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第六話「ボクは勇者の代名詞を見た」

今回は特例として『ボク』視点。

キリの良い所まで書いたのでちょいと長めです。

 正気に戻った勇者様は目の前に見た事のない女性がいる事にとまどっている様だった。

「あー、ど、どちらさまですか?」

「それを言いたいのは私ですよ。マーリア様がずいぶんと驚いていらっしゃいましたけど……あなた、何者なんですか?」

「そう、ですね。何て説明すればいいか」

「何か複雑な事情が?」

「ええ、多分皆さんの想像の斜め上を行く話だと思います」

「まあ、お聞かせ願えますか?」


「ハールマン、ハールマン、酔っぱらいとお姫様の最低の出会いが、何故かいい雰囲気に発展してるんだけど。ボクの目がおかしくなったのかな?」

「おそらくは女神であるマーリアが興味を持ったんでしょうねえ。まあ聖女自身も興味を持ったみたいですが。ああ、目が悪いのかと思ったのであれば、今後は暗い所での読書はお控えください」

「な、なるほど」

 さすがは勇者様だ。神様も興味深々だなんて。

 けれどそんな不自然な2人の時間は唐突に終わりを告げた。勇者様の喉元に長剣が突き付けられたのだ。

「そこまでだ無礼者」

 どうやら姫の傍付きの騎士さんが、コレ以上はマズイと判断したみたいだ。威圧感を隠そうともしない騎士さんは、リナ姫を勇者様から遠ざける。


「あれは……」

「ああ、姫の近衛ですねぇ。名はライアン、でしたかな?」

 そうだ、騎士ライアンだ。

 ボクの記憶が確かなら[神聖国家アグネス]の中でも1、2を争う優秀な近衛兵で、22歳の独身男性(彼女募集中)だったはず。

 姫様のお付になっていることを聞いた城の騎士の皆が羨ましがっていたっけ。


「ほう、シラフになったらずいぶんと真面目な雰囲気になったな」

ゆったりとした口調ながらも、なんとなく固く感じる声。真面目そうな人だ。

「はあ、どうも。えーっと初対面ですよね」

「そうだ」

「その、初めまして」

「……うむ、初めまして」

 どうやら勇者様は自己紹介から始めるつもりらしかった。

 一度深呼吸をすると、覚悟を決めた顔つきで喋り出す。


「私は株式会社『お涙』デザイン部門部長の[変態鬼畜王セクハラ―]と申し……え?」

そして凍りつく勇者様の表情。


「勇者様の自己紹介が止まった?」

「ふむ、急に固まりましたねぇ」

 一体どうしたというのだろう? ライアンさんも不審に思ったのか首をかしげている。

「何だ。申さないのか」

「い、いえ、申します。私の名前は[変態鬼畜王セクハラ―]と……い、言えない? 本名が言えない!? [変態鬼畜王セクハラ―]! [変態鬼畜王セクハラ―]! だーくっそ、セクハ! おお、略すのはイケた」

「……シラフになってもふざけたヤツだな」

「いえ、あー、そのですね。ちょっと名前が浸食されていると言いますか。何か今本当の名前が発言禁止用語になっている感じでして」

「ええい、意味の分からない事をぬかすな!」

「し、心中お察しいたします」

「直接の原因が察してどうする!? 貴様、わざとやっているだろ!」

「いえ、そんな滅相も無い」


「王子、わざとじゃない方が性質が悪いと思うのは私だけでしょうかねぇ?」

「それは……言わない方が良いんじゃないかな」

 けれどこのやり取りがリナ姫の笑いのツボに入ってしまったらしい。リナ姫は口元を押さえて笑い出す。

「ふっ、ふふふ」

「っ! 姫、こんな男の言う事に耳を貸してはなりません!」

「あっ、ごめんなさいライアン。だっておかしくて」


 どうやら騎士ライアンの感情は少しづつ、少しづつ沸点に近づいている様だった。

 けれどライアンさんはどうするつもりなんだろう?

