33:けじめと新たな仲間達
狐火が燃え盛り、大量の骨だけが散らばる場を後にして、僕らは里があった場所へと向かっていた。
嫌な予感が緊張を生み、乾いた唇を舐めながら先を進んでいく。
ガルニアもまた、腰に下げていた剣を既に抜いている。背後から放たれる強者の気配は、まるで辺り一帯を威嚇しているかのようにも思えた。
「……ついた」
小さく潜めた声で、呟く。
森を抜けたその先は、紛れもなく、僕が皆と暮らしていた場所だ。
小さな家はほぼ倒壊してしまっている。無事なように見える家も、主を失い手入れもされていないせいで、ひどく脆く、弱々しく見えた。
本当ならここで懐かしさなり、寂しさなり感じてもいいような場面なのだろうが――どうやら、そんな状況でも無さそうだ。
「妙だな」
ガルニアの声が、やけにはっきりと僕の耳へと届く。
それに振り返ると、彼は厳しい目付きで里を見渡しており、左手の剣を握ったままに言った。
「リオ。見て回るのならば、油断はしないように。何が居るのかはわからないが……間違いなく、何かがある」
「…………」
コクりと頷き、前を向いて歩き出す。
ガルニアほど明確に何かの存在を感じている訳ではない。
しかし、先程から脳裏に浮かんでは消えていく魔人の姿が、否応なしに警戒心を煽っていた。
元より性格的に、楽観的に考えるのが難しいのもあるけれど。
この場においては警戒しすぎなくらいでちょうど良いのかもしれない。
「……あれは」
そしてその警戒していた存在は、あっさりと確認出来た。
小高い丘に登れば一望出来るような、小さな里だ。何か異質なものがあれば、目立つのは当然だった。
ガルニアも確認したのか、剣を構えて僕の前へと進み出る。
「警戒を」
ちらりとこちらを一瞥した彼に頷くと、ゆっくりとその存在に近寄っていく。
遠目から確認出来たのは、黒く半透明な、人形の何か。女性のような体つきをしているが、どこかで見たことのあるようなシルエットに目を潜め――
「――っ!?」
その顔らしき部分が、口元が半月型に歪んだその瞬間に、ゾワリと全身の毛が逆立つような感覚に襲われる。
次の瞬間には、高速でその身体から射出された何かが、僕の頬を掠めていた。
「あっぶな……!」
「リオ、平気か!? すまない、ひとつ通してしまった」
「だ、大丈夫。なんとか避けた」
刹那のことに頭が追い付かず、崩れた体勢を整える。
ガルニアの足元にいくつかの穴が開き、煙を上げているところを見ると、放たれた何かは一発ではなかったらしい。
「スライムの亜種か。それにしてはいささか異質だな」
ガルニアの言葉に、僕はその身体越しにその存在を注視する。
もう思い出した。あのシルエットは、間違いなくあの魔人の姿そのものだ。
名称 血晶体
レベル 24
スキル 『吸収』
筋力* 体力* 俊敏* 魔力** 精神**
「血晶体……胸の位置にあるあれかな」
半透明の身体の中、不気味に胎動する赤色の石のような物体。まず間違いなく、あれが血晶体であり、あの身体の核だろう。
「血晶体だと? 何故そんなものが」
再度射出されたもの――どうやら、硬質化した半透明の物体のようだ――を、今度は全てその剣で弾いたガルニアが言う。
ガルニアはあの戦いには参加していない。
ある程度の話こそわかるだろうが、魔人の姿や存在までは細かく知らないことを思い出して、僕は簡潔にそれらのことを説明していく。
襲ってきた人間の中にある少女が居たこと。
彼女が赤い宝石のようなものを呑み込み、魔人となってしまったこと。
そして、目の前にいる存在の形が、その魔人そっくりであること。
それらを聞き、ガルニアは血晶体の攻撃を防ぎながら、舌打ちをひとつ打った。
「ターニャか……ただの戦死ではないとは思っていたが」
それ以上は何も言わずに、ガルニアは一歩ずつ前に進んでいく。
それに対して攻撃が激しくなり始め、ガルニアも全ての攻撃を叩き落とすことが出来なくなってきていた。
幸い、射出攻撃自体はしっかりと地に脚がついていれば回避は可能だ。
鍛えられた動体視力に足さばき、シンクロでブーストされたステータスがあれば、護身に関してはそれなりに自信がある。
問題は、どう攻撃に移るか、だが。
