32話
春度ってどんな感じなんでしょうね。
原作だとどんな感じに集めてるんでしょうか??
チャリン。
空の賽銭箱に投げ入れた小銭の音が響く。賽銭を入れた者は2回両の手を合わせるような動作をして何かを呟いた。と、それをかき消すようなドタバタと廊下を走る音が神社に響く。
「お賽銭ありがとうございます」
と、紅白色の巫女服を着た少女がにこやかに笑う。この様子を見る限り、賽銭箱は長い間空腹状態だったのだろう。ふと、紅白の巫女は賽銭を入れた者を上から順に舐め回すように眺め、
「見慣れない方ですけど、人里の方ですか?」
こう問いた。体をすっぽりと覆い隠すコートとフードによって顔が見えない服装をした人間などそう見るものではないのだろう。
「いや、人里の人間ではない。まあ……ちょっとした散歩だと思ってくれ」
巫女の耳に届いた男性の声が、このコートの人間が男性であることに気づいた。
「おーい、霊夢!遊びに来たんだぜーっ!」
上空から少女の声が響き、霊夢、と呼ばれた巫女は大きくため息をついた。
「本当に貴方は暇ね」
「暇とは酷い言い草だぜ、それと今日はアリスにもついてきてもらってるんだぜ?」
地上と上空で会話とは不思議なものだ、と男は苦笑した。
「アリスは保護者かしら?」
「私は忙しいと言ったのだけどね」
箒に跨った少女ふたりが空から降りてきた。アリス、と呼ばれたのはため息をついている、短髪の少女だろう。
「巫女さん、自分は帰らせてもらうな」
男は2人が降りてくると同時に帰ることを伝え、階段を下っていった。
「ん?今のは誰だ?」
「賽銭を入れてくれた人よ。魔理沙のせいで名前聞けなかったじゃない」
こう言うと霊夢は魔理沙を睨みつけら「言っても無駄か」ともう一度ため息をついた。
***
「ふむ、あれが幽々子の言っていた博麗神社と博麗の巫女か…」
と、階段を降りながら"夕"は呟いた。そして右の手のひらを眺め、光る小さなたまを見つけた。
「これが"春"なのか…」
時は少し前に巻き戻る。
それは月明かりが庭を照らす頃。夕の一言がすべてのきっかけであった。夕と幽々子は縁側で三色団子 (妖夢お手製) を頬張っていた。
「庭の桜、春になったらずいぶん美しいんだろうな」
と。
「でも、毎年花も咲かないから満開にはならないのよねー」
「満開にはならない桜か…。これはまた随分と珍しいな」
2串目の団子に手を伸ばす。がとうに団子は幽々子の両の手に移動していた。
「んー、"春"でも集めてみるー?」
団子を頬張りながら幽々子はこう問いた。
「何を意味のわからん事を…」
と笑い、夕は幽々子の顔を眺めた。幸せそうに団子を頬張る幽々子を見ているとこっちまで団子が欲しくなってくる。
「これで春を集めるんですよ」
と追加の団子を持ってきた妖夢に小さな透明な玉を渡された。
「正確には"春度"と言いますが、これを見ていてください」
どこからか花のついた盆栽を取り出し、先程の小さな玉を近づけた。すると面白いことに先まで付いていたはずの花は活力をなくし、玉には薄光りがともったではないか。
「少しアバウトですけど、これは植物だけじゃなくて生き物やその辺に転がる石など、色々なものが持つ春度をこの玉で集める事が出来るんですよ」
「ふむ、面白いな」
玉を親指と人差し指で挟み、月明かりに照らしてみる。傍目何の変哲もないこの玉にそんな能力があるとは面白いものだ、と夕は興味津々であった。
「そうねー、博麗神社にでも行ってみたらどうかしら?あそこならいっぱい春があるかもしれないしね」
そう提案すると、幽々子は団子を口へ運んだ。
***
「全く面白い原理だな」
そう呟き、夕はふとあることに気づいた。少し下から二人組の誰かが登ってくることに。1人はメイド服を、1人はそのメイド服の少女に傘を持たせゆっくりと階段を上がる幼女。
お嬢様か何かなのだろうか、と足を止め考える。
「珍しいわね、博麗神社に参拝客なんて」
「明日は雨でも降るのでしょうかね」
「やめて!雨は降って欲しくないわ!」
微笑ましい様子のまま、彼女達は夕の隣を通り過ぎ階段を登り立ち止まった。
「いかがなさいました?」
「いや、何でもない。懐かしいような気がした。それだけよ」
と首をかしげるメイドを無視し、そのまま歩き出そうとし、立ち止まる。
「咲夜!暑い暑い、早くこっち来て!」
「お嬢様…」
和気あいあいとした空気のまま、少女達は神社へと入っていった。
「吸血鬼までいるとはずいぶん不思議な世界じゃないか」
口を歪ませ、夕は歩を進めた。
秋はそろそろ終わりを告げる。
最近妙な眠気に襲われます。
寝不足ですな




