17)ぷら~んと
ところで、おっちゃんがガコココンって感じの擬音とともに、下駄を鳴らし、戸も駆け抜けて(文字通り)病室に飛び入ってきたのには理由があったんです。
単に私をびっくりさせようとした訳じゃ、なかったんですよ。
マキ夫人の急な訪問も同じです。おっちゃんの突入のお知らせだけじゃなく、実は二人ともある人物を私に紹介したかったそうなんです。
その人は生きています。そう! ポイントは生きている人ということです。
まぁ結局、紹介は先送りすることになったのですが。
ここで皆さん。こちらの閉鎖病棟!? もとい病室前の騒動覚えていますか?
少年の乱入事件のことです。
ほら、未遂に終わりましたが・・・・・・。
サツキちゃんのお知り合いらしい、あの少年のことです。
じたばたじたばた。
首根っこを押さえられ、ぷらーんと猫の子のようになっている少年を皆、生暖かく見守っていた。
少年をぶら下げているのは彼の母親だった。
「ううっ。放せー」
じたばたじたばた。
にっこりと綺麗に笑んだ彼の母は、
「ふふふっ、まだ懲りてないみたいね」
と不敵に素敵にくいっと、摘まんだままの息子に話しかけた。
「バカな子ほどかわいい。とはいうけれど、バカ過ぎる子の場合はどうすればいいのかしら?」
うふふふ♪ 笑んだ表情はそのままなのに、迫力と危険度が増している。
ぶら~んと摘ままれたままの息子の顔色も変わる。目に見えて青く、悪く。
「ええっと、おかぁーさま?」
さすがに何か感じるものがあったようで、少年が下手に出た。・・・・・・ちょっとだけ。
警護担当の方も、我関せず。な、状態のようで摘ままれた少年への教育という名のお説教は彼女に任されたようだ。
それが判ったのか、少年は顔色も悪いまま、
「ごめんなさい!」
まずは謝った。ぷら~んと下げられたまま。
結構、器用だ。
いやこれは日頃の学習の所為からしいから、条件反射!? とも言うだろう。
「くすっ、なにが?」
言っている内容と、現在の行動がリンクしていない。何というか、かけ離れている。
彼女のそんな素敵さ、如何ですか?
おっちゃんとマキ夫人が私に紹介しようと思っていたのは、この少年――ではなく。
少年をぷら~んと下げた母親の方でした。ご覧のように、素敵な女性です。
ああっ、ご紹介が遅れました。
彼女の名は『アツコ』さんというそうです。
すみません。本名は知りません。おっちゃんは、彼女は熱いから「熱娘」だと言い。マキ夫人は「アツ子ちゃん」と、まるで某アッコちゃんのような呼び方をします。情に厚いの厚子でもいいのよ。とマキ夫人はのんびりとおっしゃいました。
私は後日、無事お知り合いになってから「アツ娘さん」と呼んでいます。