ナイトとクグリは既に僕のそばから離れ、各自避けたり狐火の目眩ましをしてみたりと対処は出来ている。
しかし、敵もまた的が増えたのもお構い無しのようで、射出範囲を広げることで近寄ることを防いでいるかのようだった。
このままガルニアが一撃を放つまで堪え忍ぶか、それとも。
『リオを、あんな風にしたやつとおんなじ姿』
と、そこで不意に、頭に響くサピィの声。
見れば、彼女の顔は、いつか見たような冷酷なそれへと変貌していた。
僕の肩から飛び立っていたサピィは、普段からは考えられない程に冷たい気配を放っており、その小さな身体に秘める魔力は風となって吹き荒れている。
サピィの身体に近くなるほどに強く、濃密になっているかのような風。
彼女に当たるかと思われた一撃は、直前で軌道を変えて明後日の方向へと飛んでいく。
それすらも意に介さないサピィは、両腕を大きく左右に広げた。圧縮に圧縮を重ねたかのような、小さく、しかし恐ろしい密度の竜巻が、両手にひとつずつ浮かぶ。
『――――』
小さく呟かれた言葉は、聞いたこともない言語だった。
聞き取れないそれが紡ぎ終わると共に、その竜巻が同時に血晶体に向けて投げ付けられる。
「――ガルニアッ!」
「何をっ――」
瞬間、僕はグラスを壁状に変形させ、掴めるようにした箇所を両手で握り締めた。
ガルニアもまた、接近を即座に諦め、真横に飛び退いたと同時に剣を地面に突き立てる。
ガルニアがいた位置を吹き抜けていった二つの竜巻はすぐにひとつに纏まり、一瞬で膨れ上がる。
文字通りあっという間に血晶体を呑み込んだ竜巻は、轟音を轟かせて地面と空間を蹂躙し始めた。
「ぐぅっ……!」
地面を削りながら暴れ狂う竜巻は、ただの竜巻ではない。
サピィの放つ風は、それだけで刃物と変わらない切れ味を誇る。さながら、あの竜巻、は凶悪な刃が四方八方に飛び交う地獄のようなものだ。
あんなものに巻き込まれればただでは済まない。竜巻の後ろにいる僕らでさえ、余波で体勢を保つのが精一杯なのだから。
「サピィの馬鹿……!」
と、言うか。
何の指示も出していないのに、恐らくは最大威力に近いであろう魔術を勝手に放ったサピィには、取りあえずしっかりと叱っておかなければなるまい。
今はまだ、冷たい眼差しのまま、自ら放った一撃を平然と見つめているが、普段のサピィに戻ったらお説教である。
そんなことを考えている内に、竜巻が徐々に衰えていくのがわかる。
体感的に三十秒ほど。その間、竜巻はその場に留まったままにその猛威を振り撒き続けた。
「なんて威力……」
その後に残ったのは、無惨にも砕け散った赤い血晶体が転がるのみ。
地面にはスプーンで削り取ったような跡が一本走っており、それは里を横断して森まで続いていた。
延長線上にあった家は、当然ながら影も形も残ってはいない。むしろよく血晶体が残っていたものだ。
「……驚いたな。まさかスピリットがこんな魔術を……」
「普通のスピリットは魔術もそんなに使わないはずだけどね。それより、こらっ」
『いたっ』
剣を地面から引き抜き、感心したような、もしくは呆れたように呟くガルニアにそう返すと、僕は擦り寄ってきたサピィの額を指で弾いた。
予想外のことだったのか、サピィは弾かれた額を両手で抑えながら、何で? と言わんばかりに見上げてくる。涙目な辺り、結構ショックだったようだ。
「前から何度かあったけど、ちょっと周りを見てなさすぎ。あとやり過ぎ」
『で、でも、アイツがリオを……』
「正直、今のは血晶体よりもサピィの方が危なかった。ガルニアのことも、全然考えてなかったでしょう」
『でも……でも……』
怒られるとは思っていなかったのか、額を抑えたままに項垂れるサピィ。心なしだんだん高度が落ちていく彼女を掌で受け止めると、そのままぺたりと座り込んでしまった。
「僕の為にやってくれているのは嬉しいんだよ? でも、次からはもっと周りのことも考えること。あと」
『?』
「もう少し、自分のことも考えること。……サピィが傷付くのも、僕は嫌だからね」
彼女の二対四枚ある透明な羽が、何が原因かひび割れて欠け落ちてしまっている。
いきなりの強力な魔力行使が原因か、もしくは単純に攻撃を反らす程に強烈な風を身にまとっていたからか。
