プロローグ
こちらは以前投稿した『最弱テイマー』のリメイク版となります。
――冷たい。
地べたに這いつくばったまま、容赦なく打ち付けてくる大粒の雨を全身で感じている。
ぬかるんだ土は顔の半分を覆い、地を掻いた指先、爪の間にいやらしく入り込んできた。
耳に溜まる雨水。それをどうにかしようとする気力も見当たらず、しかし、口に入り込んだそれは、久しぶりの水分として甘く身体に染み渡っていく。
(今更、多少の水を飲んだところで……)
もう、どれくらい食事らしい食事を取っていなかったか。この幼い身体では、出来ることが限られ過ぎていて。
いくら『知識』があったところで、所詮はただの子供の身体。
むしろ、危険だらけの街の外でよくまぁここまで生き延びてきたものだ。最後が餓死なら、まだ幸せな方ではないだろうか。
空腹からくる吐き気も、腹に穴が空くような飢餓感も、とうの昔に通り過ぎていった。今は、ただひたすらに溶けていくような脱力が全身を支配しているだけ。
涙は出ない。
何故こんな目にあってしまったのかなんて、考えるだけ無駄だと思考から弾き出す。
(あぁー……短い人生だったぜ)
この世への捨て台詞。
口に出したはずのそれは、口が動いただけで音にはならなかった。
やがて、瞼が静かに降りてくる。それに逆らう気も今更起きず、僕はもう一度この世へのさようならを頭の中で済ませると、暗闇へと意識を投げ出した。




