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たくさんの評価・お気に入り本当にありがとうございます。

昨日は更新できなくてすみません・・・。

しかも残り1話で収まらなく21時にも更新します。


アマリエはそれからしばらく経ったのち目を覚ました。

その時はちょっとした騒ぎになった。

そばに控えていた侍女たちが騒ぎ、急いで医者、ルドヴィークとグスタフに知らせを走らせる。

まだはっきりと意識のないアマリエはその様子をぼんやりと眺めていた。

体を動かそうにも力が入らずただ見慣れぬ天井を見つめる。

そうしているうちに慌ただしい足音が聞こえ見慣れない男―――ルドヴィークが入ってきた。

息を弾ませながらアマリエへと近づき、その目が開かれていることを確認すると自身の目元に手を宛がった。


「よかった・・・本当によかった。」


少し震える声でルドヴィークは呟く。

そんな彼を不思議に思ったアマリエは声を掛けようとするが喉がかすれて声が出ない。

それに気づいた侍女が水を与えてくれたので少々むせながらも喉を潤おす。


「あ、あの・・・ここは?・・・私は一体―――」


徐々に意識がはっきりしてきたのか、はっと自分が行った事を思い出すと愕然とする。

静かにアマリエを見守っていた人間は安心したのも束の間、沈痛な面持ちになる。

ルドヴィークが手を上げると皆部屋を下がって行った。


「アマリエ。」

「・・・私は、死ぬことが出来なかったのですね・・・。」

「覚えているんだな。」

「はい。・・・案外しぶといものなのですね。」


アマリエが自嘲するとルドヴィークは顔を歪めた。

そっと彼女の目を手で覆うと宥めるように言う。


「今は何も考えるな。ゆっくり休め。」

「・・・はい。」


アマリエの涙がルドヴィークの手を濡らした。






アマリエは取り巻く環境に戸惑っていたが徐々に体調を取り戻し、今では起き上がり歩き回れるようになった。

驚くべきことにアマリエが世話になっていた場所は王宮の敷地内にある一室であった。

その上いつも甲斐甲斐しく接してくれるルドヴィークはこの国の王子だという。

それを聞いた時のアマリエはあまりのことにしばらく固まっていたが、ルドヴィークはしてやったりと笑っていた。

グスタフにこの事を話すと申し訳なさそうに苦笑しながら説明してくれる。


以前からグスタフとルドヴィークは親交があり、アマリエの話も時々出ていたこと。

ツィリルと婚約中もそれとなくアマリエのことを気にかけていてくれたこと。

アマリエの一大事には素早く対応し、体裁も整えてくれたことを話してくれた。


「姉上は殿下と昔お会いしたことがあるそうですよ。覚えはありませんか?」

「・・・殿下と・・・」

「小さい頃だったから覚えていないだろうとはおっしゃっていましたけどね。」

「・・・?」


アマリエはグスタフに言われた事を考えながら、許可が出た範囲の庭を散歩していた。

そこには色とりどりのロベリアの花がたくさん咲いている。

嬉しくなってしゃがみ込み間近で観察していると中には二色咲きのものもあり、ますます気分が高揚してくる。

だがアマリエが一番好きな色はやはり瑠璃色だ。

指で優しく撫でていると、背後からルドヴィークがアマリエを呼ぶ声がしたので振り向いた。


日が眩しく手で帽子の鍔を調整しながら目を細める。

振り向いた先にはキラキラと光る銀色の髪、その手には瑠璃色のロベリアの花―――


『これやるから、泣き止め。』


赤い瞳がまっすぐアマリエを見つめている。


「・・・どこかで・・・?」


ただぼんやりと自分を見るアマリエが心配になり、ルドヴィークはそろりと近づいて彼女の顔を覗き込んだ。


「どうした?」

『どうした?』

「・・・あ・・・。」


遠い昔に聞いた男の子の声とルドヴィークの声が重なる。

泣いていたアマリエをぶっきらぼうに慰めてくれた男の子。

アマリエはデジャビュを感じ、思わず言葉にならない声を漏らす。

不安そうなその顔にも見覚えがある気がしてならない。


「・・・あの時の・・・お兄ちゃん・・・?」

「!!」


ルドヴィークは目を見開いて驚いたが、次いで顔をくしゃりと崩し満面の笑みを見せて花を差し出す。

もちろん瑠璃色のロベリアだ。