サピィ自身にも、もう戦闘が出来るような余裕も残っていないように思える。
とにかく、あまり好ましいことではない。
『……ごめんなさい』
「うん。でも、ありがとう」
しょんぼりしてしまったサピィの頭を指先で撫で、そのまま肩の上へと乗せる。
そして未だに壁のまま鎮座しているグラスを小突いて元に戻そうとして、
「グラス?」
ブレスレットにはならずに、本来のスライム状態になったグラスが、何やらもぞもぞと移動をし始めた。
サピィの一撃によって抉られた道を滑るように移動していくのを、ガルニアと顔を見合わせてから追いかける。
「まさか……血晶体を?」
そんな呟きを肯定するかのように、グラスはまっすぐに割れた血晶体へと向かって突き進んでいく。
距離は十メートルかそこらしかなかったが、グラスの移動速度はぶっちゃけ遅い。先に血晶体までたどり着いていた僕らから十秒ほど遅れて、ようやくそこに辿り着く。
そこで、血晶体に異変が起きた。
「む……リオ、離れるんだ」
「え?」
ガルニアに言われ、その場から飛び退く。
見れば、割れた血晶体がひとりでに動きだし、またひとつになろうとし始めていたのだ。
それに追従して、竜巻に掻き消されたはずの半透明の液体が、どこからともなく集まってくる。
不味い、と、取りあえず血晶体自体をどうにかしようとして、それより早くガルニアが剣を振り上げた、それすらも早く。
「あ」
「むっ」
そんなのは関係ない、と。
恐らくはこの場で何者よりも揺らがない存在だったグラスが、もう少しでひとつになるであろうはずだった血晶体を、もぞもぞと吸収した。
それをただ見つめる僕と、振り上げた剣をゆっくりと下ろしながら、呆気に取られてしまうガルニア。
血晶体はゆっくりとグラスに吸収されていき、集まっていた半透明の液体は、核を失ったせいか蒸発したかのように音を立てて消えていく。
「…………」
大丈夫なのか、としばらく無言のままに観察していたが、完全に吸収し終えて、ボムッと音を立てて一回り大きくなった以外に、グラスに問題は見当たらない。
ステータスにも何ら変化はなく、グラスに取っては血晶体であろうと単なる食事に過ぎないのかと、空いた口が閉まらない状態になった。
「……なんとも、まぁ」
満足した、とぷるぷる震えたグラスは、こちらのことなどお構い無しのようで。
足元まで寄ってきたグラスが、今度は足首にリング状巻き付いて落ち着いてしまった。
別に邪魔にならなければどこで何に変形してもらっても構わないのだが。
「と、とにかく」
緊迫した戦闘からのオチがひどいだとか、微妙に言うことを聞いてない仲間達が少し不安だとか、色々と言いたいことはあるが。
今はとにかく、無事に戦闘を終えられたことを喜んでおこう。
「……もう平気なようだな。嫌な気配が無くなった」
ガルニアも上手く切り替えたのか、もしくは考えることを止めたのか、剣を鞘に納めて辺りを見回す。
そういえば、ごく自然に僕に対しての敬語が無くなっている。指摘したら元に戻ってしまうだろうか。
「ガルニア。寄りたい家があるんだけど、いいかな。そこを見たら、葉っぱ取って帰ろう」
「どうぞ。私はリオに付いて歩くだけですので」
「さっきみたいに敬語無しでいいのに。まぁいいや、行こう。直ぐ近くだから」
指摘しなくとも、案の定敬語に戻ってしまうガルニアに苦笑しながら、丘の上に建つ家を指差した。
僕とクリスが暮らしていた家は、今もあの頃と変わらない姿で、僕を待っていてくれた。
「ただいま」
扉を開けて、中に入る。
ガルニア達は皆、外で待っていてくれるらしい。今は、正真正銘の一人だ。グラスは一人には数えないでおく。
「全然変わってないなぁ。ここだけ離れた場所に建っていたからかな」
外面もそうだが、中身も、少し埃が溜まっているのを除けば、最後にここを離れた時と全く変わらない。
そこで、そういえば、と思い付き、とある棚の引き出しの中身を覗く。そこには、予想通りのものが入っていた。
「パニ草とパニパ草の根の粉末。置いといても仕方無いし、持っていこう」
暇にあかして作っていた薬を回収。どちらも掌に収まる巾着袋なので、口がしっかり閉まっているのを確認してポケットに入れておく。
