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ゴブリン

王都を出立してからというもの街道沿いに淡々と馬を走らせてきた。今日一日でだいたい50キロくらいは進んだだろうか。アメリアによると騎士団の捜索隊はひとまず振り切っただろうということだ。それもそのはず、

俺たちは荷物がないのだ。騎士団は必ず多かれ少なかれ重量のある鎧を纏っており、総重量はかなりのものになる。必然的に行軍の速度は低下する。また、距離的にも一日で進める距離を越えているため、大丈夫だろうという判断だ。

一日でいけない距離を探索しようとする場合、野営の準備や食料なども持ち運ぶ必要が出てくるため、さらに速度が低下するのだ。

現在は野営の準備中である。野営に必要な道具一式は昨日のうちに俺が買って魔法の袋につめておいた。それを順に取り出していく。


「エリザ、小枝を集めてきてくれ」


「わかったわ」


俺とアメリアでテントを張っている間にエリザが小枝を集めてくる。俺が火をつけるために火石を取り出すとアメリアが手で制した


「私に任せてもらおう

ファイアーボール!」


アメリアが魔法名を口にするとアメリアの手の前に炎の玉が出来あがった。それをゆっくり枝の中に落とす。しばらくして炎は枝に移り、ぱちぱちと音を立てて燃え始めた。


「アメリアは魔法が使えたのか」


「ああ、一応元聖騎士だからな」


「聖騎士はみな魔法が使えるのか?」


「第二階位以上の魔法が使えることが聖騎士になるための最低条件だからな」


どうやら俺は聖騎士の実力を見誤っていたようだ。まさか全員が魔法のエキスパートだとは。

魔法についてはこの世界に転移してからいろいろと調べてきた。もちろん自分が使える魔法以外についてもだ。それによるとこの世界の人間は大体二人に一人くらいは魔法の素質があるらしい。だがそれはあくまでも素質の問題だ。

実際に実用的なレベルで魔法を行使できるのは全体の一割、10人に1人くらいしかいない。

攻撃魔法はその威力によって階位わけされており、弱いほうから順に第一階位魔法、第二階位魔法、第三階位魔法、第四階位魔法、一番上が第五階位魔法となっている。

第一階位魔法は先ほどアメリアが使ったような魔法のことで、アメリアは詠唱を省略していたが、その詠唱方法は広く一般的に広まっており魔法が使えるものならば大体使える。

魔法の威力は階位が上がるごとに強くなり、第五階位魔法ともなれば辺り一帯を火の海に変えその大地を焼き尽くし後には灰しか残さないらしい。

ただ第五階位魔法を使えるものなどこの国にはいないらしい。それどころか世界中探しても数人しかいないという。



俺は鍋を火にかけ、スープを作りながら白パンと干し肉を取り出しひとつずつアメリアとエリザに渡す。


「ありがとう。それにしても久々の飯だ、腹がなる」


「牢屋では飯が出なかったのか?」


「いや、出るには出るのだがとても食えたもんではなかったから一度も手をつけなかった。

あれは本当に同じ人間が食うものなのかと目を疑ったよ」


「どんな...とは聞いてはいけないんだろうな」


「ふふ、とくに飯時にはな。聞くと飯がまずくなるぞ

      ・・

それにしても意外といい飯を出してくれるんだな。白パンとは

奴隷というのはもっと質素なものだと思っていたのだが」

                            ・・

「確かにこのパンやわらかくておいしいわね、あんたにしては意外だわ」


「お前ら、よほど飯が食いたくないらしいな」


「「冗談だ(よ)」」


別に女の子たちの好感度を上げるためにわざわざ値の張る白パンを購入してきたわけではない。この国で一般的に食べられている黒パン(見た目が黒いので勝手に呼んでいる)はとんでもなく硬いのだ。

現代日本から来た俺にはちょっときつい。フランスパンでも固いと思っていたが黒パンはそれ以上だ。歯が折れてしまうよ。



ガサッ


「誰!?」


森の奥で何かが動く音がした。森の中を覗き込むと子供大の大きさの影が三つ見える。


「ゴブリンだな」


アメリアは冷静に状況を分析すると、入っていた力を抜く。


「なんだゴブリンか

ってゴブリン!?」


ゴブリンは皆さんが想像しているとおりのアレだ。醜悪な顔、緑色の肌、人間の子供くらいのサイズ。

行きにもゴブリンとは遭遇しているが、いかんせんキャラバンの最後尾であったため先頭の冒険者によって始末され、生きているのを見たのは今回が初めてなのだ。


「何を驚いているんだ」


アメリアが聞いてくるが正直に答えれば怪しまれてしまうことは確実だろう。この世界の住人にとってゴブリンなど日常風景のひとつなのだから、見たことない人間などいないだろう。ましてや俺は冒険者である。


「いやなんでもない

ちょうどいい機会だ、アメリアは手出し無用で頼む。

エリザ、これを使ってみろ」


そう言って俺はエリザに拳銃量産型二号を渡す。ちなみにプロトタイプと量産型一号は俺が使っている。

奴隷の首輪には主人には攻撃できないという制約があるため、武器を持たせても問題はない。


「なによこれ、魔法の杖?

私魔法は使えないわよ」


「大丈夫だ、魔力は消費しない。魔道具みたいなもんだ」


「そう。で、どうやって使えばいいのよ」


俺はエリザの後ろに回り、エリザの上から手を回す。


「こうやって握って、まずこのハンマーを下げる」


「こうね」


カチッと言ってハンマーが下側に固定される


「後はゴブリンに狙いを定めて引き金を引くだけだ」


俺はエリザの上から指をのせて一緒に引き金を引く。


パンッ


「きゃっ」


乾いた音と共に弾丸が発射され目標に誤ることなく到達する。そしてゴブリンの内臓を貫通しそれを死に至らしめた。


「びっくりしたじゃない!

こんなに衝撃があるなんて聞いてないわよ」



「ハッハッハ、そりゃ言ってないからな」


「ふむ、興味深い魔道具だな」


アメリアは拳銃に興味を持ったようだ。今度暇なときに作ってやるか



残りの二匹も続けて始末し周囲に動く影はなくなった。



こうして人生初遭遇のゴブリンはエリザの射撃の練習台となったのだった。


俺たちは食事を終えると見張りの準備を始めた。ここで問題になるのは見張り番だ。だがどうせ誰もやりたがらないだろうからローテーションにしてしまおう。順番は適当に決めればいい


「見張りは二時間交代でする

まずはエリザからだ」


「ちょっと女の子に一人で見張らせる気なの」


「三人しかいないんだから仕方ないだろ。

お前が一人でやらないと俺たちの睡眠時間は3時間になるぞ」


「仕方ないわね、分かったわよ」


エリザが文句を言うが黙らせる。それにしても薄情な奴隷だ。

御主人様の分まで私が代わりにやりますくらいの奴隷魂はないのだろうか。

まあ、最悪拳銃も持たせてあるし問題はないだろう。拳銃の危険性は食事中に十分に説明しておいた。


「少しでも気になったり、音がしたら俺たちを起こせ

アメリアは俺のあとだ。それでいいか?」


「ああ、問題ない」


「じゃあそれでいこう。おやすみ」


「「おやすみ(なさい)」」


俺とアメリアは横になった。


横になってすぐアメリアの寝息が聞こえてくる。よっぽど疲れていたのだろう。それもそのはずだ、今日まで汚い牢屋に閉じ込められ、処刑の恐怖に耐えてきたのだ。そして今日の逃亡劇。疲れない筈がない。


仕方ない。今日の見張りは俺がやっといてやるか。

そう思い俺も瞼を閉じた。



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