第四話「ボクは失礼な登場シーンを見た」
まさかのパソコンの故障。
前回前書きに書いた「今月はもう一話投稿」はギリギリのギリギリとなりました。
「ああああ僕はその場の勢いで何て事を。まさか勘違いだなんて……。うおぅ、何と言う罪悪感。かくなる上は死んで詫びを入れるか? ……いや、無理」
「くぅ、何てことだ。私の目の隈は周りから見れば夜遊びの証明なのか……。はっ、まさか陰で『夜王』とか言われてるのも『徹夜王』ではなく『夜遊び王』の略? う、鬱だ。死にたい、のに死ねない」
「2人とも……」
ああ、ボクは一体どうすればいいんだろう?
よく分からないがいきなり勇者様に自殺願望が芽生えてしまった。
いきなり世界滅亡の危機である。
なのにこんな時にもハールマンはいつものように『死にたい』なんて言ってる。
……もしかして勇者様にハールマンの病気が勇者様に移ったのだろうか?
だとすればこの発作(?)が収まるまでに少なくとも半刻は掛かる。
「父上にすぐ連れてくるように言われてるのに……」
だが目の前の現実はいろんな意味で絶望的だ。
「しに……はっ」
あ、危ない。あと少しで飲まれる所だった。
結局ボクは自分の無力さを嘆きながらじっと彼らの発作が治まる事を待つ事しかできないのだった。
「あ、そうですか。王様の呼び出しですか。言ってましたねそういや」
その後どうにか正気に戻った勇者様に状況を説明したボクは、まだブツブツ言っているハールマンを連れて父上の待つ謁見の間へと向かっていた。
「はあ、国王から呼び出しとかいきなりハードル高いよなあ。王冠かぶったオッサンの前で僕に何を言えというんだ」
勇者様は少し顔色が悪い。ここはボクが勇気づけないと!
「しっかりしてください勇者様。今日は勇者召喚の報を聞きつけた他の国の大臣さんや騎士団長さんも謁見の間で勇者様を待っています。
「さらにハードルが上がってるし……」
どうしたのだろう?さらに顔色が悪うなってしまった。
けれど心配するボクを見た勇者様はにっこり微笑んでどこからか何かのビンを取り出した。
「だ、だだだ大丈夫ですよ王子様。こ、こんな時はこの[神酒 バカ酒]のようなアルコールの強いお酒を飲めばいつものように全て丸く収まってますから」
なるほど。ボクも敵の将軍と話を交わす時にあえてお酒を飲む事で場の雰囲気や相手に飲まれない自分を作った将軍の話は聞いたことがある。
きっと勇者様も父上やほかの国の騎士団長達に気後れしない様にお酒を飲むのだろう。
するとここで今までブツブツ言っていたハールマンが慌てて勇者様に話しかける。
「ま、待ってください勇者殿。そのお酒は強いなんてレベルでは……あー、飲んでしまいましたねぇ」
「ハールマン。何を言おうとしたの?」
「いえ、今この勇者殿が一気飲みしたお酒は、とある酒の神がどんなに酒に強い者でも絶対に酔えるようにと作ったものと言われておりましてねぇ。飲めば酔う事は確実。どんな酒豪、聖人、賢者であろうと確実にヘベレケになってしまうのですよ」
「それって……」
「まあどんな者もバカになってしまうという皮肉のこもった品名ですからねぇ」
「そんな、もう勇者様はあのお酒を飲んじゃってるんだよ?」
「ええ。つまりは手遅れという事ですねぇ」
「ゆ、勇者様、大丈夫ですか!?」
あわてて勇者様の様子を窺えば顔は真っ赤。息は酒臭い。
「ぼんじゅーるオオジジさーま」
「そんな老けて見えます!?」
い、いや、目にまで酔いが回っているのだろう。
「あのれすね、もふふふふふ」
ああ、もう何を言ってるのかも分からない。
「こ、これはダメだよハールマン。ただでさえ父上はこの勇者様を良く思っていないんだ。そんな父上が今の勇者様を見たら……」
「まあ絶対に殺そうとするでしょうねぇ」
「ど、どうしよう……」
「王子様。そう悲観することもないんじゃないかと思いますよ。法王ではこの勇者は殺せませんから」
「え?」
「あの勇者は強すぎるんですよ。おそらくこの国など1晩で滅ぼせるくらいの実力は持っているでしょう」
「国を……滅ぼす?1晩で?」
「ええ、彼はそのレベルの化物ですよ」
ハールマンは諦めたような表情で走り出した勇者様を見ている。
でも今の言葉は本当なのだろうか? この国には優秀な実力者が何人もいる。
そんな父上の国を1晩で滅ぼすなんて。というよりそもそも滅ぼすこと自体が不可能に思えるんだけど。
するとボクの考えている事が分かったのかハールマンは覚えておいてください。と前置きを入れて悲しそうに語り始める。
「圧倒的な暴力というモノが存在するこの世界では数や権力などというものは所詮お飾りにすぎません。全てをチリにできるような力の前では抗おうと抗うまいと相手にとっては大した違いなど無いのです」
「ハールマン?」
君は一体何を……?
「おっと、妙な話になってしまいましたねぇ。今はあの勇者殿を追いましょうか。昔からこの城を知っているかのような迷いの無さで謁見の間へと走っていますからね」
「あ、そうだ勇者様!」
ハールマンに気を取られている間に勇者様は廊下の角を曲がろうとしている。
「いそいで止めないと」
このままだと城内の皆にあらぬ誤解が生まれてしまう。
けど追いかけても向こうがすごいスピードで走っているせいで中々追いつけない。気の力で身体能力を限界まで底上げしてるというのに勇者様の千鳥足と同じペースだなんて。
でも一番の問題は勇者様がちゃんと謁見の間に向かっている事かもしれない。
本当に城内の構造が分かってるみたいだ。迷うことなく謁見の間に進んでいる。
そしてとうとう勇者様が謁見の間の入り口。大扉の前に到着してしまう。
「とろろろろろろーん」
ああ、なんてことだ。あろうことか勇者様はまるで舞を舞うかのように手足を動かしながら勢いよく謁見の間の大扉を蹴り開けてしまう。
こんな無礼な行為。父上は絶対に許さないだろう。
「あーひゃひゃひゃひゃひゃひゃー!」
謁見の間に千鳥足で。しかも文字通り踊りこんでしまった勇者様はまるで鳥を表すかのような手のまま片足を上げた状態で浮かび上がる。
「ああ、『こくさい問題』になっちゃう」
この謁見の間にはほかの国の大臣さんや騎士団長さん達があつまっているんだ。
このあまじゃ絶対に怒って帰ってしまう。
自分が何をしているのか理解していない人がこんなにも怖いなんて。
でも今のボクには気が気でないまま事態を見守る事しかできない。
父上も大臣もボクの知っている騎士さん達も、そして中にいた他の国の重鎮さん達や騎士団長さん達も目の前の光景についていけずに言葉を失っている。
そして静まり返った謁見の間の空気に耐えかねたのか僕の近くにいた1人の騎士がポツリと呟いた。
「嘘だろ……ラリってやがる」
『らりって』ってどういう意味の言葉なんだろう?
ボクは初めて聞く言葉に首をかしげる。
けれど父上の騎士がそういうんだからきっと勇者様は『らりって』いるんだとボクは思う事にした。
ども、谷口ユウキです(-_-)/
パソコンの不調にて先週の投稿がストップ(泣
こうなるともう一台パソコンが欲しい!と思いますね。
次回はいよいよ物語が転がり始めます。
なにかと行き当たりばったりな話なんで多分奈落の底までまっさかさまです。