異世界
ヒロインは10話くらいで登場予定です。
俺はあまりの光景に持っていた荷物を地面に落とした。
北区の教会にほど近い広場には、多くの人だかりがあった。
人垣の中心部には、処刑台と思わしきモノがあり、垂れたロープに数刻前までは生きていたであろう人間の遺体が何体も吊るされていた。
中には耳の長い少女の遺体もある。
元は金髪の美少女であっただろう、その表情は苦しみに歪んでいる。
体には布切れ一枚しか纏っていない。
布切れが風に煽られはためく度に、少女の体につけられた悲痛な拷問のあとが見える。
処刑台の上では神官らしき格好をした男が声を張り上げている。
「こ奴らは我ら神聖教会の教えに背き魔女と認められたため....」
俺はとんでもないところに転生してしまったようだ。
事の起こりは三日前。
俺は大手重工業株式会社で、設計担当部長をしていた。忙しい時には仕事が深夜まで続き、心身共に疲弊していたが世界でもトップクラスの仕事を担っているという自負が俺を動かしていた。
....がそれが祟ったのだろう。意識が眠気で朦朧としている中、帰り道で、エロ本を見つけた。
普段なら無視するところだがその時に限って好奇心で拾いに逝ってしまった。それからのことはあまり覚えていないが、確か横から飛び出してきたトラックに跳ねられた。そこで前世の記憶は終わっている。
意識を取り戻したとき目の前には中世の町並みが広がっていた。
道は広く、しかし舗装はされていない。土が人の足で踏み固められたような感じだ。
周りを見回すと一階建てもしくは二階建ての建物が並んでいる。主に土と木でできていると思われる。
しかし街は閑散として、人通りは不自然なほど少ない。そこで俺は露店を開いていた。
露店と言っても道の脇に商品を並べているだけである。フリーマーケットのようなものだ。だがこの世界ではこれが普通らしく、周りにも同じように道の脇に商品を並べている人が多数見受けられる。
どうやら今世の俺は商人のようだ。
死後、魂だけが異世界の人間に乗り移ったのだろう。ここが地球でないことはすぐにでもわかった。なぜなら大通りで恐竜みたいな生物が荷馬車を引いていたからだ。
地球にそのような生物は存在していなかったはずだ。少なくとも現代日本においては…
「フフフ、アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \」
異世界転生だと、サイコーじゃないか法律に雁字搦めに縛られた現代日本とはおさらばだ。
めんどくさい仕事ともおさらばだ。
そして異世界転生と言えばやっぱりエロフだ!獣耳だ!
いや、まだいると決まったわけではないが…
法律に縛られ押さえ付けられていた俺の欲望が開放してしまう!
鎮まれ俺のエロス。
そんな事を考えていると客と思わしきヒゲのこいオッサンが訪れた。
チッ 美少女じゃないのかよ
突然異世界に転生してしまったようでかなり混乱していたが、勤めて顔に出ないようにする。
「ふぃらっはしゃいふぁせ」
いらっしゃいませと言おうとして噛んだ。
というか噛んだというレベルではない。
この国の言語は体が覚えているようでしゃべれるのだが前世と口の形が違うせいで変な発音になっってしまった。
気を取直して、
「いらっしゃいませ」
学生時代、マックのバイトで培った営業スマイルを意識しつつ声をかける。
因みにこのバイト、忙しすぎてバイトの女の子と喋る余裕がなかったから一週間で辞めた。
「兄ちゃん、これはいくらだ?」
ひげ男がしゃがいもみたいな物を指さしながら言う。
はぁ?そんなん分かるわけねーじゃん。
だっていま転生したばっかだよ?
と思ったがよく見ると商品の前に値札が付いていた。
「え〜と....一個10ルピ?」
値札の数字を見ながら答えた。疑問系になってしまったのは仕方がないことなのだ。
「おいおいそれりゃあいくらなんでも高すぎるぜ。兄ちゃん、頼むっ半額にしてくれ!」
なんだ、こいつ貧乏かよ。
「ええっと....」
ヒゲ男の姿を見るととてもひどい格好だ、日本のホームレスでももう少しいい格好をしているだろう。
こんな奴に売りたくねー
交渉するのもめんどくさい。早くどっか行ってくれないかな…
すると唐突に自分の格好が気になった。見てみると目の前の男とそう変わらない格好をしている。
まじかよ。最悪だ。この世界の俺、ちょービンボーじゃん!
まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい
こんなんじゃ女の子にモテねーぞ!
「おら、5ルピしかねんだ、頼むよ。これが全財産なんだよ」
まだいるのかよ。お前もういいよ、帰れよ
それにしても芋の半額が全財産って....