「ハールマン、これってどう収拾をつければいいんだろうね」

「ふーむ、まあグダグダですもんねぇ」

 その時、ボクの父上が立ち上がる。

「まあ待ちたまえ」

 ざわついていた広間にいる全員の視線が父上に集まっていった。


 そして皆の注目を受けた父上はにっこり笑ってこう言った。

「騎士ライアンよ。そこにいるソレは、本日皆に集まってもらった直接の原因でな。まことに残念ながら我が国が召喚した勇者なのだ」

「ば、バカな! 勇者と言えば我ら騎士の手本であり、世の少年少女達のあこがれの的。こんなふざけた男が勇者であっていいはずが無い。そうでしょう法王殿!」

「うむ、私も同意見だ」


 どことなくノリノリに見える父上とライアンさん。

 だがそんな2人に逆襲するかのように、勇者様から爆弾発言が飛び出した。

「……つまり今の話を信じると、僕が世の少年少女達のあこがれの的になると?」

「「「「「それだけはない」」」」」

 ふだんはいがみ合って腹の探り合いをする各国のお偉いさん達。 その心が一つになった瞬間だった。



「落ち着きなさいライアン。法王殿、彼が勇者と言うのは本当なのですか?」

 皆の心が一瞬一つになった後、いち早く正気を取り戻したリナ姫が父上に質問する。

「ふむ、その通りなのだが……。どうやら皆の反応を見るに、ここで『そうだ』と、肯定しても皆信じそうにはないな。ならばどうだろう、そこのライアンと勇者を一度戦わせてみてはどうかな?」

「なっ!? 機会をいただけるのですか?」

「もちろんそちらにおられるリナ姫のお許しが出れば。だがな」

「姫!」

 顔を輝かせたライアンがリナ姫に向かって賛同を求めた。


 その様子を見ていたハールマンが興味深そうに成り行きを見守る。

「これは、つまらないような面白いような事になりましたねぇ」

「えっと、ハールマン。その心は?」

「結果は見えていてつまらない。しかし勇者が何をやらかしてくれるのか? という期待に胸が膨らむ。と、言った所でしょうか」

「そ、そっか。確かに結果は見えてるもんね」

 少なくともライアンさんが勇者様に勝つことは無いだろうな。


 リナ姫もそれを分かっているのか、試合には乗り気になれないみたいだ。

 けれどライアンさんは引こうとしない。

「お願いします。どうかこのライアンに機会を!」

「……ハア、いいでしょう。でもライアン、怪我をしない様に気を付けてね」

「フッ、もちろんです。見ていてください姫。このライアン、敵の攻撃を全て躱して必ずや勝利をお見せましょう!」

「いえ、そういうわけでは……まあいいです。頑張ってください」

こうしてライアンさん対勇者様の試合が開始される事となったのだった。

「それでは法王殿、よろしければ立ち合いをお願いしても?」

「もちろんだ。騎士ライアンよ、奮戦するがよい」

 当事者の片割れをさしおいて、どんどんと話が進んで行く。

 そんな中、事態に置いて行かれるどころか、連れて行かれている勇者様は戸惑いながら呟言いた。

「えと、その、僕はそんな機会いらないんだけど」

「では双方構えを取りたまえ」

「あの、僕の意志は!?」


試合が……始まる!


「ちょっとー、聞こえないんですかー? 僕の意ー志ーはー!?」

そして父上の『始め!』という合図とともにライアンさんの長剣が振りぬかれた。



 剣が空を切る音が鳴り続ける。

 試合の成り行きを見守る各国の皆さんは目の前の試合を目を点にして観戦していた。

「な、なんと」

「あのライアン殿の剣技が掠りさえしないとは」

 試合が騎士してから数十秒。

 最初は余裕の笑みを浮かべていたライアンさんの表情は、かなり険しくなっていた。

「くっ、 何という足さばきだ!」

 声に現れる戸惑いと焦り。


 けれどそれも仕方が無い事だとボクは思う。だって勇者様の……。

「手と足と胴体と顔が沢山見える」

 動きったら速すぎて気持ち悪いくらいなんだもの。


 試合開始から今の今まで、試合に駆り出された勇者様は自分に降りかかる全ての攻撃を、爽やか(?)な笑顔ではい比していた。


 ハールマンがその様子を冷静に分析する。

「ふむ、ライアン殿の初動と間合いは完璧に見切られてますねぇ」

「そうなの?」

「ええ、恐らくライアン殿の剣技は1本の長剣を、左右の手で持ち替え場がら戦う変則の一刀流です。片手剣や両手剣、双剣を振るった時にできる隙を、体捌きと剣の持ち替えで補う防御主体のモノでしょう」

