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B-3 エイプリルフールのすすめ

 こんにちは。ブルジョアです。

 民衆と俺の暇潰しのために様々なイベントを考案してきたが、なんだかんだで金儲けになっちゃうんだよなー。

 大陸中に響き渡る大企業・ドラゴン商会の経営者としては正しい姿なんだが、それだとこの俺ドラゴンのボランティア精神が満たされない。

 イベント企画を広めるために企業を通しているのがいかんのかな?

 ふーむ、試しに個人で何か広めて――いや、一人はきついな。黒ドラゴンくらいなら巻き込んでも良かろうよ。


 ◆


「と、いうわけで。時期的にエイプリルフールなんてどうだろうか」

 いつもの感じで、エルフ美女と一緒になってくつろぐ黒ドラゴンの下へ参上。

「何がどういうわけなのか知らんが、それって言葉の意味から伝えるのか? こっちの四月に当たる月はエイプリルなんて名前じゃないぞ」

「いや、でもこっちにもエイプリルさんているじゃん。お前の城にもいたろ? そんな名前のメイドさん」

「……いるけどさ。ええっと…………ああ、初代獣神の影響か。四月じゃなくて、ラテン語由来の『分かりやすい』『開く』みたいな意味なんだってよ」

「へー。ぴったりじゃん。エイプリルさんの分かりやすいウソ! てことで。騙される奴なんかいないよバーカ、みたいな感じで笑いあえるイベントにしよう!」

「そんな上手くいくか? まあ、娯楽が増えるのは良いことだよ。試しに城の中だけでやってみようか」

 そう言うと黒ドラゴンは重い腰を上げた。呼び鈴を鳴らしてお世話係を招集である。

 いちいちそんな物使ってないで神託(ツイッター)で指示出ししたらいいんじゃなかろうかと思うのだが、こいつなりの様式美なのだろうか。


 一旦人手を集めての趣旨説明。


 四月馬鹿(エイプリルフール)とは言わずと知れた四月一日の「嘘を吐いても良い日」、またはその日に騙された人を指して言う言葉だ。起源には諸説あり、その日の午前中限定と言われることもある。

 だが「嘘を吐いても良いよ」と言われたって、その風習に不慣れな人からしたら「ふーん」で終わる話である。なので、親しみやすくなるよう、分かりやすい目的を作ることにした。要はゲームとしてのルール付けだ。


 その主役はメイドのエイプリルさんである。

 リザードマンでそれなりに妙齢の女性であるミセス・エイプリル。突然前へ進み出るよう告げられた時にはガッチガチの様子であった。


「これから俺が考えたいくつかの『ウソ』をエイプリルに伝える。そのあとはいつも通りすごしてもらうが、その間に雑談や報告なんかでその『ウソ』を吐いてもらう。皆はその『ウソ』を自分の名前と一緒に紙に書いて、用意したこの箱に入れてくれ。

 今日の仕事終わりに皆の前で彼女が口にした『ウソ』が何であったか、答え合わせをしよう。見事正解を書いた者にはもれなくプレゼントを贈ろう。

 まあ、仕事の都合でエイプリルと接する機会が多かったり少なかったりするだろうが、そう大した物でもないので軽い気持ちで参加してくれ」


 黒ドラゴンの説明を受け、集まった連中はざわざわと騒ぎ始めた。もっぱら何が貰えるか予測する俗な意見であったが、黒ドラゴンの横に立つ俺の姿を見て「またあいつか」「変わった遊びを思いつくな」「よく見かけるけど誰なん?」などという言葉も聞こえた。こいつら、俺のことなんだと思ってるんだろうか?


 ちなみに今回のイベントであるが、俺も楽しみたいので黒ドラゴンのウソについては聞いていない。エルフ美女や側近の美女達も参加である。

 壇上に昇る際は緊張マックスだったミセス・エイプリルだが、一旦()けて戻ってきた頃にはお澄まし顔で立っていた。「わたし、騙してやりますわ」という気概で満々だ。

 とはいえ俺の有利は揺るがないがね。なんせ『全知全能』による地獄耳でミセス・エイプリルの会話を全て聞き及ぶことができるのだから。よもや卑怯とは言うまい! ふはーっははははは!


