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C-8 冒険者のお仕事③

 ウサギ狩りの依頼を受けたら、結果的になんかどえらい事になった。

 決して俺が悪い訳ではないのだが、人の匂いを無遠慮に嗅いできた大きめの猪をぶっ飛ばしたら、「森の主を倒してしまったのでは?」的な嫌疑をかけられ、森の中を調査するよう命じられたのだ。追加依頼って言ってたけど、拒否権無いって言うから、それはもう命令なのだ。

 森の主がいなくなれば秩序が乱れ、混乱をもたらしてしまう。落ち着くまでは森を閉鎖しなければいけない。しかし街の住人は森を生活の糧としている者も多い。もしそうなったら街の生活基盤に大打撃である。


 クズ共の一人が言った。

「てめぇがぶっ殺したこいつが森の主じゃなきゃいいよなぁ! 頑張って探して来いよ、主様をよぉ!」

 俺がぶちのめした大猪のステーキを食いながら。

 無言・無表情で見つめ続けたら挙動不審になって謝り始めたが。俺の怒りの一端でも伝わったのなら幸いである。


 ちなみにであるが。

 今回の依頼を根底から覆す事実をはっきりさせておこう。


 あの大猪は森の主ではない。黒少年の『博識万能』で調べればそんなもん一発で分かる。

 これを聞いた時「だったらもうええやんけ。解決してますやん。どうやって調べたか説明が難しいならまた記憶の改ざんしちまおうぜ。げへへへへ」と素敵なゲス顔で提案したところ、本気のアイアンクローと共に説教されてしまった。

 そして有無を言わせず調査のために森へ出向いたという次第である。


 なお、冒険者組合の名誉のためにもう一つ。

 調査の際にはそれなりの実力者を護衛に付けます、という申し出があったのだが、丁重にお断りした。邪魔なので。

 流石に新人二人に、現在危険な状況である森の、更に危険な最深部まで調査をさせる程ブラックな所ではないらしい。だが罰則と見せしめの意味も込めて「調査してこい」と命じたのだろう。だから安全確保のためにベテランも付けますよ、と。

 だがね、大猪を仕留めた俺の実力を思えば、それ以上の戦士はそうそう用意できまいよ。

 だから固辞した。その辺ちょっと組合長と揉めたが、最終的には説得(物理)できた。


 そして現在。

 我々二人は再び森へと足を踏み入れていた。


 ◆


「ああ、ステーキ。食べたかったなぁ、猪肉」

「悪かったってば。いつまで言ってんだよ。あれだけ量があるんだし、帰ったらまだ残ってるって。仕事終わりに好きなだけ食べたらいいさ」

 ……いや、果たしてそう上手くいくかな。

 何故だかドングリ以外を食べようとすると邪魔が入るのだ。まるで呪われているかのように。おかげでこの六百年、まともな食事などできた(ためし)がない。

 剣と魔法のファンタジー世界に俺の美食ストーリーは存在しないのだ。とんだガッカリ生涯だよ。

「ほらほら、気を取り直して。森の主とやらはもっともっと奥の方だぜ」

 何故だか張り切る黒少年。

 片や、正直言ってやる気の無い俺。役に立ってない上にだってチョンボやらかしたし。かといって相方と二人きりの現状で挽回したいとも思わないし。もっとギャラリーがいれば頑張るのだが、居たら居たで邪魔になるというジレンマ。

 というか、もう黒少年一人で済む用事だと思うんだよね。

「お前はいいよな。お前は。どこ行ってもなんだかんだでチヤホヤされて。今日の主役は間違いなくお前だよ。良かったね」

「ふて腐れるなよ。周りはともかく、あんたの俺に対する扱いが悪いよ」

 違うよ。俺はバランスを取っているんだよ。お前みたいな勘違い野郎はすぐ調子に乗るから。折角高い能力があるのだから自分がなんとかしてやらなくちゃ、みたいな暑苦しいテンションで空回りしちゃうから。

 痛々しい黒歴史を作らないように調整してやってるんだ。

 俺なりの優しさなんだよ。とはいえ、伝わらないだろうから言わないけど。

「なんだよその眼差しは。変な優しさは要らないぞ」

 む。心を読んだな?

「読まなくても分かるよ。何百年の付き合いだと思ってるんだ」

「へーへー。そうですか。

 ……話変わるけど、なんか妙に静かじゃないか? 虫一匹出てこないとかおかしいだろ」

「森の主が気を利かせてるんだよ。あと、また手下が殺されちゃかなわんとか思ってるのかもな」

「不可抗力だろ~。あんな間近で匂い嗅がれたらお前でも反撃するだろう」

 一般人であっても普通に怯えて反撃なり逃走なりするだろう。あの巨体だからそのまま俺をエサにして食べちゃう自信があったのだろうが、相手が悪かったのだ。この世は弱肉強食である。俺より弱かったあいつが食われる側に回るのは必然であった。

 ……何故か俺の口には入らなかったけども。


 無駄口を叩きながら森の奥へと進んで行く。

 段々と森の主に近づいているのが分かる。相手は気配を隠すつもりもないらしい。ここまで駄々漏れだと『全知全能』を封じられた俺にも簡単に探れる。

「これって挑発されてんのかな」

「滅相も御座いませぬ。森に無用な被害が及ばぬよう、行き先を示したにすぎませぬ」

 黒少年に尋ねたつもりだったが、別方向から念話が送られてきた。

 これが森の主か。低く強く響く念話である。

「横着しやがって。用事があるなら迎えに来いよ。偉そうなやっちゃな」

「やめろよ、喧嘩腰になるの。穏便に済ませようや。それに用事があるのはこっちの方だから」

 違うね、行き先を示すってのは「自分のとこに来い」って意思表示だろう。何かしら用事があるから呼びつけるんだ。

「申し訳ありませぬ。私自身は身体が大きくなりすぎて動くに動けないのです。それに迎えはお気に召さなかったので御座いましょう? これ以上手前共の配下を殴り殺される訳にはいきませぬ。どうかご理解の程を」

 …………あ-。あの猪、お出迎えだったんスか。やけにフンスカしてると思ったけど、俺が本人か調べてたのか?