「これやるから、泣き止め。・・・だったか?」


アマリエは言葉もなく受け取ったロベリアの花に顔を埋め、ただ何度も何度も頷いた。






アマリエとルドヴィークは室内へ移動し、ソファーに腰を掛けている。

彼女の手にはいまだにロベリアの花が。

ルドヴィークはそれをちらりと見て、照れくさそうに頬を掻くと話を切り出した。


「アマリエ。実はお前に会いたいと言っている人物がいる。」

「?」

「不快に思うだろうが、フューリヒ子爵だ。」

「・・・私とはすでに縁がないと・・・。」

「そうだ。私もしかとそれを聞いたんだが、全くもって図々しいにも程がある。まあ、ツィリルとインドラ、だったか?の婚約も無いものとなったから焦ったんだろう。」

「!?」


アマリエは驚いてルドヴィークを見ると、彼はしっかり頷いた。

長い足を器用に組み換え、ソファーの背に身を預ける。


「そもそもシュプリンガー公爵家ではインドラを迎え入れる事に反対していたそうだ。いくら資産が多いとはいえ所詮フューリヒは子爵家。それでもアマリエとの婚約が許されたのは君だからだ。」

「私、だから?」

「シュプリンガー公爵夫人は君の母上と昔馴染みだったらしい。・・・こんな事を聞くのは嫌かもしれないが、母上には好いた相手がいたはずなのに子爵家へと嫁いでいった。政略結婚は珍しくないが、それでも夫人は気になっていたようだ。そのうち亡くなったと噂で聞き悲しみ、今度は残された君の事を心配するようになった。」

「・・・。」

「良くも悪くも事なかれ主義の公爵は、他家の事情に口を挟むことをよしとしなかった。これに関しては王家も同じだ。全く不甲斐ないよ。だが、転機が訪れた。息子のツィリルがアマリエを見染めたんだ。夫人は諸手を挙げてすぐに了承し、公爵もこれなら仕方があるまいと認めた。・・・あとは知っての通りだ。」


一気に話して疲れたのか、ルドヴィークは用意されていた紅茶を飲むと小さく息を吐く。


「さすがの事態に公爵も黙ってられなかったのだろう。即破棄させた。一度ならずに二度までも破棄とは何事かと強気な態度に出た子爵夫妻にはいくつかの話をちらつかせ引き下がらせた。」

「?」


不思議そうに首を傾げたアマリエにルドヴィークはくすりと笑い「君は知らなくていいことだ」と言った。

実はフューリヒ子爵家には以前から黒い噂があり、法にすれるかどうか微妙な所で悪事を働いている事をルドヴィークは少しずつ調べ上げていた。

まさに今が、と公爵に会い証拠資料等を渡したのだった。


「そうこうするうちにアマリエを引き取ったのが自国の王子だと知り、子爵夫妻は君に会おうと躍起になったという訳だ。さて、どうする?私としては君に会せるなどと考えられんが、一応聞いておこうと思った。」

「・・・私は・・・。」


アマリエは言葉に詰まった。

正直言うと会いたくなどない。

手のひらを返したように擦り寄るであろう2人を想像するだけでぞっとする。

でも、それでいいのだろうか?

あの時アマリエは最悪の形で逃げ出した。

全てを失い、いや初めから何も無かったと知り絶望した。

だが今はグスタフをはじめとした人たちがアマリエを支えてくれている。

なによりルドヴィークがいるのだ。

彼は何も出来なかったと悔やんでいるが、その気持ちを知っただけでもアマリエの心が温かくなる。

望めばきっとルドヴィークは今度こそアマリエを守ってくれるだろう。

しかしこのまま甘えてしまってもいいのだろうか?


確かに今まで子爵夫妻、妹には理不尽な目にあわされてきた。

どうして自分だけがこんな目にあうのだろうかと幼い頃は泣いてばかりだった。

ある程度大きくなると、どうしようもないのだと諦めてそれを受け入れてきた。

果たしてそれは正しかったのだろうか?

なぜ一度でも逆らって反抗しなかったのか?

アマリエ自身にも彼らを助長させる原因があったのではないか?


―――・・・いつまでも逃げてばかりいられない。


アマリエはぎゅっと手に力を入れると、ロベリアの花がさわさわと鳴る。

まるで頑張れと言われたような気がして力強くなった。


「殿下・・・私、会います。」


凛とした声と眼差しのアマリエをルドヴィークは眩しそうに見て「そうか。」とだけ言った。

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