 ◆


「ねえ、エイプリル。獣神様から授かった『ウソ』ってなんなのよ。わたしにだけこっそり教えてよ」

「だめよ、それじゃあゲームにならないじゃない。それにわたし、『ウソは吐かない』主義なの。獣神様にそそのかされたからって言えないわ」


「あ、エイプリルさんだ。ねーねー、獣神様に何を教えてもらったの?」

「何を言うように聞かされたの?」

「教えてよー、エイプリルさーん」

「いやねえ。『何も言われてない』わよ。いつも通りにって言われてたの、聞いてたでしょ?」


「よお、エイプリル。今日はモテモテだな」

「ええ。いつになく話しかけられて、ちょっと困ってるわ」

「しょうがないさ。なにせ獣人様から褒美を賜るまたとない機会だもんよ。誰だって頂けるなら頂きたいさ」

「そうね。そういう意味だと、わたしが一番損な役回りじゃない? だって、どんなに頑張ってもご褒美は出ないんだから」

「その割には、楽しそうだけどな」

「そうかしらね。『わたしは普段通り』のつもりだけれど」


「皆さん、今日もお疲れ様でした。各人、変わったことやトラブルはなかったかしら。

 特にエイプリル。何か報告することがあるんじゃない?」

「いいえ、何もございません。本日の業務はいつも通りでした」

「ふふふ、それは獣人様から賜った『ウソ』かしら?」

「いいえ、まさか。皆さんにも言っておきますけど、わたしは『ウソは吐かない』のよ。だって、獣神様からは『何も言われてない』んですもの。今日一日わたしが『ウソ』を吐くのを待っていたみたいですけれど、誓って『わたしは普段通り』すごしただけよ」


 そしてゲームは終了した。

 仕事終わりに誰もが『ウソ』は何だったのかを考え、紙に書き、黒ドラゴンの用意した箱に入れていった。


 ◆


 いやはや、簡単だったねしかし。実に分かりやすい。

 だって明らかにゲームのルールと矛盾した発言してるし。

 正解者へのご褒美はお菓子作るつもりだって言ってたな。黒ドラゴンが手ずから作るつもりかしらん。大したものじゃないとか言っておいて、信者からしたらもったいなくて食えないレベルのご褒美だろうに。

 まあ、俺にとっちゃありがたみも何もないが、貰える物は貰っておきましょうか。


 さらさらさらっと一筆したためて投函。

 あとは結果を待つばかりである。


 ◆


「結果発表ー!」

 迅速な集計が行われ、発表の時が訪れる。

「できる限り皆が正解出来るよう簡単な『ウソ』を考えたつもりだったが、意外と正解者は少なかったな。一つ以上『ウソ』を見つけられた者は僅かに十七人。全体の十分の一以下だったのは少し驚いた」

 え、マジかよ。あんな見え見えのウソに騙されるとは。

 しまったな。俺が擦れてるわけじゃないよね。こいつらが純真なんだ。ピュアッピュアだな獣人達よ。

 これは、本番に向けてもっと分かりやすい『ウソ』を用意しないといけないなぁ。もっと荒唐無稽で奇天烈なやつがいいか。

「だが残念がることはない。参加賞として皆には小袋入りの飴を贈ろう。正解者にはそれともう一つ、クッキー詰め合わせのプレゼントだ。

 ちなみに、正解は

『ウソは吐かない』

『何も言われてない』

『わたしは普段通り』

 あと、実は今日のエイプリルはクアランタが魔法で化けてた替え玉でした」


 ……えぇ~~~~~~~っ!


 黒ドラゴンのネタ晴らしに合わせてエイプリルがクアランタに、クアランタがエイプリルの姿に戻った。

 驚きで開いた口が塞がらない。


 分かるか。分かるかそんなん!

 分かるわけないだろうがっ!!


 会場も大騒ぎだよ。そりゃそうだ、いつもの気安さで接してたら実は上司の変装でしたとか。エルフ美女、獣神の巫女ということもありなんだかんだで尊敬されてるし。


「はっはっはっ! 最後の最後でサプライズ成功だな。楽しんで頂けたようで何よりだ」


 上機嫌の黒ドラゴン。

 城勤めの獣人諸君も驚きと興奮で実に楽しそうだ。


 でもっ! くやしいっ!

 パーフェクト狙ってたのに!


 おおおおお、この悔しさこそがエイプリルフールの醍醐味か。

 畜生、みていろよ黒ドラゴン!

 次は、次こそは俺のパーフェクトゲームを決めてくれる!



□□□ エイプリルフール(仮) □□□

 エイプリル役を一人選び、分かりやすい『ウソ』を吐いてもらう。

 日常会話の中で吐かれた『ウソ』に気付かれなければエイプリルの勝ち。

 気付かれれば負け。

 敗者は勝者にお菓子を送る。

□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

前後編のつもりだったけど、間に合わなかった。

続きは来年かな。


今週出張につき、日曜の更新はお休みです。

次回更新は4/10(日)20:00。

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