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A-8 女神のお仕事③

 ちょっと前に作って遊んでいた異界の迷宮が、まさか現世と繋がって他人様に迷惑をかけていたとは。黒ドラゴンと一緒に空間の弄くり合戦をしていたせいで意図せぬ事態を巻き起こしてしまったようだ。

 仕方がない。自分の尻は自分で拭くとしよう。異変の原因である糞野郎の片割れが俺だと知られないように、こっそりとね。


 だが、はっきり言って楽勝だね!

 なんせ自分で作った異界に、自分で弄くった空間だ。消すのも元に戻すのも造作もないことだ。特に異界なんてまた作っちゃえばいいし。余裕っすわ!


 ◆


「なんじゃこりゃあ!」

 自称ドラゴンを引き連れ霊峰とやらに転移したところ、否が応でもその異様さが目に入ってしまった。

 こんがらがってしっちゃかめっちゃかである。

 何がどうなってんのこれ。

 例えるなら、極細の糸で編み込まれた網がほどけなくなっちゃった感じ。少しずつ細かく解いていくのがセオリーなんだけど、もうどこから手を付け始めればいいのか分からない状態。苛々して投げ出したくなるこの難易度。

 しかも材質は糸ではない。空間である。線ではなく立体で絡まっているのだ。どないせえっちゅーねん。


 あっれー。おっかしーなー。こんなになるまで無茶苦茶やったかなー。

 おのれ黒ドラゴン。ここまでやらかしたのは、きっとあいつだな。それを後片付けもしないで。はー、やれやれ、困った奴だな。あっはっは。


 ――――どうにもならんな、これは。


「どうした。やはりお嬢ちゃんでは難しいか?」

 諦めた途端に背後から声をかけられ心臓が飛び出るくらいに驚いた。

 居たのか。いや、一緒に転移してきたんだから当然居るだろうけども。

「あの、いや、大丈夫よ。楽勝。

 でもこれ規模が大きすぎて、うん、ちょーーーーーっと、時間かかるかな?」

「無理をすることはないぞ。実物を見てその異質さに気付けただけでも大したものだ。流石転移の術を扱えるだけのことはある。

 しかし、やはり俺も知り合いを当たってみよう。なに、皆で知恵を寄せ合えば案外どうとでもなるものさ」

 おぅふ、気を遣われている! しかも俺にとって最悪の方向に。

「待ってくれ! 俺にもプライドってーものがある。まずは俺一人に任せてはくれまいか。

 どうしても無理だと思ったその時には、改めて助けてもらうから」

「……ふっ。そうか。プライドとまで言われては任せるしかないな。一度はお嬢ちゃんに賭けたんだ。信じてみるよ。

 助けが必要になったら呼んでくれ。俺もできるだけのことをやろう」


 ふー。自称ドラゴンが無駄に男前な性格で助かった。なんとか首の皮一枚繋がったな。


 で、だ。

 結局の所どうやって始末を付けるか、だな。

 まずは、そうだな。異界は消してしまおう。長いこと暮らした我が家ではあるが、正直そんなに思い入れはない。いずれは内装をリフォームしなくちゃな、と思いつつ面倒臭くて放っておいた怠惰の象徴だ。これを機に新しくしてしまうのが良いだろう。

 さらば我が異界! これにて証拠隠滅――隠滅――――消、え、ない…………。

 んんん、ぬぉあー! ダメだー! なんかつっかえてて消えない!

 異界迷宮のループ部分が邪魔をして消えてくれない。あわわわわ、どうしよう、証拠隠滅すらしくじるだなんて。


 …………あ、霊峰ごと消滅させればいけそうだな。


 ちらっと後ろを覗うと自称ドラゴンが腕組みしてこちらを見守っている。

 邪魔だな。どっか行ってくれないかな。

 転移で一緒に連れてきたのが間違いだった。目の前で解決してやった方が印象良くなると思って同行してもらったが逆効果だったようだ。まさかこんなに難題だったとは。


「どうしたお嬢ちゃん。助けが必要か?」

「いや、解決法は思いついたんだけど……」

「なに! そうか、すごいな。ではやってもらえるか」

 ん? そう? やっちゃっていいの?

 なんだ、管理者の許可が下りたからには遠慮は要らないな。

「よし! ならばやって見せようじゃあありませんか!

 さあ、霊峰ごと消えて無くなれ!」

「ちょっと待ったーーーーーーー!!」

 ガッシリと羽交い締めにされ邪魔をされる。

 きゃー、エッチ! レディーの柔肌を捕まえるなんて!

 とかボケてもしょうがないんで冷静に尋ねる。

「……ダメ?」

「ダメ!」

 そりゃそうだ。

「俄然心配になってきたぞ。お嬢ちゃんに任せておいて本当に大丈夫なんだろうか」

「一度は俺に賭けたんだ。信じてくれ!」

「自分で言う台詞じゃないな!」

 このおっさん、なかなか良い突っ込みをしてくれる。

「なあお嬢ちゃん。無理なら無理と言ってくれていいんだ。こんな状況、諦めたって仕方がない。だがな、俺達一匹ずつで解決できなくとも、たくさん集まって知恵を出し合えばなんとかなるものさ。な?」

 おーっと、待ちたまえ! できる。できるから。

 大勢の力なんか要らないさ。ひとりでできるもん。だから不特定多数に呼びかけるのはやめてちょうだい。

「これだけは使いたくなかったが……仕方がない…………」

「いや、待てよお嬢ちゃん。何するつもりか知らないが」

 ふ、そう不安そうな顔をしてくれるな。

 竜王様の関係者が居る前で使いたくはなかったというだけの話さ。むしろこの力さえ使っていれば最初から簡単に解決できていたのだ。


 刮目して見よ! これが竜王タナカ様より受け継いだ能力!

