12話
前回は崩壊文を書いていたので頑張ろうと思っていた時期が私にもありました。
ふぅ…、とため息をつき、読んでいたモノに栞を挿み、空を見上げる。
少し前まで日が昇っていたはずの空はもう、闇夜に染まっていた。
今私が読んでいたものは、三代ほど前の稗田阿求が書いたとされる日記だ。
さて、もう気づいた方もいらっしゃるのではないのだろうか?
わけあって名前を明かすことはできないが、今回、神崎夕月の物語の語り部を務めるものだ。語らせてもらっている身だからこそ、彼の物語は波瀾万丈だといえる。
外の世界の住民が幻想郷に招かれ紡ぐこの話。実に感慨深いものではないだろうか?
しかし、当の本人はとある時期を境に消えてしまったらしい。風の噂では、紅の館で食されてしまったとか、隙間に攫われたとか、山の天狗の性処理道具になっているとか…。例に挙げた話は実に根の葉もない話なのだが、彼は読んで字の如く、消えてしまったのだ。まるで元からこの幻想郷にはいなかったかのように…。
ここで登場したのがこの日記の持ち主、稗田阿求だ。
彼女の能力は一度見た物を忘れない程度の能力。即ち、皆が忘れるような事象が起こっても彼女だけは忘れない…いや、忘れることができないのだ。
だからこそ、彼女はこうして日記に彼の物語を紡いだのだろう。
この日記には最後にこう書いてある。
彼、神崎夕月は最後に私と会った時にこう言いました。
「原作に手が加わってしまったら、それはもう原作とは言えない。
まったく別のモノになるのだと俺は考える。あんたはどう思う?」
こう質問してきたのです。
私は記憶と今まで培ってきた知識でこう答えました。
「事象改変をしてしまったのなら、元を断つのがよいのではないでしょうか?」
と。
この言葉に、彼は目を見開きました。
まるで、その言葉を待ち望んでいたかのように。
まるで、私に感謝をするように。
そして、若干の悲しみを灯した瞳でこう言い、笑いました。
「そうだよな…、変わったことは戻せばいいんだよな」
そう言った瞬間のことでした。
彼はその場から消えてしまいました。この場には元からいなかったのではないか?そう思うほどに跡形もなく。
さらに不思議なことは、彼の存在が皆の記憶から段々と薄れ、「ああ、そんな人もいたね」と口をそろえて言うようになってしまいました。
だから私は紡ぎます、彼の物語を。
この日記を読んでいる人に問います。
貴方は彼を、神崎夕月を知っていますか?
「ええ、知っていますとも。十分すぎるくらいに」
ふと、頬に涙が流れていることに気づく。
それほど彼との思い出が懐かしいのだろう。例え寿命と取引でもいい。
彼と会いたい。
私はそう思う。彼にはそんな魅力がある。
歴史を変えることが嫌だ、と彼は私に言ったことがある。彼はこうなることを予知していたのだろうか…?
「まぁ、いいでしょう。続きを語りましょうか…」
栞の挟んであるページを開き、私は彼との記憶に、思いを馳せることにするとしよう。
さぁ、話を再開しましょう。
リア友にアカウントがバレナイカ心配です




