うまい話
俺は現在モンターンにある冒険者ギルドに向かっている最中である。どうせこれからベイズの街に行くのだからついでに何か配達の依頼があれば受けておこうと思ったのだ。ちょっとしたお小遣い程度にはなる。
アメリアとエリザは服を買いに行っている。
何かあってもアメリアがついていれば大丈夫だろう。あれでも一応元騎士なのだから。
冒険者ギルドの扉を開けるとそこは独特の雰囲気に包まれていた。荒事を専門に扱うものたちが集っているためか複数の刺すような視線に射抜かれる。しかしすぐに俺に興味を失ったのかそれぞれの会話に戻っていく。
ところどころで言い争いも起きている。まさに弱きものを弾き出し、力あるものだけが生き残る弱肉強食の世界がここには広がっているように思える。
サハルーンの冒険者ギルドはこんなに活気はなかった。きっと今のサハルーンのギスギスした感じが冒険者の性分に合わなかったのだろう。
俺は掲示板の前までいき、目的の依頼を探す。掲示板にはランクごとに分けて依頼書が貼ってあり新人の俺が受けられるのは一番左端に貼ってある最低ランクのものばかりだ。
俺はその中から目的の依頼書を探し出し手に取ろうとして後ろから声がした
「あーーー!それぇ俺たちが受けようと思った依頼なんだよなー ねぇ兄貴」
「おいそこのガキ、このバジル様が先にめーつけてたんだ。横取りする気じゃないよな」
「兄貴ぃ、それいつからめーつけてたんですか」
「そんなの今に決まってんだろ。「ギャハハハハハハハハ」」
後ろが騒がしい。バジル様ってなんだよ、自分で様付なんてして恥ずかしくないんだろうか
「チッ 無視してんじゃねぇ!!」
まあ、絡まれているやつはドンマイとしか言いようがない。
俺は目的の依頼書をとり受付に持っていこうとして振り返ると、額に傷のあるスキンヘッドの大男と対照的に比較的小柄な男と目があった。
二人とも俺を凄まじく睨んでいた。
ガキって俺の事かーーーー!
自分の姿が幼いということをすっかり忘れていた。完全に俺じゃないと思ってた。
目の前のスキンヘッドの男は今にも爆発しそうだ。
正直めんどくせーー。これってあれだろ?テンプレってやつだろ?
人気のないところならさくっと殺ってしまうのだがここはあいにく街のど真ん中である。しかも荒くれ物たちの集う冒険者ギルドの中だ。
冒険者ギルドは基本的に個人的ないざこざには関与しないことになっているから助けてはくれないだろう。
周囲からは「バジルのやつまたやってやがるぜ」「かわいそーに」「また新人いびりかよ」といった声が聞こえてくる。こちらもあまり助けてはくれなさそうだ。
ここは下手に出ておくのが得策だろう
「あの何か御用でしょうか?」
「お前!さっきから兄貴が声かけてんのに無視して失礼だろ!」
えーーーーー
あれで声かけられてたのか、ビックリだ。
「すいません聞こえなかったもので」
「あぁん?俺の声が小さかったってのか!?」
こいつうぜー
正直こっちもイライラしてきてスキンヘッドのど真ん中に弾丸ぶち込みたい衝動に駆られるがこんな所で殺人沙汰なんて起こしたらすぐに捕まってしまう。その前に周りの冒険者に袋叩きにされるかもしれない
仕方ない…
「いえ、決してそのような事は…
まさかバジルさんみたいな強い御方が俺なんか雑魚に声をかけるなんて思わなかったもので」
「ほう?なかなかわきまえてんじゃねえか」
「はい、それはもう。バジルさんの勇猛果敢なお噂はかねがね聞いていますから」
褒めちぎっておいた。こいつ典型的な頭が弱い子だ
これで満足して開放してくれるといいが
「そうかそうか。ギャハハハハ」
「兄貴ぃ、ちょっと」
「ん、なんだ」
「(こそこそこそ)」
「そりゃあいい
おいそこのガキ、なかなか見所のあるお前には今から俺様が特別にレッスンをしてやる。
まさか予定があるなんて言わないよな?」
猿野郎てめぇーーー
余計なことしやがって!!
「はいもちろんです(苦笑い)」
俺は冒険者ギルドを出て人気の少ない路地裏に連れていかれた。
「よし、この辺でいいだろ
おいガキ、ギルドカード見せろ」
「はい」
「レンか。しけた名前だな
これからお前は特別に俺の傘下に入れてやる。その証としてこのギルドカードは預かっておくぞ」
ギルドカードは再発行するのに金貨一枚が必要だったはずだ。もちろんそんな大金新人が持っているはずがない。そのカードがなければ普通の新人は食いっぱぐれてしまう事になる。なかなかいい人質だ。普通ならだけど。
「兄貴の傘下に入れるなんて光栄な事だと思えよ」
「はい」
「早速今日の午後から狩りのレッスンしてやる」
「兄貴ぃ、それ荷物持ちの間違いじゃないすか」
「そうとも言う」
「「ギャハハハハ」」
「絶対遅れんじゃないぞ。正午に東門前だ」
ふっ 誰が行くかよ。
ギルドカード盗って人質にしたつもりかもしれないがこちとら普通の新人じゃないんでね。さっさとこの街とはオサラバさせてもらいますよ
「しっかり働いたら俺たちのお下がりやらせてやるかもしれないから頑張れよ」
「楽しみですねぇ兄貴。今度のは美人ぞろいって話ですぜ」
なに?
今聞き捨てならない言葉が聞こえたような気がするが、こいつらは一体何の事を言っているんだ。
確かさっきは狩りと言っていなかったか?
「えぇっと何を狩りに行くのでしょうか?」
「ああん?そんな事も分からねぇのか」
「兄貴ぃこの情報はまだ表には出回ってないもんすから新人が知ってるわけ無いっすよ」
「そうだったな
いいかよーく聞けよ。
俺たちは女を狩りに行くんだよ」
「兄貴ぃ、その説明じゃあ俺たち悪者みたいじゃないすか
じつは、最近の魔女狩りとやらで都市を逃げ出した女共が盗賊になったらしいんす。
なんでも人は殺さず商品だけを奪って行くそうで最近商人たちの間で噂になり始めているっす
そこで俺たちの出番って訳っす
捕まえた女共はみんな犯したあと奴隷商に売っぱらうんす。
俺たちは楽しめてお金も入る。そして商人も喜ぶ。一石三兆の上手い話ってわけっす。
理解したっすか?」
なん…だと
女盗賊団!
しかも魔女狩りに狙われるような女ばかりの
意図せぬところでこんな上手い話が転がっていようとは
くくく、クハハハハハハハ
なんて運の良さだ。これはきっとこいつらのめんどくせー会話に付き合っていたご褒美だろう。
なんとしてもこいつらに案内してもらわなければならないな
「それはいい話ですね」
「こんなうまい話、兄貴の傘下にいなきゃ聞けないっすよ」
「そうだろうそうだろう
ま、おめぇは荷物持ちだがな」
「「ギャハハハハ」」
クハハハハハハハ
お前らには一人たりとも渡さねーよ
「じゃあ時間に遅れるんじゃないぞ」
そう言うとスキンヘッドたちは去っていった。
なんか面白いことになってきた。
とりあえずアメリアたちと合流しないとな。
ブクマ登録よろしくお願いしますm(__)m