嘘臭いとは思ったが今回に限って言えばちょうどよかった。
「いいですよ、ただし条件があります。俺の質問に答えてくれるなら半額で売りましょう」
この状況を脱するにはまず、現状を把握する必要がある。
「まじか!ありがとうよ。なんでも聞いてくれ!」
「じゃあこの街の名前から」
ヒゲ男は訝しみながらも全て答えてくれた。30分ほどヒゲ男を拘束した後ジャガイモをおまけで3つほど付けて5ルピで売ってやった。
「兄ちゃんありがとうよ!これであと1週間生き残れるべ」
という悲しい言葉を残して去っていった。死ぬなよ。
男によるとここは、アキスト聖王国の南部、隣国ナヒム帝国と国境を接する海に面した土地を領有するネリアス伯爵領第1の都市サハルーンというところらしい。
水産資源に恵まれてはいるものの、一部では土地が乾燥し、砂漠化が進んでいる。
貨幣の価値は
1ルピ 石貨1枚 ≒10円
10ルピ 鉄貨1枚 ≒100円
100ルピ 銅貨1枚 ≒1000円
1000ルピ 銀貨1枚 ≒10000円
10000ルピ金貨1枚 ≒100000円
だと思われる。
人口は三万人程だそうだ。
また、この世界には獣耳っ娘(獣人)、エロフ(エルフ)、ドワーフなども存在しているようだ、
Yes!
しかし森の奥地に引きこもっているらしく街ではほとんど見ないらしい。また、この世界には異世界お決まりの冒険者なるものが存在するらしい。
ちなみに今の俺の持ち物は、芋一かご、人参に似た何か一かご、麦に似た何か一かご、マンゴーに似た何か一かご、紙、ペン、インク、荷馬車1つだ。
日が暮れる頃には商品も残り少なくなっていた。ここまでに稼いだお金は合計で1200ルピ、腰についていた革袋の中身と合計すると大体3000ルピだ。俺はそそくさと屋台を片付けると宿を探して歩き始めた。
それにしても....
「女の子がいない!」
そう、今俺は深刻な問題に直面している。
いくら人通りが少ないからといって、転生を果たした昼頃から今の今まで女の子を見ていないのだ。無論、女性がいないというわけではない。おばさんは見かけるし、おばあさんも見かける。若い子を見つけてもみな一様に薄汚れておりまた、着飾っている子もいない。
そう、可愛い子がいないのだ!
獣耳やっっふぇぇい♪エロフひゃっっほーい♪異世界転生さいこーと思っていた俺の期待を返して欲しい。
この世界の住人にとってはどうかは知らないが、俺にとっては死活問題だ。
とても深刻だ
どうしようかと考えていると*熊の子亭*
という看板が目に入る。とりあえずここでいいかと思いながら宿に入る。
「いらっしゃい、泊まりかい?」
すると店の名前からは信じられないようなほっそりとしたオヤジが出迎えた。
「ああ、一晩頼みたいんだがいくらだ?」
「ああ、店の名前に合ってないって思ってんだろ、この店の名前の由来は俺のかみさんだ」
俺が訝しんだ目で見ているのが分かったのだろう。特にこちらから聞いたわけでもないのに教えてくれた。
....どんなかみさんだよ!
と思ったが口には出さない。
「一晩300ルピだ」
まあそんなもんか。大体の貨幣価値は一ルピ10円くらいだ。俺は革袋から銅貨を3枚取り出しながら答えた
「じゃあ一晩頼む」
「まいど 食事は入り口横の食堂で取ってくれ。夕食は夕方から、日没三十分後がラストオーダーだ。朝食は日の出の一時間後からだな。遅れたら食べられない。遅れないようにな。食堂の明かりは日没後二時間しかつけない」
「わかった」
「じゃあ、あんたの部屋は7号室だ。そこの階段を上がってすぐの部屋だよ。7号室っていうプレートがかかっているからすぐわかるはずさ」
俺はお礼をいって部屋に向かおうと思ったが、ここまで気になっていることを尋ねてみることにした。
「ありがと。ところでこの街では若い女の子を見かけないんだがなんでなんだ?」
すると店主は急に態度を変え、どこか怯えたような表情を浮かべながら小さい声で
「あんた、この国の人間じゃないね。どこから来たかなんて聞かないし興味ないけどこの話はしない方がいい。どうしても知りたかったら明後日この街の広場に行ってみればわかる。」
いかにも何かありそうだ。詳しく調査しなければならない!
「ああ、わかった。」
鍵を受け取り自分の部屋へと向かった。このまま商人を続けていてもほとんど儲けがないことは髭男との会話で判明している。明日は冒険者ギルドにでも行ってみるかな、と思い夕飯を食べた後寝た。