「そうか、リナ姫を守るのが仕事だもんね」

「はい。また動きを見る限りでは、彼はその剣技に殴打を始めとした体術を組み合わせる事で、より実践的なモノに組み替えた様です……が」

「勇者さんには当たらない。か」

「まあ、動き出しを目で追われていますからねぇ。勇者殿の素早さは私でも目で追うのがやっとの速度。一近衛程度には荷が勝ちすぎたのでしょう」

「ハールマン。君、アレ、目で追えるんだ」

 あんなブレブレで人かどうかも分からない動きが見えるなんて。やっぱり君もとんでもないんだね。


 だがそんな恐ろしい時間は勇者様がどこからか剣を出現させたことで終了する。

 それまで切りかかっていたライアンさんが手を止めて様子見に入ったのだ。

「ふむ、さすがに剣技で勝てるとは思っていないようですな」

「ハールマン、君分かってて言ってるよね。あの手足の動きを見たら普通は勝てるなんて思わないよね」

 現にライアンさんは距離を取って一息ついている。


 そろそろ限界なんじゃないかな?


 そんな考えがボクの頭の中に浮かんでくる。

 だがエリート中のエリートであるライアンさんの攻撃は剣だけでは終わらなかった。

「クッ、勇者として呼び出されただけの事はある。だが私とて王女を守る騎士の端くれ、剣を振るばかりが能ではない!」

 そう叫ぶや否や片手を勇者様に向けたライアンさんは、目の前に魔方陣を展開。

「貫き通せ、[ファイヤーランス]!」

 うねりを上げる炎の槍が撃ち出された。


「おお無詠唱での中級魔法とは。さすがはライアン殿!」

「これならあの勇者とかいう馬の骨がいくら接近戦に優れていても関係ない。魔法となってはお手上げでしょうからな!」

 他の国の偉い人達が、ライアンさんの高い実力に称賛を送る。

 さっき見せたスピードを考えればアッサリ躱されそうなのに……。彼らの頭の中には『勇者は真っ向から受けて立つ』という決まり事でもあるのだろうか?

「ふむ、まあ確かに大した実力のようですねぇ」

 のんきに見学を続けるハールマンが、ライアンさんの評価を少し上に修正する。

「うん。でもどっちにしろあれじゃあ……」

 躱す躱さないに関わらず、父上を圧倒した勇者様相手には足りない。届かない。

 それほどの差が2人の間にあるのだ。


 事実ライアンさんの撃った[ファイヤーランス]は、勇者様の持つ鞘付き剣の一振りで、いとも簡単に霧散してしまう。

「ば、バカな……」

 ライアンさんは目の前で起きた現象に目を見張って驚いていた。

「なるほど、今度は魔法ですか。だったらコッチはコイツです!」

 そして楽しそうに笑う勇者様の前に、一瞬で、しかも7つもの魔方陣が展開される。


「『×7 サンダー』!!」


 響く雷鳴と視界を覆う稲光。

「なっ、上級……」

 ライアンさんは何かをしゃべろうとしたが、撃ちだされた魔法がそれを許さない。魔法陣から飛び出た7つの雷が一瞬で殺到する。

「ガッ」

 叫ぶことさえ許さない魔力の塊が、対象の意識を無慈悲に刈り取り、攻撃を受けたライアンさんが白目をむいて床へと崩れ落ちた。


「ほうほう、中々にあくどい真似をしましたねぇ。『まずは』とか言っていましたけど……」

「うん。今の攻撃はどこからどう見てもトドメだったね」

 そして魔法の知識がそこまでじゃないボクですら分かる事がもう一つ。


「今の魔法、アレ絶対に奥義とかそういうのだよ」

 ボクにはどんな魔法が、どうすごいのか。何てまだ分からない。だけど何かとんでもないモノを見た事ぐらいは理解できる。

「×7 サンダー……」

「どう聞いても髪型の説明ですな」

 勇者様の魔法は色々な意味でズバ抜けているみたいだった。



ども、谷口ユウキです(-_-)/


と、いう訳で『代名詞』編? でした。

このワンアイディアから発展したキャラだったので書けてよかったです。


それにしても『ボク』視点は書いててたのしいですねw

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