29話
前回予告したアリスはちろっとしかででいません!!
宴会から数日後。
「……ここ、どこですかね?」
チルノやフラン達と遊んでいたはずの夕月は、何故か森の中で迷子になっていた。
どのような遊びをしていたか気になる方もいるだろう。答えは至極単純だ。極度の方向音痴が簡単に道に迷う簡単な遊び―――――"鬼ごっこ"である。
何故か弾幕が飛び舞う鬼ごっこ、そのために未だ弾幕のできない夕月は、逃げ惑うほかなかったわけで、そこに極度の方向音痴が加われば別の意味で完成である。
「せめて、魔理沙か射命丸さんでも通ってくれればなー……」
木々の隙間から覗く空を見上げる。薄紅色に染まった空が時の流れを刻一刻と告げていた……。
***
キィーッ、と扉の開く音がした。きっと夕月さんが帰って来たのだろうと思い、玄関に向かう、が玄関にいたのは夕月さんではなく、夕月さんと遊んでいたはずの少女達であった。
「し、しゃめーまる!ゆーきが消えちゃった!!」
目に涙を溜め、私の目をジッと見つめてきた。
「あややや、また迷子ですか……。しかももう日は暮れ始め――――」
ふと、夕月さんが先日言った「死ぬことを厭わない」というニュアンスの言葉が脳裏をよぎった。
「し、しかもね。ルーミアも見当たらないの」
金髪の吸血鬼がもう1人の行方不明者の名を挙げた。嫌な程に偶然が重なり、心臓の鼓動が早まるのを感じた。
「っ!いいですかフランさん!急いで紅魔館へ行って咲夜さんに助けを求めてください!私は一足先に夕月さんを探しに行きますから!!」
「っ!わかった!」
少女達が紅魔館へ飛び立った後、私は久方ぶりに"芭蕉扇"を手に持ち、空へ飛んだ。
――――――夕月さん。生きててくださいね…………っ!
***
「ヤベェ……もう9時じゃん……」
腕時計を見て、ついついため息が漏れる。
「あれ?夕月じゃないか?」
「ん?ルーミアか、お前も迷ったのか?」
「そーなのだー」
落ち込んだように肩をすくめる。ルーミアも迷子だと思うと若干気分がよくなった気がする。
「夕月って外の人間なのかー?」
「そーなのだー」
「「わはー」」
心の中でガッツポーズをとる。いろいろな二次創作で見て、夢にまで…いや、見てないな。ま、まあそこはいいとして、少し憧れていたやり取りができるとは迷子になるのも悪いことだけじゃないな、うん。
にこにこと笑う俺の顔を見て、ルーミアはなぜか涎を垂らす。
「とりあえず、もう夜だし…手、貸そうか?」
夜道を歩くのは危険だと思い、左手を差し出す。ルーミアが"闇を操る程度の能力"を持っている、という事を、そして"人食い妖怪である"という事を忘れて。
「うん、もらっていくのだー」
「もらう…?なんかおかしっ!!?」
今まで感じたことがない激痛に差し出した左腕を引っ込めようとする――――――が、そこにあったはずの左腕は肩から先が消え、左腕がついていたはずの場所からはドス黒い血が流れ、衣服を紅く染めていた。
「っ!!?ル、ルーミア…お前、一体何を…っ!!?」
激痛に耐えられず呼吸は浅くなり、酸欠から朦朧とする意識の中ルーミアを睨み付ける。
「うーん、おいしいのだー。ちょうどおなかが減っていたのだー!」
時が止まったような、時空が歪んだような気がした。闇の中をうっすらと月光が照らす。随分と美味しそうに、さっきまでこの体についていたはずの左腕を頬張っていた。恍惚とした表情に、さっきまで意気揚々としていたはずの顔を見て、胃の中のものがこみ上げてくるのを感じた。いや、それを感じるころにはとっくに胃の内容物を吐き散らしていた。口の中に胃酸の酸っぱい様な味が広がり、鼻がツンとする。
痛い、苦しい、怖い、様々な感情が、
酸素を求め続ける体が、
そして、再び俺を食らおうとするルーミアが、
俺の意識を蝕み、ルーミアが血で、俺の血で染まった真っ赤な口を開いたとき、俺の意識は闇へと溶けた…。
***
私は自身の目を疑った。
―――――、こんなはずはないと。
"そこ"には今朝夕月さんが来ていたはずの上着の切れ端と、骨をがりがりと顎で砕くルーミアが居た。
「ゆ…夕月…さん?」
「あ、射命丸なのだー。お前も夕月食べたかったか―?」
嬉しそうに"ダレカ"の血で染まった口を歪めて笑う。
信じたくなかった。これは夕月さんではないと、全く知らない誰かのだと。
今のも聞き間違いなのだと。
「美味しかったのだー、"夕月"」
そんなことを呟きながら、ルーミアは私の横を通り向けた。今度ははっきり聞こえてしまった。ふと、頬に液体が流れていることに気付く。行き場のない怒りと悲しみが止めどなく溢れ、嗚咽が森の中にただ無情に反響した。
「射命丸!夕月は!?」
ようやく、咲夜さんが来た。涙を流す私とその辺り一帯にちらがる残骸で大体察しはついただろう。
「遅いですよ…咲夜さん…」
「…嘘でしょ…?射命丸!嘘だといって!!」
私の肩をつかみ、一心不乱に揺すり続け叫ぶ。つい先ほどまでの私と同じく認めたくないのだろう。
一体何年ぶりの涙だろうか?
忘れるぐらいに久しぶりに流した涙は、体の中の水分がなくなるまで続くのではないか、という程に流れ続けた…。
***
「あら魔理沙じゃない。そんなに慌ててどうしたの?」
「ああ、アリス。こないだ話した幻想入りした人間の話、覚えてるか?」
顔面蒼白、その言葉がぴったり合う程、魔理沙の顔から生気は失せ、冷静さと呼べるものも一切なくなっていた。
"アリス"、と呼ばれた金髪の少女は、その目立つ髪を揺らし、首をかしげた。
「夕月が…夕月が死んだらしい…」
消え入りそうな声でそう言って魔理沙は帽子で顔を隠した。
ちなみに2000字こえましたww




