盗賊
俺はサハルーンでの剣の販売はもう潮時だと思っている。サハルーンでの供給量は既に需要を上回り、あまり利益は見込めない。
また、何故か評判が良すぎて俺の意識しないところで噂が噂を呼び、あっという間に広がってしまった。
これ以上有名になると俺の行動に制限がかかってしまい、今後の計画の妨げになる。
また、変なやからに目をつけられないとも限らない。
そこで剣の販売は中止して、姿をくらます事にした。
ここで問題になってくるのは、商会の存在だった。商会にお金を預けたままだと、次にお金をおろしに来た時に足がついてしまう。
だから、商会のお金を全て下ろす必要があったのだ。
しかし、俺の今の資産はざっと金貨1万枚
そんなの持てるはずもない。
....と思っていた。
さすがの異世界クオリティ
サハルーンで開催されていた闇オークションで魔法の袋と言うアイテムを金貨100枚ほどでせり落とした。
なんでも古代魔法王朝時代のもので、古代遺跡などから希に出土するんだとか。
ちなみに古代魔法王朝はおおよそ1000年くらい前にモンスターの大氾濫によって滅びたらしい。
だが、古代魔法王朝時代の魔道具は今ある技術力の遙か先を行っていたと思われるオーバーテクノロジーの物ばかりだ。
魔法の袋もその一つである。どうやって造られているのかなどは全くわかっていない。
さて、行き先だが
まず王都に行こうと思う。
なぜなら次の計画には人手が必要だからである。
それになんと王都では美少女が闇オークションで取引されているというではないか
これは行くしかない
と、いう訳でキャラバンに参加した。
俺の位置は最後尾である。
一緒になった商人のおっさんと会話しながら移動する。
現在は王都のある王領に入ったばかりだ。
森が続き、その中を林道がはしっている。
道幅は狭く、キャラバンは縦に長く伸びてしまっている。
道は舗装されているわけがなく土が踏み固められているだけだ。
ガタガタと馬車は揺れ、かなり乗りごごちが悪い。 これなら歩いた方がましかもしれない。
「わたくし、このアキスト聖王国の王都に本店を構えるアルス商会の重役をやらせてもらっているダジルと申します
短い間ですがよろしくお願いいたします。」
ダジルは小太りのいかにも商人といった感じのおっさんだ。
「俺はレンだ。剣の販売をしている」
「剣ですか....。もしや最近噂になっている異国の剣とやらを売っているのはあなたですか」
流石に商人と言うだけあって情報に詳しいようだ。
「ああ」
「では、今回の旅の目的は王都に剣を売りに行くということですかな」
「まあ、そんなところだ。」
本当は違うのだがめんどくさいから適当に流しておこう。
「それならば是非わたくし共のアルス商会をお通しください。我が商会なら王都に広く顔が利くので個人で販売するよりもいろいろと安心ですよ」
完全に裏目に出てしまった。
全く商人というやつはすぐに商談を始めやがる
「あ〜、しばらくは販売はしないんだ
王都に販売するときは是非そちらのアルス商会を頼りにさせてもらうよ」
「そうですか。その時は是非」
にしても、どうやらこのおっさん相当儲けているようだ。
よく見るとほかの商人達もやけに羽振りが良さそうである。
....嫌な予感がする。
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道沿いの森から馬蹄の音が響いてくる。
微かに地面が振動している。音からして、一騎や二騎では無いだろう。少なくとも数十騎はいそうだ。
え?何がって?
そんなの盗賊に決まってんじゃん。
「おいてめぇら命が惜しかったら積荷全部置いて行け!」
既にキャラバンは盗賊たちに囲まれている。その数ざっと50人くらいだ。
盗賊にしてはかなりの大所帯である。
「ギャハハハハハ、殺せえええええ
皆殺しだああああ!」
最初から交渉などするつもりなどないようだ。
命が惜しかったら積荷全部置いて行け!は言った意味があったのだろうか....
