28話
未成年なので、お酒の味は知りません。
「あのー…咲夜さん?なんで俺はナイフを向けられているんでしょうか…?」
「それは自分で考えない?」
魔理沙に不意を突かれて意識を失うこと数十分。目が覚めたとき、両腕に睡眠中のスカーレット姉妹の重みと、眼前にナイフを突きつけ微笑む咲夜が何故かそこにいた。
「お?なんだ夕月、ハーレムか?」
「ちょっ、魔理沙!てめぇの仕業か!?」
「何のことか知らないぜ?」
と、魔理沙は杯を傾けながら言った。
***
時は神崎が意識を失って間もなくまで戻る。
「え?何だよ、もう潰れちまったのか…」
呆れた様な視線で意識の無い神崎を見つめる魔理沙。膝の上にフランを乗せた状態で倒れる間抜けな姿を見ているとこのまま笑ってしまいそうな気もする。
「あれ?夕月眠っちゃった?」
つい先ほどまで背もたれにしていた神崎の体が消え、体重の行方がなくなったフランの体は静かに神崎の腹の上へと落下する。吸血鬼姉妹がいるおかげか、もとより低めだった太陽は若干沈みかけ、夕日が空を赤く照らしている。
腹の上の感触を楽しんだあと、フランはのそのそと神崎が広げたままの腕の上へと頭を乗せ、目を閉じた。
「あややや、フランさんまで寝てしまいましたか…」
「いいんじゃない?美鈴の話だと朝早く起きていたらしいわ」
と、カメラを構える射命丸とわきm…霊夢の会話。
「吸血鬼のアイデンティティとしてはどうかと思いますけど…、ずいぶんと子供らしくていいと思いますよ?」
「まあ、そうね」
うっすらと微笑み杯を鳴らし合う。カチン、という音が静かに響――――かなかった。
「い、妹様!!?何で夕月の腕で…!!?」
「さ、咲夜!?一体どうしたのよ…。フランが夕月に腕枕されているだけじゃない」
意識の無い神崎に腕枕されている(?)フランを見つけた完全な変態は目から血涙を流し、地面に手と膝をついている。そしてそれを見ている当主はオロオロとその光景を見ているだけ。
「オゥ…ジーザスッ!!!」
「ひっ!?」
突如天を仰ぐ咲夜。例えるならば、ヒロインを寝取られた主人公が雨の中ですること、まさにそんなポーズをとっていた。
周りからの冷たい視線がレミリアに突き刺さり、レミリアは自らの頭を抱え、その場にしゃがみこんだ。
「そんなに腕枕をしてほしければ私がしたというのに…っ!!この泥棒猫がぁぁあ!!!」
浮気現場と遭遇した妻のような叫び声が博麗神社の境内に響く。それを煽っていく魔理沙に、呆れたようにため息をつく霊夢、カメラのシャッターをきる指が止まらない射命丸、楽しそうにその光景を見る八雲紫。意識があったらずいぶん楽しんでいたことだろう、と神崎はのちに語る。
***
「いや、なんでレミリアさんまで寝てるんですかね…」
「泣き叫ぶ咲夜に呆れてってところじゃないかしら?」
と霊夢は何度目かの杯を傾ける。それに同調したかのようにほかの宴会客も宴を再開し始めた。
「離しなさい美鈴!!私は、私はあの餓鬼を始末しなくてはいけない!!!」
「あー、ダメです咲夜さん。あなた酔ってらっしゃいませんかね??」
咲夜の腹部を抱え後ろへと引っ張る美鈴の姿が視界の隅に移る。
どうやら回想に入っている間に美鈴が引き離してくれていたらしい。相変わらず起き上がることができない俺は夕刻に染まる空を眺めたまま。
お酒の力って凄いな、とつくづく感じさせられる今日このごろである。普段自称完璧があそこまで乱れるのだからアルコールとはとても怖いんだろうな、と。
「夕月、お前まだアリスと会ったことはないよな」
ふと、魔理沙がこう問いかけてきた。そういえば、アリスと思しき人は今日の宴会には来ていなかった。が、突然どうしたのだろうか?
「魔理―――…沙?」
「じゃあ今度会いに行こうなー……」
頬を紅潮させた魔理沙の顔はどう見ても酔っ払いそのものであった。
絡み酒―――、そんな言葉で表すものなのだろうか。
昔聞いたことがある。酒を飲むと何故か関係のない話をしだす輩がいると…。
まさか魔理沙がその類なのだろうかと考えると顔から血の気が引いていくのを感じた。
……が、一向に次の言葉は返ってこないまま、何故か体への重みが増えた。
「よかったわね、夕月。モテモテじゃない」
笑いながら紫が近づいてくる。
扇子で口を隠しているつもりなのだろうが、肩が小刻みに揺れている。
ん?モテモテ…?
―――――まさか!!
そのまさか。
体への増えた重みは魔理沙が乗ってきていただけであり、これが神崎の酒嫌いを誘発させる原因でもあったとか…。
次にアリスを出す予定です。
が、もう一人誰か出したい…。
come on 希望!!!




