44話
亜屁がおダブルピース!
博麗神社から出た夕は暗い森の中をがむしゃらに歩き続けていた。白玉楼までの道を知らない彼には行く宛など全く無いままただ漠然と前に突き進んでいた。
「……ちっ」
夕は無性にイラついていた。理由は二つ。一つは無論、"神崎夕月"という名前に、である。彼は自身を夕であるという認識を持っているからこそ神崎夕月と呼ばれる事にストレスを感じていた。そしてもうひとつは謎の安堵感に満ちた彼女達の表情を見ていると自分がここにいてはいけない、という感覚に襲われるためだ。なぜそんな感覚に襲われているのかはわからない、わからないからこそ彼の平常心をじわじわと蝕んでいた。
「フラン……か」
ふと、神社にやってきた1人の幼女の名前を口に出す。白黒の魔法使いが自身の目の前で初めて口に出したはずのその名は何故か頭から離れない。
「彼女達は生前の自分を知っているのだろうな。でなければあんな反応はしないはずだ。しかし久方ぶりに、という訳ではないが少しも変わってなかったな…………´咲夜さん´」
ふと、何かを疑問に思った夕は動かしていた足を止め、首をかしげた。
夕は十六夜咲夜の名前を知るはずがないのだ。しかも、久方ぶりに見るような相手でもない、ないはずなのだ。がしかし夕はまるでそれが当たり前のように、必然であるかのように咲夜、と言葉を発したのだ。
両の手を何度か握っては開いてを繰り返しにやりと口を歪め笑い喋り始めた。
「魔理沙も美鈴さんも相変わらずだったけど、射命丸さんだけは何か俺の記憶とは違うんだよな」
***
「夕さんどこに行かれたのでしょうか…?」
白玉楼をでて早数時間。妖夢は夕を探しに出たのだが、行き先に皆目見当のつかない彼女は行き当たりばったりにそこらじゅうを歩き続けていた。
「あれ?お前見ない顔なのだー」
ふと後ろから幼い少女の声が妖夢の耳へと届いた。
「あなたは…?」
「わたしか?わたしはルーミアなのだー!」
両腕を横に広げ意気揚々と自己紹介をするのはルーミアだった。
「ルーミアちゃんって言うのね」
薄ら笑みを浮かべながらルーミアの前に腰を落とす妖夢。と何かを気にしたかのようにルーミアは妖夢の香りをスンスンと嗅ぐ。
「あれ?なんか匂うかな…?やだなー、洗ったはずなのに…」
「――――――夕月のにおいがする」
妖夢は聞き覚えのない名前に困ったように首をかしげた。
「夕月にあったことがあるのかー?」
「……誰ですかね?その夕月さんって」
妖夢としての言い分は当然ではあったがその言い分がルーミアの機嫌を段々と損ねていった。
「私、お腹がすいてるのだー。早く夕月連れてくるのだー」
ルーミアの背後から少しずつ闇が広がり始め、妖夢を包みこもうと蠢き、止まった。ある一点を見つめ、口からは涎を垂れ流すルーミアの視線を妖夢も見る。
「――――お前が探している夕月ってやつは俺のことか?」
暗闇の奥からゆっくりと歩いてきたのはあの日ルーミアに食べられたはずの夕月であった。
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