 やっちゃった感のある俺は半笑いで誤魔化すことにした。呆れ顔の黒少年も無視してやる。


 気配に導かれて、ようやく開けた場所へと出た。そこだけ木の幹が無く、しかし上空は枝葉で覆われてドーム場になっている。天然の巣といったところだ。

 そしてその中央に横たわる巨大なタヌキ。

「ようこそいらっしゃいました。ろくなもてなしもできずに申し訳ありませぬ。世話係も含め一時的に避難させておりまする故」

 身動(みじろ)ぎ一つせず、念話ではなく直接口をきく大ダヌキ。

「でっかいなー」

 思わず感想がこぼれ出た。

 見上げる程の大きさである。タヌキの規格を優に超えている。巨大化した俺達ドラゴンよりも二周り程大きいのでは無かろうか。

 森の主と呼ばれているようだが、地元の人が見たら神様扱いされるんじゃなかろうか。


「強大な御方達。此度は何故、手前共の森へとお越しになられたのでしょう。人の姿を取られようと、そのお力は隠しきれませぬ。森で暮らす者達は混乱しておりまする。

 手前共は無用な(いさか)いを好みませぬ。お望みがあらば可能な限り対応させて頂きまする」


 俺と黒ドラゴンは顔を見合わせ目と目で会話する。

「どうしようか弟よ」

「いや、もう用事終わったし」

「ウサギ狩りと薬草採取って言ったら怒られるかな」

「ん~。もう部下一匹殺っちゃってるからなぁ~」

 大体そんなニュアンスを伝え合った。


 口八丁手八丁で誤魔化そう。ここは俺の出番だろう。

「まず自己紹介しておこう。我々は神である」

「おお、やはり」

「しかし神とは言っても、長い時をとある大陸と共に封印されていたのだ」

 本当は逆に結界張って引きこもってたんだけど。

「故に我らは現在の世俗に疎い。そこでこちらの担当の神に許可を取って人の姿に身を(やつ)し情報を集めている。

 それが原因で森を騒がせたことは本意ではない。謝罪しよう」

「もったいないお言葉で御座いまする。では、手前共の住処をみだりに荒らすことはない、と?」

(しか)り。我らも無用な諍いは求めない。故にこちらの神に力を押さえてもらったのだが、完全ではなかったようだな」

 はっはっはっ、と高笑い。さらっとこちらの神に責任転嫁するのも忘れない。

 隣で黒少年が「よくもまあ口から出任せを……」と目で批難してくるが、そこは君、ポーカーフェイスを保ちなさいよ。


 ◆


 これからもちょくちょく来るかもだけど面白半分で虐殺も破壊もしないから安心してね。人間のやることにも森に住む者達の行動にも干渉することはないよ。その辺そっちで勝手にやってちょうだい。

 ということを伝えるだけ伝えて引き上げた。


 その帰り道でのことである。

「森の主って強さで決まるもんじゃないんだな。長寿の知識と貫禄が必要なんかな?」

 あの巨体だから強いは強いんだろうけど、自重のせいか寄る年波か、全く動けないようだったし。

 ところが黒少年から返答はない。主と別れた頃からずっとこの調子で、気落ちしている。

「なんだよ。行きは揚々、帰りはガッカリってどんな情緒不安定だよ」

「違うよ、理由あっての落胆だよ」

 理由ねえ。森の主に何を期待していたのやら。

「いやぁ、あんたが倒した大猪、ランケットさんがカプロスだって言ってただろ?」

 言ってたね。カプロス『では?』って。

「ギリシャ神話だとカプロスをけしかけたのは女神アルテミスなんだ。有名だから知ってるだろ。月の女神。

 一回見てみたかったんだけどなぁ~」

「ほー。月の女神か」

 あんなズングリムックリのポンポコタヌキがアルテミスとは。世も末だな。

「だがまあ、大したもんだよ森の主。何気に洗脳しかけてきてたの、気付いてたか? 力技だけが主の要件じゃないって事だろ」

 あー、あの低音念話ね。ばれないようにこっそり続けてたみたいだけど。抵抗(レジスト)する必要もないくらい弱かったけどな。あわよくば猪の代わりに手下にするつもりだったんだろうね。

「したたかというか、なんというか」

「見た目通りのタヌキ親父だったな」

 今日一のドヤ顔を放つ黒少年。お前それ言いたかっただけだろう。


 くそう、今日は頭から締めまで黒少年に持って行かれてしまった。ぐぬぬ、折角ネコミミと尻尾でテコ入れしたというのに。


 明日は――明日こそは俺が主役を張る!

 そしてチヤホヤと持て囃されるのだ!

今月は仕事の都合で更新をお休みします。

次回更新は6/5(日)20:00の予定です。

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