門に入れられれば便利なのだが、テイムしたモンスター以外を出し入れすると頭痛を引き起こすので、余程のことがない限りは利用するつもりはない。
「ふぅ」
その後、なんとなく家の中を軽く掃除した後に、ひとつ息をついてベッドに座り込む。
当たり前だが、誰も使わなくなったベッドはとても冷たかった。
埃と共に、数本の茶色の毛が舞い上がり、長さ的にクリスの尻尾の毛だなと判断。間を置いて、何を真面目に考えているのかと苦笑する。
「さて」
立ち上がり、ズボンを叩いて埃を落とす。
少し、感傷に浸ってしまったが。今更寂しいだとか悲しいだとか言うつもりは更々ない。
その気持ちが無いとは言わないが、それを出したところでどうにもならないことはわかりきっているからだ。
「じゃあ、いって……ん?」
これ以上は、待っていてくれているガルニア達に悪いと家を出ようとして、玄関先にあったものが目に入る。
何故入った時に気付かなかったのか……これは、僕が使っていた手甲と、すね当てだった。
「そういえば、目が覚めた時はもう無かったな……クリスがここに置いていったのかな」
拾い上げ、馴れた手付きで装備していく。すね当ての下になるのは嫌だったのか、グラスは服の下から身体の上を移動して、二の腕辺りで落ち着いた。別にいいが、身体を這う感触が少しだけ気持ち悪い。
「よし……じゃあ、今度こそ」
装備し終わり、玄関先から家の中を振り返る。
これから先、ここに一人で戻ってくることは、多分無い。
それでも、返ってくる言葉が無かったとしても、僕はこう言って、玄関を開いた。
「――行ってきます」
「あ、いたいた」
家を出た後、里を軽く見て回ってから、今度はもうひとつの目的の為に再度森の中を探索する。
因みにだが、アルマさんとベアクルさんの家は全壊、メルニャさんの家に関しては、家こそ無事だったが、あの大量にあった本は全て無くなっていた。恐らくだが、後から来た兵士に持ち去られたのだろう。
今となっては、どうでもいいことだが。
「マンドラゴラさんがいるってことは、森自体は大丈夫みたいだな……あれ?」
「どうしかしましたか?」
「いや、その」
閲覧者のスキルを使いながら移動していたので、自然様々な情報が見えていたのだが。
見付けたマンドラゴラさんに出てきて貰おうとその地面を叩こうとしたところで、その数メートル前方に、気になる存在が埋まっている。
僕の目に映る、一見何の変鉄もない一輪の花。森によく生えている自然種だが、そこには確かに、『アルラウネ』の文字が。
「…………」
取りあえず、マンドラゴラさんを呼んでから、無言で推定アルラウネさんのところまで行き、同じように地面を叩く。
当然のように、アルウラネさんは元気よく地面から飛び出してきた。
「……花のアルラウネさんもいるのか……」
僕の言葉に、頭上の花を触りながら首を傾げるアルラウネさん。どうやら女の子のようだが、何故かだらだらと涎を垂らしているので、手持ちのハンカチでそれを拭ってあげる。
サピィを通して会話してみると、どうやらマンドラゴラさんもアルラウネさんも基本的には葉っぱの固体だが、中には目の前の彼女のように花を咲かせる固体もいるとのこと。
謎が多い森人だが、なんだか更に謎が深まった気がする。後どうしてこんなに涎がスゴいのか。
『美味しそうなニオイがするんだって』
「えぇ……」
サピィの言葉にコクコクと頷くアルラウネさん。そんな彼女を横目に、いい加減びしゃびしゃになったハンカチをしまおうとして、少し迷ってから門に放り込む。
早速頭痛が走るが、ズボンまで濡らしたくはないので致し方ない。
ガルニアが黙っているのは、恐らくは自分が口を出す意味がないと思っているからだろう。少しは突っ込んでくれても良いのだけれど。
「取りあえず、マンドラゴラさんから葉っぱを貰って……」
とにもかくにも当初の目的を果たそうとして、目を爛々と輝かせているアルラウネさんから目をそらし、マンドラゴラさんに向き合う。
しかし、どうしたことか、彼は首を横に振った。まさかの拒否に、思わず瞬きを繰り返す。
『んー?』
同時にサピィが首を傾げ、僕の肩から彼の肩へと移動する。
何やら要望でもあるのだろうかと見守っていると、またしても予想外の言葉がサピィから飛んできた。
