第三話「僕は憎っくきイケメンを見た」
月一投稿なのに先月投稿してないっ!
……こ、今月はもう1話投稿します。
「何という事だ……」
異世界召喚に勇者ときたらイケメンチートのハーレム物語。
そんな漠然としたイメージを持っていただけに鏡を見た時の精神的なショックは大きかった。
「こんなイケメン補正があっていいのか!?」
目の前にあるのはイケナイ面子、略して『イケメン』である。
「認めん、こんなマイナス補正を認めてなるものか!!」
苦悩と恨みを込めて鏡に向かって吐き捨てる。
2Dと3Dの中道にまっしぐらな顔はいくらなんでも生物として無いだろう!
せめてどちらかに傾けよ!
などと他にも言いたい事は沢山あるが今の僕にその感情を言葉に表すだけの気力は無い。
というか暴言がすべて鏡に跳ね返されて自分に返ってくるだけに、言うに言えない。
とりあえず第一印象が大事な人間関係において大きなハンデを背負った事だけは間違い無かった。
「さようなら。僕のハーレム……」
僕は悲しみにくれながら自分の偉大なる野望へ別れの言葉を口にする。
男のロマン。ぶっちゃけて言えば妄想の結晶。
その夢のような煌めきは所詮空想上の幻という事か。
その後、僕が落ち着くのにしばらくかかったのは不可抗力と言って良いだろう。
「フウ、でもこのキャラの顔まで同じという事は……[アイテムボックス]!」
目から溢れた謎の汁を拭き取り、自分の外見の変化によるダメージからある程度回復した僕は古今東西、異世界召喚モノの物語に出てきた偉大なる先人たちの前例に従いお決まりの言葉を口にする。
すると想像通り、ゲームで見慣れたアイテムボックス画面が視界の中に出現した。
「こっちも完全にゲームと同じか」
ゲーム会社も真っ青の完全なるチートである。
「とりあえずコレ以上鏡の前で立っているのはよろしくないないな」
画面を見る今の僕は、周りから見たら人間離れした顔を鏡でじっと見つめている様に見えるはず。
コレ以上ナルシスに見える行為を続けるべきではない。という結論に至った僕は部屋の前で待っているチャールズ王子の所へと向かうのだった。
「うあお、本当に廊下」
自分でもどうかと思う部屋を出た後の第一声。
だが許してほしい。未だにゲームの世界への異世界召喚と言うジャンルのゴッチャな事態に戸惑っているのだ。
ゲームにあった小型レーダーマップの表示やスキル項目欄まで視界に置く事が出来るのだから本当に訳が分からない。
しかもそのレーダーマップにスキルで姿を隠した何者かの表示が映っているのだ。
その何者かは索敵や追跡に優れた[狩人]と[探索者]のジョブレベルをカンストさせ、なおかつ[探偵]のジョブを持った僕に隠密系スキルが通じない事を知らないのだろう。
息をひそめるようにジッと動かない。
この人、王様相手に大狼藉を働いた僕に対する刺客か何かだろうか?
一応牽制として、それと争う気が無い事を伝えるためニコヤカな笑顔で手を振ってみる事にした。
レーダーマップ上でピクリと動いたのを見ると、どうやら分かってくれたみたいだね。
気配をスキルで消した状態のまま、ココから少し離れた場所へと移動していく。
おそらく少し先のソファーに座る王子の側へ護衛として付くのだろう。
「話の通じる相手で良かった」
さすがにお城の中で戦いたくはないし人を殺すのも勘弁したい。
僕は物わかりのいい相手で助かったと安堵するのだった。
するとそんな僕の声が聞こえたのか王子がこちらを振り返り、まるでヒーローを見るかのようなキラキラとした笑顔で駆け寄ってくる。
デパートのヒーローショーを演じるの中の人バイトを思い出す。なんとも居心地が悪くなるものだ。
フ、王子といってもまだ青臭いガキという事か。
……やりづれえよーう。
「勇者様。身支度は終わったんですか?」
「え、ああ、うん。待たせてしまって悪かったね」
「いえ、問題ありません」
「そ、それならいい」
ど、どうしよう。この子ものすごい人間の出来た子だ!
信じられないくらい礼儀正しい。コレが小学生くらいの子供の対応か!?
僕の小学生時代の思い出を掘り返したら秘密の黒歴史しか出てこないというのに、なんと言うレベルの差。
王族ともなると小さなころから仕込まれるのだろうか?
