39)届かない!?
眩暈がする。ひどく揺らされ、平衡感覚が麻痺している。
ガクガクと画面がブレる様に、焦点が合わない。目の前で連続でフラッシュが焚かれたかのような、惑わされる映像。
気分が悪い。
どこか遠くで。車のハンドルを握る男が見える。男はそのまま隣の助手席に手を伸ばし、両手を縛られた怯えた瞳の若い人影が俯いた。
後方から男の邪魔をするように手が伸びている。その手も括られたまま、抵抗の意思だけをのせて。
「「あ ぶ な い!!!」 逃げろ!!」
車の中で必死に発せられた声。
耳障りなブレーキ音は不協和音を奏でつつ、縁石を乗り越え子供たちの集団へ――。
警告は――届かなかった。
グワシャン――っ
ダガン、ドゴッ。グワンー。
パーーッ
聞こえるのは壊れる音。引き裂かれ、割れる音色。
遅れて鳴ったクラクション。
耳に痛いのは聞こえた音がただの物音じゃないからだ。
それは運命を刈る理不尽な刃が振るわれた“音”
未来を変える厄災が不意に訪れた“刻”
不幸に巻き込まれたのは罪のない子どたちだった。
うひゃ、痛つ。
私は飛び跳ねるように意識を確立させた。まるで夢から目覚めるように。
見えた光景が何なのかははっきりしない。けれど、これは私自身が見た光景=記憶じゃない。
それだけはきっぱりと言い切れる。
では何なのか。
(れっ? サツキちゃん??)
記憶のない自分に断言できることではない。けれどこれは・・・・・・。
(サツキちゃんの目撃した光景!?)
薄暗い病室ではサツキちゃんの青白く震える手が伸ばされ、落ちていく。
誰にもその手が届くことなく。落ちる。
「うっ、きゃあ~!!」
・・・・・・幽霊の叫び声で駆けつけてくれるのって。やっぱり、幽霊仲間でしょうか。
そんな私の素朴な疑問はおっちゃんの登場で、晴れました。はい。
「うっひょ~ん♪」
ぬらり。と、おっちゃんは天井から生えました。
いや『生えてきた』としか表現できない状態です。これは――。
以下に幽霊と言えど。
天井から、みょ~んと登場されては。叫んでもいいですか? って、叫びませんでしたけど。
閑話休題
騒ぎに気付いたのか、病院内の幽霊仲間が病室を覗いています。無駄に多いです。
そんな中。マキ夫人もやってきて、おっちゃんを天井からひょい、と引っこ抜いてくださいました。
手際良く、すこんと。
「いつもお世話になります!」
と言いたくなるほどでした。
(集まってくれたのは、みんな心配してくれたんですよね。面白がったんじゃなくて)
『夜の病院に響き渡るは幽霊の叫び声』