第五話「ボクは酔い覚ましの光を見た」
お久しぶりです。
ヤツ等が帰ってまいりました。
「静まりなさい!」
勇者さんの奇をてらった登場に、動揺し、静まり返り、ざわつきはじめた広間の混乱を収めたのは、その場の空気を打つような凛とした叱正だった。
聖女リナ たしか18歳 [神官]
僕の国、[魔法大国マギア]のお隣である『神聖国家アグネス』の第一皇女だ。
リナは静けさを取り戻した場を見てうなずくと、勇者様に向かって魔力を集めた片手を振り上げた。
近くにいる文官たちの集まりから『あの不埒モノに神の鉄槌が下るぞ』という声が聞こえてくる。だけどそれがありえないことも分かりきっていた。
リナが信仰するのは慈愛と始まりの神マーリア様で、[神官]のジョブを持ち王族でもある彼女の立場は聖女。『神聖国家アグネス』では、その力は人々の救済に当てられるためにあるものであり、決して人を傷つけるために使われるようなモノではない。と、いうことに表向きはなっているのだ。
立場上天罰とかは多分無理……なはず。
現に顕著した魔法は治癒の効果を持つスキルだった。
「神よ、汝が癒しの祝福を彼の者に……[キュア]!」
「ほう、状態異常回復の神聖魔法ですか。たかだか酒に酔っただけで一国の皇女を駆り出すとはさすが勇者殿。色々とスケールが違いますねぇ」
「ハールマン。何か楽しそうだね」
軽い気持ちで口にした僕の質問に、ハールマンは楽しそうに笑って答えてくる。
「それはもう、昔戦った誰よりも強大なプレッシャーを放つ存在ですからねぇ。その上見ていて面白いとなれば、 もう楽しむしかないではありませんか」
「え、ハールマン?」
「失礼。寝不足吸血鬼の冗談です。忘れてください」
「でもその冗談、実行してるよね?」
それにしても勇者様ってそんなに強いんだ。……そういえばハールマンの昔の話って聞いたことが無い。
「昔……かぁ」
ボクは、勇者様へと伸びていく祝福の光を見て、ふと昔受けていたハールマンの授業を思い出していた。
2年ちょっと前だっけ。なんだかあの、のんびりとした時間がすごく懐かしい。
あの頃のハールマンは、今よりも、もうちょっとだけシャッキリしていた。
確かあの時の[神聖魔法]の授業では、術者の魔力を供物にすることで神の奇跡を呼び起こす魔法だとか、信仰する神様の性格によって、神官の使えるスキルの効果は強くも弱くもなるのだと教えられた。
比較的戦うのが好きな神様に仕えている神官の場合は、攻撃用のスキルの威力がレベルと一緒に上がりやすくなり、癒しの神様に仕えている場合は治療用スキルの効果が大きくなる。といった具合に、神様と術者との距離が近い。
だから悪いことをしていた高レベルの[神官]が神様の怒りを買い、寝ている間にレベルが20近く下がっ話や、嘘をついて無理やり治療を受けさせようとした協会の患者にスキルを使ったら、癒しの光が患者をよけたなんてこともある。
『結構神様任せなジョブなんだ。まああのリナお姉ちゃんのジョブだもんね』って習ったときに思ったっけ。
そしてそんな話でしか知らない現象が今、僕の目の前で起きていた。
「様子見に徹してますねぇ」
「様子見に徹してるね」
聖女であるリナから放たれた、神の意志と力が宿っている癒しの光。ソレは今ボク等の目の前で勇者さんを取り囲み、そしてある一定以上の距離を取りながらクルクルと回っていた。
最初は治療するのを嫌がったのかとドキッとしたけれど、そういう訳でもないみたいで、時折伸びた光の一部が、ツンツンと勇者様をつついている。
「おひひひひ、回るまわーる。めりーごーらーうんどー」
勇者様は一貫して楽しそうだ。
「まあシャレにならない力の持ち主みたいですし、神も引いてるんでしょうねぇ」
神様が引くんだ。
「それ勇者様が悪の大魔王みたいだね」
「ふむ、それはまたまた言いえて妙ですねぇ。まあこのままというのも何です。少し手を打ちますか」
「え、何とかできるの?」
相手は神様なんだよ!?
けれどボクの驚きに対してハールマンはさも当然の様に頷いて光の方へと歩いていく。
一体どうするつもりなんだろう?
ボクがちょっとワクワクしながら様子を見守っていると、癒しの光へと近づいたハールマンは天井を見ながら一言二言、まるで世間話をする様に口を動かした。
するとハールマンの言葉に反応するかのように、癒しの光が勇者様を取り囲み、状態異常である[ 酔い]を直し始める。
戻ってきたハールマンはとても満足そうだった。
「すごいよハールマン! でも、一体どうやったの?」
「なぁに『ここでこの男を正気に戻しておかないと、貴方様の大事な聖女ちゃんに何が起こるか分かりませんねぇ』と囁いただけの事ですよ」
「神様……親バカ?」
「シッ、王子、滅多な事を言ってはいけません。いくら本当の事でも相手は神様なんですから」
「えーっと、ハールマン。今さりげなくボロクソに言わなかった?」
「ふむ。とにかく勇者殿が正気に戻ったようで一安心ですな」
「あー、うん」
まあいいか。今は成り行きを見守ろう。
未だざわめきの収まらない中、ボクは正気に戻った勇者様の動向を見守るべく、広間の中心へと視線を向けるのだった。
ども、谷口ユウキです(-_-)/
少し文体が変わりましたが、ギャグ坂減はそのままでいくつもりです。
長らく更新が遅れてしまい申し訳ありませんでした。
次回はこの小説のタイトル……というか主人公のビジュアルの由来? みたいなのが出てくる予定です。