鍛冶魔法
ドンドンドン
扉を叩く音がする。昨日の細いおっさんの声がした。
「お客さ〜ん 朝ですよ。朝食済ませてないのはお客さんだけなんで早く食べて欲しいんですが....」
はぁ?今何時だと思ってんの
この世界の住人はとても早寝早起きらしい。
ちなみに今は午前10時頃だ。
「今行く」
そう言って急いで着替えると(昨日の服を着ただけ)扉をあけて出ていき、食堂に向かう。食堂では既に料理ができていた。まあ、料理と言ってもパン一個とスープのみだ。現代日本人だった俺からしてみれば驚くほど質素だ。
もっと美味いもん食わせろよ
昨日、露店で商売をしてみて分かったが
「全く儲からん!」
ほかの街に行くには大体3~4日はかかる。しかし昨日販売した結果稼いだお金が1200ルピだ一方、宿屋に一泊すると300ルピもかかる。これでは全く利益が出ないのだ。
....という訳で冒険者になることにした。異世界転生ものの主人公は大抵チートを持っているはずだ。なんとかなる。
今は冒険者ギルドに向かっている最中である。しばらく歩いていると周りの建物が土や、木でできているのに対して石を積み上げて作ったかのような、重厚な建物が姿を現した。ギルドの中は綺麗に整頓されていて、雑然とした感じはない。依頼が貼られていると思しき大きな掲示板といくつかの部署に分かれた受付カウンター。2階へと続く階段と、ちょっとした休憩スペースまである。冒険者というのは荒くれ者というイメージが存在するものだが、とてもそういった人達が集う場所とは思えない。起きた時間が遅かったためか人も少なかったので待つ必要はなかった。
「冒険者登録がしたい」
「そこに座れ」
俺が声をかけたのは頭がツルピカで頬に傷のある厳つい顔をした、いかにも冒険者と言った感じの人だ。
というか受付に美少女がいない
受付のおねーさんは冒険者のオアシスだろうが
こんな所で冒険者なんてやってらんない
「新規冒険者登録だな、1000ルピだが払えるか?」
昨日の利益をほぼ使い切ってしまうじゃないか。高すぎ…いや、利益が低すぎるのか。
「ああ」
そう言って俺は1000ルピを差し出した。
俺の血と涙の結晶が〜(1日分)
「じゃあこれがお前の冒険者カードだから血を一滴この真ん中の部分に垂らすと登録完了だ」
指の皮を少し噛みちぎり、血を一滴ギルドカードにつけるとギルドカードが一瞬だけ淡く光り、すぐに元に戻った。
受付のおっさんはそのギルドカードをしげしげとながめると、こう言い出した。
「お前には冒険者は向いてねえ。鍛冶屋でも開くんだな」
そう言ってカードを投げ渡してきた。
カードを確認すると次のように書かれていた。
==============================
名前:レン
年齢:16
スキル:鍛冶魔法
賞罰:なし
==============================
この世界での俺の名はレンというのか。普通だな。
今更ながら自分の名前すら知らなかっのだ。
問題はそこではない。鍛冶魔法....だけ?
戦闘で全く役に立たない。これでは俺TUEEEEして美少女を救うなんてできないじゃない。しばらく固まってしまった。
「すいません、この鍛冶魔法というのは何ですか?」
「しらん、自分で調べろ」
と言って*魔法の書*と書かれた本を渡してきた。
調べてみるとどうやら鍛冶魔法というのは出来る事は普通の鍛冶と変わらないらしい。ただしそれを行うにあたって、特殊な道具を必要としないようだ。つまり、
鉄を融かして柔らかくする場合、炉の代わりに魔力を使うということである。
形を整える場合、叩いて伸ばすのではなく、魔力で伸ばすということである。
精錬する場合、炉を使って一度融解させてから取り出すのではなく魔力を使うということである。
さらに呪文さえ覚えればすぐにでも使えるという。
まさに鍛治屋の天敵のような存在だ。
呪文を書き写し本を返す。
不思議とこの世界の文字は読める。
流石に元商人というだけはあるだろう
俺にできることか鍛冶魔法しかないのなら鍛冶魔法を極めるしかない。
俺TUEEEEができないのだから、地道にのし上がっていくしかないのだ。
これからしばらくは簡単な依頼をこなしながらこの鍛冶魔法を極めよう。そう思い立って冒険者ギルドを後にした。
とりあえず何かに試してみないとな....
まずは鉄鉱石を買うことにした。
鉄鉱石を求めて中央通りを歩いていた。
中央通りは両脇に店舗型の店が立ち並び、商人たちが呼び込みを行っている。だがなかなか鉱石を売ってるいるお店は見つからない。
このあたりの地理に全く詳しくないのだ。足で探すしかない。
個一時間ほどさ迷っていた。
すると石がたくさん積んであるお店を発見した。
「すみませーん」
一応声をかけてみるものの誰もいない。
これはアレだろうかセルフサービスでお願いしますって事だろうか。
そう思い鉄鉱石と書いてある石を手に取りお金を置いておいた。バレーボール大の石を1つ買い、100ルピだった。
早速宿屋に帰って鍛冶魔法を試してみることにする。
まずは先ほど買ってきた石の一つを持って呪文を唱える
「我、魔力を糧としこれを精錬せん」
するとどうだろう一瞬輝いたかと思うとすぐに鉄鉱石がバラバラと砕けだし、中から純粋な鉄が姿を表した....
正直ホントに魔法が発動するのか心配だったから発動してホッとしている。
バレーボール大の大きさの鉄鉱石から取り出した純粋な鉄は、林檎サイズだった。
気を取直して次は整形の魔法を唱えてみる。
「我、魔力を糧とし形状を変化させん」
すると林檎サイズの鉄の表面が輝き波打ち出す。もしかして失敗かなと思いつつも、頭の中で鉄が細く伸びるようなイメージをすると、ホントに細く伸びた。どうやら成功らしい。
俺はその後数時間ほど鉄の塊をいじって遊んだ。
どうやら魔法の精度はイメージ力に関係しているらしく、頭の中で詳細に設計すればするほど精巧なものが出来上がる。
これは俺の得意分野だ。
さらに頭の中では寸法まで指定することができるようで、寸法を指定すると指定した寸法と寸分たがわない物が出来上がる。
試しにハンドガンを作ろうと思った。やはり身を守るものは必要だろう。
ハンドガン特にリボルバーは銃本体の構造はとてもシンプルだ。
ハンマーを下げるのと同時に回転子の反対側の突起がシリンダーを持ち上げ回転させる。さらにトリガーもバックさせる。ハンマーが下がりきったら引っかかる構造にして、トリガーを引くと引っかかっていたハンマーがバネの力により勢い良く戻り雷管を叩く....
意外と難しいが、できないことはない。
とりあえずの課題はどうやって火薬を手に入れるかだ。
その方法を考えながら眠りについた。