「神の力、スキル『全知全能』! この乱れた空間を元の姿に戻すのだ!」

「こ、この魂の輝きは――ま、まさか――――!?」

 俺の目にはどうしようもないくらいほつれて見えた空間があっという間に解きほどかされてゆく。


「間違いない――お嬢ちゃん、いや、貴女はもしや――――

 って、どうしたその顔!」


 思わず心配されるほどの俺の顔はと言えば、白目を剥いて舌を出しヨダレを垂らす酷い顔である。改めて言うが、『全知全能』の副作用でこれこの通り。口の中が渋くなりすぎてどえらい事態に陥ってしまうのだ。

「き、気にしなさんな。大きな力には代償が付きものなんだ」

 それを考えれば黒ドラゴンの『博識万能』が如何にチートか分かるだろう。奴の能力は『全知全能』の下位互換とはいえ、ほぼ同じ様なことができる上にリスクゼロ。

 そんな力を生まれた時から持っているのだ。調子付いてしまうのも仕方があるまい。あいつ自分のこと物語の主人公だと思っている節があるし…………。


 だからこそ、これからのことは俺から奴へのプレゼントだと思って欲しい。

 千尋の谷から突き落とす的な――かわいい子には旅をさせよみたいな――若いうちの苦労は買ってでもYOUやっちゃいなよなんていうし。

 つまり、その、あの、なんていうか。


「見ての通りさ。黙ってて悪かった。

 改めて名乗ろう。俺の名はコート。今代の女神にして、竜王様より神の力を受け継いだドラゴン、コートだ!

 邪神の企みを未然に防ぎ、世の安寧を守ることこそが俺の仕事!」


 全部、押しつけたった。


「おおお、すると、もしや、森の中で助けて頂いたのは偶然ではなく……」

「奴の(よこしま)なる企みを察知し、駆けつけたのだ!」

 嘘は言ってない。超なんとなく察知したし、暇なので駆けつけた。

「で、では、もしやこの百年余りを……」

「そう、邪神と対抗すべく、歴史の裏で戦い続けていた……」

 嘘は言ってない。黒ドラゴンとは色んなことで対抗してきたし、台本ありありで戦ってもいた。

「それでしたら……それでしたらば、一言教えて下されば……俺は、いえ、わたしは――――」

「すまない。目立つ訳にはいかなかった。今までも、これからも」

 嘘は言ってない。だって色々やらかしてるからばれると絶対怒られるし。


「女神様!」

 自称ドラゴンは凄い勢いで額を地面に叩き付け、いわゆる土下座の体勢を取った。

「わたしは竜王様に仕える司祭であり、この霊峰の守護竜でございました。貴女様が竜王様の後を継がれたのであらば、この命、貴女様のために捧げたく! どうか、どうか、この卑小な身が貴女様に仕えることをお許し下さい!」


 うぇーい、やなこった。


「時はまだ満ちていない。この先きっとその力を頼ることもあるだろう。それまで、この霊峰を守護し続けるのだ。

 そして、決して俺のことは口外しないように。先ほども言ったが、目立つ訳にはいかないのだ。時が満ちるまで!」

 とか適当なことを言って煙に巻くテスト。

 もう暫くここの社に引きこもっていてくれ。あと何万年か。ほんで俺のこと他言無用な。責任を負わない黒幕ポジションでいたいんだ。

「……心得ました。いつかその日が来るまで、女神様のことは我が心に押し留めて参ります!」

「絶対?」

「絶対に!」

「絶対だよ?」

「この命に代えましても!」

 よしよし、いいぞ。この調子なら大丈夫そうだ。

「それでは、またいつか会うその日まで……さよーならー…………」

 ゆっくり転移しながらのフェードアウト。


 ◆


「ふー、やれやれ」

「おっす。なんだよ、お疲れだな」

 転移した先は黒ドラゴンがゴロゴロしている城の中である。

「悪いんだけどしばらく泊めてくんない? 俺の引きこもってた異界、無くなっちゃった」

「……今度は何やったんだよ。空間一つ消えて無くなるってただ事じゃないぞ」


 お馬鹿、お前の尻ぬぐいだよ! とは、敢えて言わない。たぶん突っ込まれるから。


「なんでもないよ。もう解決したし。

 はぁ~、退屈でも普段通りの日常が一番だよな」

「何を悟ったようなことを」


 呆れた様子の黒ドラゴン。しかし俺が気になるのはその後ろに控えたエルフ美女である。

 目力がすごい。「邪魔よ」「消えなさい」「ぶち殺すわよ」と訴えかけてくる。はいはい、分かってますよ。すぐ出て行くっつーの。

 そのためには新しいマイホームをすぐさま(こさ)えないと

 こちとら一仕事終えたばかりだというのに、休まらないなぁ。


 思うに、暇だったのがいけないのだ。妙な気を起こして慣れない人助けに勤しむなんて俺らしくなかった。

 娯楽を広める必要がある。退屈を排除するために。


 うむ。目標ができた。

 準備はゆっくりやろうかな。

 おもしろきこともなき世をおもしろく、だ。


 今生をすごすこの世界。物理的に、面白くしてやろうじゃないか。ふっふっふっ。

明日も更新予定です。

できればね。

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