多分この文句を言わないといけないという法律でもあるのだろう。
盗賊も大変だ。
商人達もただでやられるわけが無い。それぞれ雇っている冒険者なり、用心棒なりが応戦しているが旗色は悪そうだ。盗賊は馬に乗っているので、かなり有利だが雇われている冒険者もプロだ。互角に渡り合っている。
しかし盗賊の方が数が多い。1人また一人と冒険者がやられていく。
そして俺はというと魔法の袋から一丁の拳銃を取り出した。
そのシルエットはS&W M19 コンバットマグナムに似ているがよく見ると違う。
木製の部分はなく、全て鉄でできているため少し重い。
地球におけるS&W M19は357マグナム弾という威力の高い弾丸を込められるため、アメリカの警察で広く利用されており、そのために映画などでも多く登場する。また、ルパ〇三世において次元大介も利用している。
見た目はともかく中身は全くの別物だ。
地球で使われている火薬は無煙火薬だが、この銃に使われているのは黒色火薬と呼ばれるものだ。
燃焼速度が早いが爆発力は低く、現代の銃ほどの威力は出ない。
ちなみに火薬の材料である硝酸カリウムは
古い家の床下の表面の黒土を地道に集め、精錬の魔法で抽出した。
どうやら精錬の魔法は金属でなくても自分のイメージした物質が取り出せるようだ。
硫黄は採取依頼を冒険者ギルドに発注して情報を収集し、回収も依頼した。
金があれば出来ない事なんてない。
割合は次の通りだ
硝酸カリウム75%木炭10%硫黄15%
盗賊の一人が手柄を焦ったのか俺たちのいる後方の馬車に向かってくる。
俺は焦らず拳銃を構えた。
盗賊との距離が20mを切る。
既に弾丸は装填済みだ。
俺は銃という武器を知らないためか無警戒で向かってくる盗賊の頭部に狙いを定めて引き金を引き絞った。
パンッ
乾いた音とともに盗賊が前のめりに崩れ落ちる
異変を感じ取ったのかほかの盗賊たちが1人、また一人と俺たちのいる後方の馬車に近づいてくる。
その度俺は丁寧に引き金を引いていく。
気づいた時には十数人の盗賊たちの死体の山が出来上がっていた。
「うわぁぁぁ!助けてくれぇ」
逃げ出した者もいたが銃相手に背を向けるのは下作である
「グハッ」
いつの間にか残ったのは一人だけになっていた。
「一体何が....」
その言葉を最後に盗賊は全滅した。
周りは死屍累々と言った感じだった。
前方の馬車の様子を確認するとこちらも全滅だった。
もちろん商人がである。
前方が全滅したためこっちまで流れてきていたようだ。
結局一緒だったダジルと二人だけになってしまった。
ダジルは馬車の中で震えていた。
「おい、終わったぞ」
「ほ、ほんとですか!」
俺が声をかけるとそれまでの震えは何処へやら
「俺たち以外は全滅だ」
「いやぁ~危なかったですな」
お前、戦ってないだろ。調子のいいやつだ。
「それにしてもお強いんですな」
「まあな」
「それにしても盗賊にしてはやけに規模が大きかったと思うんだがこの辺の盗賊はこんなもんなのか?」
「いえいえ、この規模の盗賊がしょっちゅう出てたら商売上がったりですよ。それどころか命がいくつあっても足りません。
おそらく少し前のクルト王国との戦争の敗残兵でしょうな。馬も持っておりましたし」
「そうか。とりあえず金目のもんだけ持って王都に向かうか」
「そうですな。あと、王都に着いた暁には是非我が商会をお尋ねください。ささやかながらお礼を致します」
「分かった。暇ができたら伺わせてもらおう」
俺たちは金目のものを回収するとその場を後にした。
そんなこんなで王都にたどり着いたのはサハルーンを出てから通算10日目のことであった。