隣に幼馴染
私の右隣に立って片手で電車の座席横の棒を掴み、片手でスマホを熱心に触ってる男の子は私にとって、幼馴染みだ。
幼稚園小学とずっと一緒のクラスだったが中学1年の頃以来、会うことも話すことも少なくなった。
何故かは分からない。自然にそうなった、としか言いようがない。
高校は同じ西校に通っていることは知ってたし、今までだって行き帰り同じ電車に何度か乗ってたことも知っていた。
私達は別に物語のような家が隣同士とかいう幼馴染みではなく、同じ町内で幼稚園に入る少し前からの知り合いというか友達だ。
何故こんなに彼が気になるのかといいますと、
「ほらほら端っこ空けといたよ!座んないの?」
私の友人2人が彼が鞄を床において座ろうとした瞬間に素早く席を取ったからだ。
いや、取ったという表現が可笑しいのは分かってる。別にこれといった指定席の無い電車に友人達は座っただけだ。彼ももしかしたら、降りる駅まで立ち続けるつもりだったかもしれない。
足で鞄をズラしてたけど、よくある事……だよね?
「私は2人の最寄り駅まで立ってるよ。最近身体鈍っちゃってて」
ハハハと空笑いしか出てこない。
友人達は「そう?」と言って女性1人分ちょっとあった隙間を埋めていくと、その2人の隣は大学生くらいのお兄さんが座り、席を完成させた。
電車が揺れる度に彼と擦れる夏服は通気性が悪い。
窓のブラインドがあっても、下げてない所が丁度大学生の後ろで下げてほしいと言いにくい。
扇風機が送る風は温いし、クーラーはきいてるのか分からない。
何でこんな日に限って、幼馴染みの隣に立ってんだろう。
電車が一旦止まり、扉が開く。
その間に吊り革を掴んでいた左手を離し、開いたり結んだりしてみる。
痺れたのか、痛いようなそうでも無いような白をイメージしてしまう感覚になった。って、白って何だよ。
と自分にツッコミをしていると、電車が急に動き出したためよろめいてしまった。
吊り革を掴んでいないためこけそうになり、つい、ワザとではなく、彼にドンッときつめにぶつかってしまった。
「ごめんなさい!」
咄嗟にでた声は裏返っていた。
彼は「いえ」と短く答え、何事も無かったかのようにスマホを触り始めた。
何だか素っ気ない、あっさりしてた。
いっその事、「何やってんだよ」とそのいつの間にか低くなった声で笑ってくれた方が良かった。
「ちょっと何やってんのよ。座る?」
「てかさっき、声めっちゃ裏返ってなかった?」
アハハと笑う目の前の友人達みたいにさ。
「ばいばーい」
「またらいしゅー」
「うん、また来週」
手を振って電車を降りて行った友人達を見送り、さぁどうしようだ。
車内を見渡してみるけど席はあまり空いていない。
正直立っているのは荷物も重いし疲れる。
そう考えている間にもこの席は別の誰かが座るかもしれない、けど別にいいやと思う私がいるため、一歩下がった時だ。
「座らないの」
「座る!」
挑発的な、素っ気ない声が隣から出たためか、反射的に言葉を返しそのまま目の前の席に座った。
すると小さく笑う声がした。
願ってもいなかった事が起きたのだ。今ならチャンスかもしれない。
何のだよと自分にツッコミを入れる前に言おう。
「私の横す「あ゛ーアッツ!!」
隣にドンッと勢いよく座ったのは、ある意味体格のいい別の学校の女子高生さん。
だらりと座る彼女は手に持っていた下敷きで自分を扇ぐ。
「……いや、何でもないよ」
電車は動き始めていたため自然と小さくなっていった私の声が彼に届いたかは、分からないまま俯いてしまった。
もう視界に移るのは彼の笑った顔ではなく、重たい鞄と自分の足元だけだ。
俯いているのだから、当たり前といえば当たり前なのだけど。
自然と溜息がでた時。
鞄を私の前にずらす彼の足が見えた。
顔を上げてみてみると「何?」と素っ気なく言われたけど、少し笑ってるというか照れてるようなそんな表情で言われても……ねぇ?
「別にいいだろ。次の駅でどうせまた乗る奴ら増えんだから。扉の前とか、邪魔だろ」
「そうだね」
と笑っちゃったから、私の幼馴染みはふてくされた。
それが私と彼がまた昔のように話すようになったきっかけ。