃあドラゴンの住処に相応しいのはどんなところだ。崖があって、滝があるのだ。答えは一つであろう。


 滝の裏に隠された洞窟だよ!


 穴掘りは得意なんだ。この俺の洗練された手付きを見てごらんよ。「おや、前世はモグラかオケラですかな?」ってなもんだ。ちなみに前世は人間ですが。

 掘る掘る穴掘る俺ドラゴン。

 土でも岩でも何でもござれ。爪を立ててさくりと掻けば面白いように削れていく。掘って出た土くれは転移させて適当な場所にポイポイだ。

 掘る掘る土掘る俺ドラゴン。

 適当な位置で穴を広げて大きな部屋を作る。これもう家っていうか巣穴?

 アリの巣構造とはいえ、そのサイズは比ではない。もちろんウサギの巣なんか目じゃないぜ。

 命名するに、『ドラゴンネスト』。直訳でまんま竜の巣だけど。

 表札でも掲げとくか? 立て看板でもいいな。滝の裏に隠れてる意味ないけど。

 よーし、名前も決まったところでもっと巣穴を広げるんだ!


 掘り掘る掘れば掘っただけ掘ろう掘る掘る掘って掘って掘りまくり堀掘れば掘るのだから掘るしかないだろう掘れ掘れ掘らば掘れるさはら掘ろひれはれ掘らんか掘ろうとも掘っちゃるけんのう掘~れ掘~れ。

 さて手偏の「掘」の中に一つ土偏の字が混ざったのはどこでしょう。

 どうでもいいね。そうだね。そんなことは置いといて俺は一心不乱に掘り進めるのみだ。

 うぉぉぉぉ、燃え上がれ俺の土竜(モグラ)魂!


 ふぅ~、汗かいた。

 やってやったぜ。すげー穴掘ったぜ。

 実にすがすがしい気分だ。運動するっていいね! やらされるのは嫌いだが趣味で穴を掘るのは実に素晴らしい。

 この全長数十キロに及ぶ大洞窟。全容を知るのは俺ばかり。大小様々な部屋も作ったよ。もちろん一番奥はとっておきの巨大なホールになっている。俺が巨大化しても暴れられるくらい大きな特別製だぜ。あまりに大きすぎて壁を垂直にすると壊れてしまうので、半球体のドーム型にしてある。

 なんという完成度か。ちょっと頑張り過ぎちゃったかなー、これ。てへペロ。

 あとは内装だなー。部屋毎に趣を変えてもいいな。だが時を経ていい感じに廃れ苔生した部屋ってのも悪くない。うむ、そうだな、やはり際奥の部屋はラスボスに相応しく歴史を感じる風情に仕上げよう。誰一人辿り着いたことのない、廃れ寂れた広い空洞。

 そこに横たわるのは巨大なドラゴン。つまり俺。


 うーん。素敵やん。


 荘厳なBGMと共にラストバトル始まっちゃうよ。

 次元を超えて異界まで辿り着いた勇者様ご一行と死力を尽くした闘いを繰り広げる!

 ええやんけ、ええやんけ。おいちゃんのゲーム脳にびんびんクるでよ。脳汁沸いちゃいそうだわよ。


 まあ、前提問題として、なして勇者が女神の俺を倒しにくるんやって話だが。そういうの邪神の仕事だもんな。


 さぁて、一休みの妄想もこれくらいにして、お部屋のインテリアにこだわるとしようか。


 ◆


『招待状:黒光りするお前へ


 おはこんばんちわ。俺だよ。

 新居を作ったので見においでよ。お前、これ見たら「うわー、すげー、俺も欲しい!」って言うぜ。きっと。子供みたいにな!

 ついでに耳の長いおっぱい連れてきていいからよ。

 ウェルカム待ってるぜ。


 いかしたドラゴン・コートより』


「っていう書き置き見たから来たけどさ。

 あんた、絶望的に手紙のセンス無いな。なんだか、戦慄を感じたよ。思うままに殴り書きしたとしてももうちょっとマシな文章書けるだろ。

 確認しときたいんだけど、国語の偏差値いくらだった?」

「人ん()訪ねて来るなり罵倒してんじゃねえよ。オラ入れ」

 偏差値とか覚えとらんわ。学歴廚か貴様この野郎。

 大体だね、お手紙なんて相手のことを想って書くのだよ。だからその文章内容は書き手ではなく、受け取り手の格が試されるのだ。要約するとお前なんぞにゃあの程度で十分だってことだ。

「クアなんとかもよく来たな。歓迎してやるぞ。俺はな。お客様はもてなす主義なんだ。俺は、な!」

「どうぞお構いなく。私にもてなしなど不要ですわ。ですが獣神様だけは蔑ろになさらぬよう。言葉遣いにはお気をつけ下さいませ、めがなんとかさん」

 女神を区切るな。せめて名前で区切れ。メガで区切ったらロボみたいになるだろうが。

 まったく、この桃色エルフときたら、いつも以上にトゲトゲしいというかなんというか。

 折角呼んであげたんだから気持ちよく迎えられればよいものを。

 新居出来たてで寛容になった俺に感謝するといいよ。もしも俺の機嫌が悪かったらドラゴンパンチが炸裂してたぜ。

 そういえばなんでエルフ美女まで呼んだんだっけ。いつもは黒ドラゴン一人なのに。


 あれ、なんか忘れてる気がするな。う~ん?


 まあいいか。


「ほぉら、こっち来いよ! 目にもの見せてやんぜ!」

 この俺の素敵な住まいに羨望の眼差しを向けるがいいよ! はーはっはっはーっ!


 ◆


 夜になって、何を忘れていたか気付いた。

 穴掘りに夢中になりすぎて、当初の目的はどこへやら。内装にこだわるあまり、罠を仕掛けるなんて発想は微塵も沸かなかった。


 本末転倒。


 ……………………そういうこと、あるある。


 ふは、ふはははは! はーっはっはっはーっ! 命拾いしたなエルフ美女よ! 精々助かった命を黒ドラゴンとイチャコラして過ごすがいいさ!

 笑っとけ笑っとけ! 全力で笑って誤魔化すのだ!


 はっはっはっ! はーっはっはっはーっ!

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