モンスタートレイン
どうやら、お隣さんが死んだようだ。
お隣さんと言っても、そんなに親しい訳じゃあない。ただ、時々顔を合わせたり、お隣さんが旅行に行くときに犬を預かったりしているだけだ。
先日警察から話を聞かれたけれど、そんなに知っている訳じゃないのであまり参考にはならなかっただろう。
因みに、今回預かった犬は、今までの犬ではなかった。聞いたところによると、拾った犬なのだとか。まあ、どうでもいいが。
それにしても、全く以て五月蝿い犬だ。私に向かって吠える、吠える。実に腹立たしい。私はこの犬に愛情など無いから、思い切り怒鳴りつけてやった。それでも吠えるのを止めないので、私は残虐な気持ちで犬を殺した。
ある日、旧友と食事に行く事になった。高校の時の同級生で、特に仲が良かった奴だ。
待ち合わせをしたのは、私の家の最寄駅から電車で二回乗り換えをして辿り着ける駅前だ。旧友は引っ越してしまったので、そこが一番近いらしい。
私は十時の電車に乗って目的地を目指した。
一本目の電車に乗っている時、何か厭な予感を覚えた。私の気のせいかもしれないが、何か妙なものが近付いているような――。
とは言え、気にしてもしょうがないので、私は大人しく席に座っていた。
電車を乗り換え、二本目に乗り込んだ。二本目に乗っている時間は短い。私は立っている事にした。
やはり、厭な予感は消えなかった。
続いて三本目。これに乗っていれば目的地に着ける。時間はそこそこかかるので、私は空いた席にすかさず座った。
ぞくり、と悪寒がした。
やはり、何かがいる。私は霊感など持っているつもりはないが、得体のしれない何かが私を見つめているような気がした。
『えー間もなく田沢、田沢です』
車掌のアナウンスが入る。田沢は私の目的地だ。いつのまにか、電車に乗っているのは私だけになっていた。
ところが、停車しない。電車は田沢で止まらず、ホームを素通りしていく。
『あ、現在、車両のトラブルにより停車が出来ない状況となっております、危険はございませんので、復旧まで少々お待ち下さい』
車掌が焦った声でアナウンスを入れた。私はおいおい、と口の中で呟いて、席から腰を浮かせた。
電車は心成しか加速している。トンネルの壁が窓の外をすごいスピードで通り過ぎていった。
私は吊革に掴まり、窓の外を見ていた。錆びたレールがぎいぎいと悲鳴を上げた。電車は加速し続けている。
『ま、間もなくトラブルは解消され――あ』
車掌が頓狂な声を上げた。窓の外を見ていた私も同時に声を上げた。
何と、線路が勝手に切り替わったのだ。通常の進路ではない方向へ。電車はそれに沿って曲がっていく。
『嘘だろ……この先は……!』
放送のスイッチが入りっぱなしになっているため、車掌の声は全て私にも聞こえていた。
やがて、車両は空中に抛り出された。私はうわあああああ、と悲鳴を上げる。車掌も同様だった。
窓の外から地面が迫って来たが、今の私にそんな事を気にしている余裕はなかった。
爆発音と同時に、誰かの笑い声と犬の声が聞こえた。