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A-6 女神のお仕事①

二日前から連続更新中です。

でも今日の話とは続いてないので

読まなくても大丈夫です。

 オッス、俺ドラゴン。名前はコート。

 突然だがちょっと聞いてくれ。


 なんか今凄く人助けしたい気分になった。

 誰かがどこかで困っている。俺の助けを呼ぶ声がする。そんな気がする。なんとなく。

 よし、ちょっと行って助けてくるか。暇だし。


 ◆


「こんにちわー」

 なんとなーくで転移してみたら、虫の息な男性を発見してしまった。

 場所は人類帝国と獣の国の国境、東側の山中である。

 魔物か獣にやられたのであろう、結構血だらけ傷だらけである。

 木の幹に背を預けて休んでいるように見受けられるが、これ放っといたら死ぬケガなんじゃなかろうか。

 念のため、生きてるのかなー、と思って顔をのぞき込んでみたが、弱々しくとも息はしているようだ。

「こんにちわー」

 だが、返事はない。

 代わりに閉じられていた瞼がうっすらと開いた。それから俺の姿を見つけて、自重めいた微笑みを浮かべる。

 これは、あれだな。死を覚悟しているな。「もうダメか、殺すなら殺せ」みたいな雰囲気だ。おいおい、俺に食べられるとでも思ってるのか? このプリチーな俺ドラゴンが恐ろしいモンスターにでも見えてるんだろうか。眼科行け、眼科。


 取りあえずケガだけでも治しておくか。ほれ、ヒールヒール。回復魔法は得意なんだ。じいさんとこでも練習したし、長いこと教会でも世話になってたし。

 うむ、よし、傷一つ残ってないな。


「ねー。こんにちわってば。なんで無視すんの? ケガは治しましたよー」

 だめだこりゃ。気絶してる。頬を叩いても反応がない。

 この野郎、俺が滅多にやらない人助けに勤しんでいるというのに、覚悟完了して意識を失いやがった。

 もう。面倒臭いなぁ。

 しかたない、麓の村なり町なりに連れて行くか。乗りかかった船だし。


 名も知らぬ男性を背に乗せてえっこらよっこら山を下りていく。

 道中、何故にこの男性は軽装で山には入り傷だらけになって死にかけていたのかを考える。

 最近は黒ドラゴンと遊んでばかりですっかり平和ボケしていたが、元々この世界は剣と魔法のファンタジー世界なのだ。凶暴な魔物も跋扈しているし、野生の獣だって素手で相手できるような柔な相手じゃあない。

 そんな中、武器も持たずに山の奥深くまで足を踏み入れるだろうか。

 ひょっとしたら何かしらの理由があるのかも知れない。


 厄介事の気配がする…………。


 しまったなぁ。なんか帰りたくなってきたぞ。

 そもそもだ。危険と隣り合わせのこの世界で、危険生物に襲われて死にかけるなんてよくある話なのだ。そんなのいちいち助けてらんない。数が多すぎる。だからこそ、あまねく人類全ての人々に加護を与えて保護しているのだ。言っちゃあ悪いが、個人の生き死に程度で俺の所まで声が届くことはないし、いくら暇だからって気が向くこともない。

 つまりだ。何となくだが呼ばれてる気がした時点で、個人では済まない面倒事が起きているのだ。たぶん。


 さて、最寄りの村が見えてきましたぞ。

 でも突然ドラゴンがお邪魔すると何故だか皆恐れおののいて逃げたり隠れたりしてしまう。文字通りお話にならない事態になってしまうのだ。何故か。

 なので先んじて村の有力者――教会があれば神官に、いなければ村長――に神託(ツイッター)で連絡を入れておく。

「可愛い子供のドラゴンが遊びに行くから歓迎してね♪」

 みたいな感じで。

 今回は教会のない本当に小さな村のようなので、相手は村長だ。言葉を授けるや否や、村の中がにわかに慌ただしくなる音を聞いた。「神の御使いが来られるならばもてなす準備をしなければ!」みたいな感じなんだろうが、残念そんな時間は与えない。


「こんにちわー。僕ドラゴン。おっすおっす」


 かしこまった出迎えなんざ無用ですぜ。気さくに行こう。今日は無礼講だよチミー。

 そんな想いを込めてのフレンドリーな挨拶だったと思うのだが、村人全員土下座でお出迎えである。先ほどまで駆け回っていた村人達が全員である。有無を言わせずひれ伏した。

「し、し、使徒、様、ようこそ、我が、フィルフールット村へ! お、おいで、下さいまひた」

 震える声で挨拶をするのは、先ほど神託を告げた村長さんだ。これでもかとおでこを土に擦り付けながら戦々恐々喉を振るわせ喋っている。

 使徒じゃなくて女神本人だと知れたらショック死するかもしれんな、このじいさん。

「あー、そうかしこまらず。皆さん顔を上げて楽にして下さい。自分、若輩者のただのお使いなんで。さっさと用事済ませてとっとといなくなりますんで」

 これまでの経験から俺は学んでいるのだ。ヘタに誤解を解こう、慣れ親しもうとすると逆効果なのだ。事務的に済ませてしまおう。時間の無駄だ。

 なんせ本物の神様がいる世界だもんな。姿を見る者は少なくとも、加護という形で万人に神の存在が知れ渡っている。その力の強大さも何千年という長い年月語り継がれ、実際に幾度か神同士の争いすら起こり記録されているのだ。

