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東方陰影記  作者: 凛
69/70

66話

やったぜ(KBTIT感)

ペタリと地べたに座り込む二人の少女たち二人の肩に手をおきながら少年は静かに口を開いた。

「さて、と閻魔様にスキマ様。即刻この場から立ち去っていただけると助かるのですが」

「言い方に棘があるのはわざとですかね?」

「お好きな意味にとっていただいて構いません。とにかくさっさと退いていただけませんかね」

二人の少女の前に移動した少年は呆れた様な笑みを浮かべる夕月の顔を見つめ再度口を開いた。

「お待ちかねのラスボスタイム、かな?」

「自分的には待っているつもりはなかったのだが?」

真似をする様に少年のまた、笑みを浮かべる。夕月は納得がいかないのか笑みを崩し、憎むように少年の顔をなめまわすように睨み付けた。


「…神崎夕月。あなたの言うとおりここは一時撤退させていただきますが。この事件が解決したら貴方の元へ尋問へ向かいますから」

「いい、夕月。絶対に生きて帰るのよ」

少年は振り返ることもせず背でその言葉を聞き流し、後ろの二人に向かってそっと、中指を立てた。

文句を言おうと歩みだそうと足を踏み出した映姫の足もとに小さなスキマが開き、悲痛を孕んだ叫び声がスキマの中へ木霊した。

「紫さん。もし、俺が帰ってこなかったり何か違和感を感じたら稗田阿求の所に行ってください。すべて彼女に託しましたから」


「さあ、終わりにしよう。始まりがある話には終わりがなくてはただの駄作だからな。自分が己と化すか、俺が己と化すかは時の運か、はたまた」

「自らの力に決まってんだろうが」

その言葉を最後に二人は言葉を交わすことはなく、鋭い金属音がその周囲にのみ響いていた。


***


結論から話すとその後神崎夕月も神崎夕月の姿を成したものが私たちの前に姿を現すことはなかった。マヨヒガに帰った時、藍にも橙にも怪我に相当するものも、尾が欠けている、ということもなく、まるで狐につままれた様な妙な違和感に体を襲われた。

風見幽香に関してはなぜかアリス宅に泊まっていた、という謎の事案が発生している。あの亡骸の破片はいったいなんだったのかも理解することなく、彼女はまたいつも通りに数多くの花たちに囲まれて生活している。

そして驚くべきことはもう一つある。神崎夕月を覚えているものがあの時最後に神崎夕月を見た私たち二人以外、稗田阿求ととある少女しかいない、ということだ。なぜ神崎夕月が幻想郷に生きる者の記憶から排除されたのかはわからない。何度問おうとも彼を知っているという返答が帰ってくることはなく、望む回答は全く返ってくることは全くと言っていいほどなかった。


「この現象、賢人としての意見をいただきたいのですが?」

そう問いかけられたとき、私は四季映姫に何かを返答することができなかった。ただ「理解不能」、その言葉が似合うような状況。


そして彼が最後に名を出した稗田阿求に託されたものを受け取りに、私は阿求の元へ訪れていた。

「ようこそ、幻想郷の賢人。八雲紫様、あの方から様々なことを伺っています」

「じゃあ、私が一体何のためにここに来たのかもわかっているみたいね」

ええ、と一言肯定すると彼女はただ静かに一冊の日記を取り出した。そして数枚ページをめくった彼女は私の目の前にその日記を差し出してきた。

「これを読んでください。彼からの伝言です」


『拝啓、八雲紫様。

この様な文面でのご挨拶まことに不躾ではありますがこの幻想郷のため、そして原作を愛する私たちのために止む無くこのような形をとってしまいました。

きっと今頃この世界の人々が俺のことを忘れていたり、俺が来たことで起こった影響が無かったことになってしまったりと、少々イレギュラーなことが起こっていると思います。

私はあの場に行く前にこの手紙を書かせていただきましたが、この手紙が読めている、ということはうまくいった、と取っていただいて構いません。

私の問いに正直に答えていただいた阿求さんにもまともにご返答できていなかったりと、本当に礼儀知らずもいいところです、が。この世界に及ぼした影響だけは俺が直しておきたかったのです。

これは俺の能力でもあり、「夕」の能力でもあります。あいつはただ、誰かに覚えてほしかっただけなんだ、と。自分が存在していた、と足跡を残したかったんです。神崎夕月、という人間が持っていた能力が俺と夕に分かれてしまったために起こった予期せぬ異変の様なもの、でした。

風見幽香を手に掛けた時、夕の中でとあるいくつかの感情が吹っ切れたのでしょう。

神崎夕月が復活するまでの擬似人格として役目を果たした「夕」、が暴走を始め、神崎夕月の中にあったいくつかの感情と能力と記憶の一部を持って、己が「神崎夕月」になろうとするあまり、自らの欲求を否定した風見幽香に「神崎夕月」から持ってきた殺意が狂気を向け、彼から奪った能力の一部と共に彼女を死に来らしめてしまったのです。

少ない感情しか持たない彼が負の感情を爆発させたらどうなるのか、は言わずもがな分かる事だろでしょう。

「夕」、は何も悪くありません。悪いのは神崎夕月、という存在なのですから。

幽香さんには悪いと思っています。謝れずにいることを悔やむばかりです。

最後の最後に答えを望まぬ質問を、一つ。

貴方が俺をこの世界に招いた理由。なぜあの時嘘をついたのでしょうか?』



***


阿求の日記を閉じ、星が輝く夜空を見上げ、私は懐かしさを感じた。

あの日と同じような、彼と出会った日の様なそんな夜空が私の上で変わらずに瞬いていた。

この話、神崎夕月が幻想郷で起こした物語はここで一旦終わり。

続きがあるものならまた別の機会に。

きっとその時も私が語り部を務めることでしょう。その時には、彼の冒険を記録した、このカメラとともに、話を紡ぎましょう、か。


無理やり終わらせるスタイル

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