『あげてもいいけど、僕も一緒に連れてって、だって』
「え? 連れてって、って。僕と一緒に来たいの?」
『そろそろ別の土地も見てみたくなってきた。でも一人だと不安。君なら安心して身を預けられる、だって』
表情こそ変わらないが、コクコクと頷くその姿は、冗談を言っている雰囲気は無い。
どうやら、本当に僕と共に行動したいらしい。
更には、サピィと同じようにテイムしてくれても構わない。むしろそうしてくれた方がありがたいとまで伝えてきた。
その横には、取りあえず涎は収まったらしいアルラウネさんが、ピンとその右手を上げている。それなら私も、とでも言うのだろうか。
まさかのその申し出に、悩むと言うよりかは困惑してしまう僕に、サピィの声が聞こえないガルニアが説明を求めてきた。
「どうかしましたか?」
「あぁ、いや。この二人が一緒に来たいって言うんだけど……」
「はあ。宜しいのでは?」
「そんな気軽に……」
「何か不都合でも? あぁ、テイム能力の面で不安があるのでしょうか。なら、私からは何も言えませんが」
「いや、そっちは多分大丈夫なんだけど」
「……? なら、何にお悩みで? 私には願ったりな状況に思えますが」
心底不思議そうなガルニアの顔を見て、まあ確かに、と落ち着いて考えてみる。
森人である彼等をテイムする、という発想が無かったから困惑しただけで、それ自体には何らデメリットは見当たらないのだ。
というか、連れてってくれないと葉っぱをあげないよ、と言われてるようなものなので、どちらしろ選択肢はひとつしかない。そう納得して、僕は改めてマンドラゴラさん……と、その横のアルラウネさんを視界に入れた。
「じゃあ、一緒に行こうか。要望通りにテイムするけど、構わないよね」
構わないも何も、願ったりだと言う風に頷く二人。
常に無表情なのであんまりよくわからないが、多分喜んでくれている。
そう思いながら、最早息をするレベルで馴染んだテイム能力を行使する。
名称 マンドラゴラ
レベル14
祝福『地精の加護』
スキル『地脈操作』『地の魔術』
筋力F 体力D- 俊敏F 魔力D 精神D
名称 アルラウネ
レベル17
祝福『地精の加護』
スキル『地脈操作』『地の魔術』
筋力F 体力D- 俊敏F 魔力D+ 精神C
『これで、仲間?』
『仲間、仲間』
ステータスを確認している間に、サピィとは違う声が頭に響く。
なんとなく予想はしていたので、別に驚きはせずに笑顔を向ける。
そんな僕に、彼等はうっすらとだが確かに笑顔を向けてくれた。
『僕、ステラ』
『私はシルク』
「ステラにシルク、か。これから宜しくね」
これで、テイマーとして仲間にしたのは、サピィにナイト、クグリにグラス。そこに二人を加えると、総勢六体が僕の傘下に入っている。傘下と言うには、少し違うのかもしれないが。
取りあえず、これで目的は達成したようなものなので、さっさと王国に帰ることにする。
と、ここでひとつ疑問が。
「二人とも、この森から離れても大丈夫なの?」
これだ。彼等がいる森は豊かな証拠と言われるが、果たしてその彼等が去ってしまった後の森はどうなってしまうのか。
ただでさえ、あの血晶体に生態系を荒らされ、モンスターの数も減らされてしまっているのだ。影響が無いとは考えられない。
そんな質問に、二人は顔を見合わせて、しばらくそのまま見つめあう。が、直ぐに互いに頷きあって、
『ここの地脈は、もう大丈夫』
『居心地良いから、私達がいなくなっても、勝手に他所から集まってくる』
だから大丈夫、と。どうやら本当に心配いらないようで、二人は軽い調子で答えていた。
森人である二人がそう言うのだから、僕が心配するのも余計なお世話といったところか。そう結論付けた僕は、それ以上は聞かずに空を仰いだ。
「じゃあ、帰ろうか。もう時間もぎりぎりだ」
木々の隙間から見える空は、既に夕焼けを過ぎて深い青に染まり始めている。
王国につく頃には、きっと真っ暗になっているだろう。
僕の短くささやかな、きっともう訪れることはない里帰り。
それは、予想外にも様々なモノを得る結果に終わり。けじめを付けた僕の気持ちは、つい昨日よりも確かに、真っ直ぐに明日に向いていた。