 ラフにいこうぜ、なんて無理の無理無理なのだよ。


 問答無用。話を進めるぜ。

「はい、こちらの男性をご覧下さい。そこの山の中で傷だらけになって死にかけてました。誰かこの顔に見覚えのある人ー」

 知ってる人は答えてね、と挙手を募るが誰一人として手を上げる者はいない。

 んん? どういうことか。この辺の住人じゃないのかね。もっと遠くから来た――にしては軽装に過ぎると思うんだけど。

「恐れながら申し上げます。その男はこの村の者ではございません、わ、わたしは村の顔役として近隣の集落に顔を出すことも多いのですが、見覚えがございません」

「あれまあ。そうなんだ……」

 この男の知り合いにでも事情を聞いて、なにかしら問題があればちょちょいと解決して終わりのつもりだった。が、ふーむ。思ったより難題の香りがする。

「んーと、じゃあ、どうしよっかな。えーと、村長殿」

「はっ!」

「ああ、そんなに気を張り詰めないで。えっと、この人介抱してやってもらえます? 見ての通り傷は治したんですけど、気絶しちゃってて起きないので。目を覚ましたら話を聞きますんで、それまで寝床を借して欲しいです」

「お任せ下さい!

 おい、その男をわたしの屋敷へ運べ。使徒様に失礼のないよう、丁寧にな!」

 村長の指示を受け村人達がてきぱきと動き出す。実に統率の取れた動きである。流石は国境にある村だ。戦地が近いこともあって兵卒としての練度も高いらしい。


 ◆


 男が目を覚ますまで時間がかかると見た俺は、村の子供達と一緒に尻で歩く遊びに興じていた。尻餅をついた格好で両足をあげ、尻の筋肉を使って前へと進むのだ。これがなかなか難しい。足を上げっぱなしの姿勢がしんどいのもさることながら、片尻持ち上げてバランスを取るのがまた辛い。普段使わない筋肉も含めて結構な全身運動になってるんじゃなかろうか。

 これを子供達が実に上手いことやってみせるのだ。体が軽いからなのかなー。慣れの問題もあるんだと思うけど。

 あと村のおばちゃんがすげー上手かった!

「コツがあるんですよー。おっほっほ、ダイエットに最適なんですよ、これがー」

 とか言って尻だけでずんずん進んでいくのだ。こいつは相当にやりこんでやがる!

 まあ、そのおばちゃんはおばちゃんらしい丸っこい体型なのだが。やせる気配が微塵もねぇ。切ないね。でも腹筋はカッチカチだった。


 おかげさまで子供らと一部のおばちゃま連中とは仲良くなれたよ。他の一部では「あいつ阿呆だな」って目で見られるようになったけど。


「使徒様、お戯れの所恐縮ですが、先の男が目を覚ましたました。今は世話役に状況を説明させているところでございます」

 村長は相変わらずだな。親しくなるのが無理なら侮ってて欲しいんだけど。集団の長だけあって油断してくれないんだよなぁ。

「話は聞けそうですか?」

「はい。意識はしっかりしておりますし、落ち着いております。今すぐお会いになりますか?」

 善は急げと申します。お会いになりましょう。

 村長に案内されて男の所へと向かう。男はまだベッドの上に座ったままだったが、なるほど確かに落ち着いている。すっかり元気そうじゃあないか。

「こんにちわー」

「こんにちは。それとありがとう。おかげで助かった。お嬢ちゃんは命の恩人だな」

 人って言うか、ドラゴンだけど。なんてベタな返しはスベっちゃうかな。

「その恩人の顔を見て気絶した輩が、どうにも平静ですな。あの時の俺の顔、そんなに怖かった?」

「ははは。そうじゃないさ。あの時はホッとしたんだ。安心したから気が抜けたんだよ」

 ほう。この俺ドラゴンを見て安心したってのもまた肝っ玉のでかいことで。

「じゃ、まあ、元気になったところで事情を聞きたい。なんであんたあんなとこで傷だらけになって倒れてた訳? っていうか、そんな格好で山には入るとか、のんびり屋さんにも程があるだろう」

「事情か。もちろん話す。むしろ聞いて欲しいくらいなんだ。だが…………」

 チラ、と後ろに控える村長を見る男。俺以外に聞かれちゃまずいとでも?

「介抱してもらった相手にそれは不義理なんじゃないかね。それとも、それも含めて訳ありなのか?」

「いえ、どうぞわたしのことはお構いなく」

 男に先んじて遠慮の言葉を口にすると、すぐさま踵を返す村長。

「いいんですか?」

「もちろんです。厄介事には首を突っ込まないのが長生きの秘訣ですので」

 村長は素敵な言葉を吐いて苦笑しながら扉を閉めた。実に羨ましいスタンスだ。許されるなら俺もそっち側の立場で居たいんだけどな。


「――――さて、じゃあ、改めて」

「ああ。聞いてくれ。そうだな、なにから話したものか。

 いや、まずは自己紹介からだろう」

 男は姿勢を正し、こちらの目を真っ直ぐに見つめながら口を開いた。


「俺の名前はディクドゥース。霊峰シエトラを守護するドラゴンだ」


 厄介事の、気配がする。

明日も更新予定です。

更新されなかった場合、ここの一文はこっそり削除されます。

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