それによく見たらこの王子、顔の構成パーツもバランス良くそろっているいわゆる美少年と言うヤツではないか。
やはり王族ともなるとやっぱり美男美女の血筋なのだろうか。
こちとらキワモノフェイスに成り下がったというのになんという格差社会。
これが生まれと育ちの差か。
だが、悲嘆にくれ妬んでいる場合ではない。
僕は『滅べイケメンめ』と言いそうになるのをかろうじて我慢しつつ、とりあえず聞いておいた方が良さそうな事を聞いてみる事にした。
「今さらだけど君には敬語を使った方がいいのかな?」
あんまりにも今さらだが『ハッキリさせておくべきだ』と脱サラ廃ゲーマーニートとしてのコミュ勘が告げている。
「えっと、それなら……」
「やはり敬語は使っておいた方が良いでしょうねぇ」
「ほーう、ここで出てくるか」
僕の質問に答えた相手は意外や意外。
今まで姿を隠していた刺客(?)さんだった。
「へえ、しかも NPC専用種族とはね」
目につくのは体長の悪そうな肌の色と甘い鷲鼻マスク。それにに目の下に黒々と刻みこまれた深い隈だろう。
肌の色から察するに種族は[バンパイア]。いわゆる吸血鬼らしかった。
『アルジャンワールド』ではNPC専用種族として敵にも味方にもなるキャラだったが、敵として出現するイベントではかなりの強敵として出てきた覚えがあるチート種族。
しかも皆美男美女と言うとんでもない設定のオマケつきだ。
……滅ぼしてやろうか?
いや、落ち着くんだ僕。八つ当たりはいけない。
しかしそこで僕はある事実に気が付いた。
そう、目の下にクッキリできたドス黒い隈だ。
イケメン+隈=毎晩の夜遊び。
…………ガッデムーア、まさにギルティーの化身である。
「は、ハールマン!一体いつからソコにいたんだい?」
ただ一人接近に気付かなかった王子の声が廊下に上がる。
「さて、いつからでしょうねぇ?もっともそちらの勇者殿は姿を隠した私の位置を最初から把握していたようですが……」
「ええ?」
チャールズ王子の顔が驚愕に彩られる。
けれどそんな事は所詮些末。今の僕にはそれよりももっと大事な事がある。
「そう、問題はお前だ吸血鬼!」
「はい?私がどうかしましたか?」
僕の言う『問題』という単語にピクリと反応しつつ余裕の笑みを浮かべてこちらを見る[バンパイア]。
あの見下したような視線。
おそらく僕が何を言おうとしているのかを理解した上で聞いているのだろう。
上等だ。この喧嘩、遠慮なく売ってやるさ!
「その、その目の下の隈はなんだ!」
素早く覚悟を決めた僕は挑みかかるように舌戦の口火を切るのだった。
「ハイ?」
[バンパイア]の虚を突かれたようなリアクション。
く、何と言う演技の上手さだ。まるで本当に驚いているように見える。
だが僕は騙されない。さっきのコイツの目はこちらの出方を読み切った確信に満ちていたのだ。
きっと王族の前で恥をかかせて心象をドン底に落とすつもりなのだろう。
そういう意味ではこれ以上口げんかをするのはよろしくない。
でも、もう止まれない。止まらないんだ!
「聞こえなかったのか?その目の下の隈は何だと言っているんだ!……いや、言わなくても僕には分かる。そう、ソレは綺麗なオネイサン達とイチャコラ夜更かししすぎてできた隈なんだな!?」
そう、このイケメンだけは許すことができない!
「……ハイ!?」
吸血鬼の顔が信じられない物を見る目つきに変わる。
ハイクオリティーな演技でシラを桐等好きだな。だが騙されはしない!
僕は畳み掛けるように、抑えきれない感情をこめて吸血鬼を責め立てる。
「うらやましいにもほどがある。というか何故貴様なんだぁ!!」
「あの、勇者殿、この目の下のクマは別にそういう理由でできたのでは……」
コイツ、僕に話すだけ話させた挙句、今度は話すをすり替えようというのか!?
そうはさせない。ここで一気に決める!
「とぼけるなよこのハーレム野郎! 僕の夢をかっさらっておきながらそう簡単に誤魔化せると思うな!!」
「いえ、ですから……」
コレで、終わりだぁ!
「シャラップ、ぐだぐだ言うなら滅びろこのイケメソ!!」
「イケ……メソ。……そ?」
フッ決まった。
僕はガッシリとした手ごたえを心の中で掴む。
そして僕の生み出す廃な雰囲気に飲まれた空間の中、ハールマンとか呼ばれていた吸血鬼はガクリと床に両膝をつくのだった。
「何故だ、どうして、どうしてそうなる!」
自らの罪深さを思い知り苦悩の声を上げる吸血鬼。
僕はそんな相手を見下ろし、戦いの勝者として言うべき言葉を口にした。
「恨むならイケメンに生まれた己自身を恨むんだな」
万人の心の声を代表した素晴らしい決めゼリフと自負しております。
このすぐ後に、両膝を床に着いた吸血鬼の隈が仕事の激務によるものだという現実を王子の口から聞くことになるのだが、幸か不幸か今の僕はその事をまだ知らないでいたのだった。
ども、谷口ユウキです(-_-)/
まあ今回の話を見て何となく分かったと思いますがこの七三話は本編よりも色々とカオスで、しかも下ネタと勘違いの多さが売り(?)な感じになっています。
ご容赦下さいW
次回はボク視点になります。